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第二十三話 沢宮博人


「ここよ」


 目の前にあったのは広大な屋敷だった。豪華絢爛、とまでは言わないがきっとここに住んでいるのは大金持ちか何かだろう――と考えて先程の明里の発言を思い返す。

 今から向かっているのは、記憶探偵としての立役者が住む所。

 恐らく、HCH等の機械のメンテナンスなどのサポートをしているのだろう。明里一人でやっている可能性も考えられるが、流石に万能過ぎる。

 ここに住んでいる人間は一体誰だ。そう思いながら表札を見ると、


「……沢宮?」

「うん? どうかしたの、ワトソンくん。急に私の名字を呼んだりして」

「いや、ここの表札を読んだだけなんだが……。まさか、明里、ここってお前の家なのか」

「そうよ。私の家。何か問題でも?」


 問題は別に無いが――ということはさっき言った人間をここに住まわせているのか? いや、或いは明里の親族の可能性が高い。

 いずれにせよ、もうここまで来たら見極めるしかないのだが。

 そうして俺たちは明里の家へと入っていく。玄関を入ると、案の定、というか想定通りの巨大な空間が広がっていた。二階まで吹き抜けになっている玄関は、まるで西洋の城か何かだ。


「……こっちよ」


 誰も出迎えてくる様子は無いらしい。これくらい大きな家ならばメイドの一人や二人ぐらい居てもおかしくは無いだろうに。

 二階に上がり、右の廊下、突き当たりの一室にノックをして入る。


「これは……」


 そこに広がっていたのは、一面が機械の部屋だった。そして部屋の奥からは何かほのかに明るい光が見える。


「……相変わらずね」


 そう言うと明里は締め切ったカーテンを思い切り開いた。

 日光が部屋に直接入り明るく照らし出される! 機械の類は熱に弱いから、ずっと作業をしていた小太りの男性は大慌てでカーテンを締めようと立ち上がるが――。


「おや、明里じゃないか。まさか君がやったことだっていうのか」


 シャーッ。カーテンを締めながら、明里は頷く。


「だってこれぐらいのことをしないと気付いてくれないでしょ」

「それはそうかもしれないけれど……。でも機械には熱を与えちゃいけないことだって知っているだろ? いくら何でも強引過ぎるよ、やり方が」

「それは悪かったわね。でもどうせヘッドフォンをつけていただろうから、声も聞こえなかったはずだけれど? 背後から狙われたら、あなたおしまいよ?」

「それはそうかもしれないけれど……」


 どうやらその小太りの男はそれが口癖のようだった。

 自信がない性格なのだろうか――なんてことを考えていたら、明里が急に右手をそちらに向けて、


「紹介するわね。こちら、私のお兄ちゃん。沢宮博人。うちは元々研究者気質だったからか、それを一つに受け継いじゃったのがお兄ちゃんかな。HCHも、作ったのはお兄ちゃんだからね」

「……凄い人なんですね」


 舞は目を丸くしながらそう言った。理想的な答え、とでも言えば良いだろう。

 対して俺は、直ぐに反応することが出来なかった。明里が作ったわけでは無い、十は思っていたがまさかこんな小太りな人間が? 大食いコンテストなら余裕で優勝出来そうな、或いは相撲の新人テストなら余裕で合格出来そうな恰幅のある人間が、科学者?

 いや、そこについては見た目をあまり気にすることはないのかもしれないし、気にしたら負けなのかもしれない。いずれにせよ、彼はどこからか取り出したどら焼きを食べながら僕たちをじろじろと見つめている。話をしながら食事をするとはデリカシーのない奴だ、とは思うが何せ客人はこちらだ。あまり気にしてはいけないものがあるだろう。


「……で、結局何の用だったの?」

「ああ。実は学校で記憶探偵をやることになってね。これがそのメンバーってわけ」

「彼らにも、記憶の海へダイブさせるというのかい? だとするとチューニングが大変だし、それこそ人間の脳の解析を行っておかないといけなくて……」

「違う、違うわよ。最後まで話を聞いて。彼らは単なる雑用係。別に記憶の海へダイブさせるような危険な行為は少なくともやらせるつもりは無いから」

「危険な行為という自覚はあるんだね……」


 頷いた後、


「明里の知り合いなら問題ないと思う。僕の名前は沢宮博人。彼女のサポートをしている。ま、しがないエンジニアだと思ってくれればいいよ。よろしく頼むね」


 そう言って彼は握手を求めてきた。だから俺もそれに賛同した。

 彼の手は大きくて、少しだけ脂ぎっていた。


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