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第六話 二日目の幕開け


 激動の一日目が終わったところで、高校生活が終わったわけではない。寧ろそれが始まりと言ってもいいだろう。何処かの偉い人も言っていたはずだ。終わり良ければすべて良し、と。しかしながら、やっぱり過程も大事だとは思う。終わりが良ければ良い訳がない。終わりが良いからといってそこまでの部分を最悪であれば良いわけがない。

 というわけで二日目の今日も朝から高校へと向かう坂を上っていくわけであって。


「よう、今日も頑張っているな」


 既にくたくたしている様子を見せながら俺の隣に駆けてきたのはクラスメイトの篠田だった。クラスメイトと言っても今のクラスになったのは昨日からであったが、篠田は食堂で偶然俺と隣同士になって話が合った結果、こんな感じになったというわけだ。

 篠田は溜息を吐きつつ話を続ける。


「それにしてもこの学区の高校は、どうしてこんな山の上に建てたんだろうな? 中学校は山の下にあるし、畑もそれなりにあるんだから土地が無いわけじゃないだろうに」

「昔はあの辺りが土地は安かったらしい。だから、その一帯を買い取ってあそこに学校を作ったらしいぜ」

「へえ。博識だねえ」

「中学校の図書館にある本はある程度読破した自信がある」


 勿論、そんな自信は不確定要素なのだが。

 というかそんなもの誇ったところで空しくなるだけだ。


「……というかさ、お前も変人だよな」

「何が?」

「だってさ、あいつと一緒に同好会開いたんだろ? 驚くぜ、正直言って」

「……ああ、そういやお前は西が丘中だったか」


 因みに俺は中島中、山の反対側にある中学校の出身だ。高校からの位置関係で言えば、山の上にある高校を中点として中島中と西が丘中が直線上に存在している状態、とでも言えば良いだろうか。

 なんやかんやでこの街も広い街だし人もたくさん多いためか、中学校まではたくさん存在している。しかし高校にもなると量は格段に落ちる。高校だけでも公立と私立、さらに高等専門学校まで選択肢があるのだから、中学までのクラスメイトと一緒に居られる可能性は減っていく。


「そうだよ。西が丘中。それも三年間あいつと同じクラス! ひどい確率だと思わないか?」

「……やっぱりあいつって、中学の時も酷かったのか?」


 酷い、というのは性格という意味だ。

 確かに他人の意思を無視して行動しているように見えるが、それだけなら一人くらい居てもおかしくないだろ?


「おかしくないだろ? って思っているだろうな。何というか、そういう考えだからこそ、お前のことをあいつは気に入ったのかもな」

「明里が? 俺のことを? まさか」

「だって考えてみろよ。そんな一日で一緒に同好会を開こうと言ったってことは、何かお前に光るモノがあると見抜いたんじゃないか? 何せあいつは『天才』だって言われているからな」

「天才?」


 もうすっかり俺は篠田の言葉を反芻するだけの存在と化していた。


「そ。受けるテストはすべて百点。授業は受けるだけ無駄と判断したからか常に寝ていた。それが沢宮明里という人間だ。もし出席点という価値がなかったら授業すら受けてなかったかもしれないな」

「そんな頭が良いのか、あいつって」

「そうだよ。だからどうしてこんな県立高校に入学したのかが分からない。普通ならもっと上を目指しそうなものなんだがな。あの成績で高校でもあぐらをかいて生きていくつもりなのかね?」

「そんなことを俺に言われても知らねえよ」


 俺は失笑してそう言い返した。

 話をしていると、気付けばもう校門まであと少しというところまで来ていた。

 今日から授業が本格的に始まる。もし後ろの席に座る明里が授業中に暇を弄んで俺で遊びだしたら面倒なことになる。お世辞にも俺は頭が良い方だとはいえない。だから最初の段階で躓いたらその後の高校生活に響く大きな問題になる、というわけだ。お小遣いだって減らされるかもしれない。お小遣いを減らされたらそれこそ死活問題だ。減らされたくないなら成績を落とすな。それが我が家の鉄則だ。じゃあ最初のテストを低い点で取ればあとは上がるだけなのでは? という極論に落ち着いてしまうわけだが、一般的に考えて赤点未満を取れば『悪い』ということは誰だって分かるはずだ。確か赤点はテストにおけるその平均点を出していたはずだ。となると、やはり勉強は出来ておいた方が良い。

 こうして俺の高校生活、二日目が幕を開けるのだった。



 ◇◇◇



 あっという間に放課後となったので、俺は部室の鍵を持って部室棟へと向かっていた。

 それにしても俺はどうしてここを歩いているのだろうか。明里に無理矢理入部させられて、正直言ってあそこの後は無視してしまっても良かったはずなのに。今日の部活動だって無視してそのまま帰ってしまっても良いのだ。

 だが、俺はここにいる。ここを歩いている。それは無視したら明日以降の背後の安全が確保出来ないだとかそういう単純な理由ではない(勿論それも考えていたが)。


「じゃあ、どうして俺はここにいるんだ?」


 分からない。

 きっとそれは永遠に、分からない。

 俺が俺である意味と同時に、永遠の謎と化してしまうのかもしれない。

 或いはいつの間にか無意識のうちに部活動に来いとすり込まれていたのかもしれない。もしそうだとすれば何という洗脳能力。きっと宗教組織の教祖になることが出来るだろう。


「しかし初日から遅刻とはどういうことだ?」


 正確には遅刻というよりかは、用事があるから少し遅れる、という話だった。遅刻には変わりないのだが用事があるなら猶更俺は行く意味がないように思える。

 だが、あの部屋は明里がいない今プライベートルームと同義だった。家の部屋は妹がノックをせずに入ってくるからプライベートもクソもない。何かに勤しんでいたとしても、突然入ってこられては困る、というわけだ。だからといってあの部屋でそんなことをするわけがないのだが。

 そんなことを思っていたら、俺は部室棟の前に到着していた。

 そして記憶探偵同好会の部室の前に一人の女子学生――舞が立っていた。



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