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闇の持ち主


怒涛の波ように打ち付ける雨音ーー轟く雷鳴。雲がけわしい灰色に光り、次々に流されていく。


騒がしい外とは、対照的に物静かな部屋。

大理石作りの高貴な部屋が冷んやりと氷が張ったように静けさを増す。


「珍しい嵐ね、何かの前ぶれかしら」


茶色い髪のふんわりボブカットの六十センチ位の小さな女の子がヒラヒラと舞うように浮いてる。


「そうだね。 何かあるとしたらそれは予期せぬ出来事かもしれませんよ」


不敵な笑みを浮かべた青年。

目を開いているのか分からないほどの狐目をして銀髪でアシンメトリーな前髪で顔半分を隠している。青い聖騎士の鎧と深紅のマントに独特の金色の十字のネックレスを首から下げている。


そんな彼は部屋に置かれたベッドに腰掛けている。


「ヴィル、何か企んでるわね?」


「ふふ、思い過ごしだよミリア」


ヴィル・クランチェーー帝国騎士団で騎士団長 トーマス・ガルフォードに次ぐエース的な存在である。


今最も勇騎士に近い存在と言われてる。


過去、勇騎士と呼ばれた男はただ一人、

伝説の騎士 サーガのみである。


勇騎士とは、この称号は全て世界各国を無条件で行き来き出来ると同時に、帝国政治サミットの参加可能など出来る最高栄誉である。


ヴィルは、次の帝国政治会談で勇騎士の称号を授与される可能性があるのだ。



しかしその反面、彼には良い噂だけでなく黒い噂も度々流れているのだ。


「本当かしら? あなたの悪いウワサいっぱい聞いてるわよ」


悪戯っぽく目を細めて疑いの目を向ける。


「本当さ、僕は帝国にこの身を捧げた騎士なんでね。噂はウワサにしか過ぎないんだよ」



ヴィル・クランチェの悪い噂ーー


新聖教クルセーダーズに関与している。


帝国では、宗教は禁止されている。もし宗教団体に関与しているとなれば禁固刑もしくは処刑される。


関与しているのが帝国騎士で更に聖騎士ともなるとその影響は計り知れない。



「ヴィル本当は、どんな楽しいこと考えてるの? あなたの本当の目的はなんなの?」


ヴィルの周りをクルッと回っておどけて見せるミリア。


ヴィルは、ミリアを見向きもせずベッドから立ち上がると窓の外に目をやったーーー



「・・・・・・」


「ヴィル今なんて?」


ミリアには、聞き取れない小さな声で何かを呟いたヴィル。



ーーーその時


ヴィルが振り返ったと同時に雷鳴が轟き、稲光が部屋に差した。


その稲光に映し出されたヴィルの表情にミリアの背筋が凍り付いたーーー


サキュバスであるはずのミリア。人間であるはずのヴィル。


悪魔族が恐怖するヴィルの冷たく突き刺さるまるで感情のない瞳がミリアを見ていた。


ミリアは思った。


この人間は、すでに超えてはならぬ一線を超えてしまっている。もう、ただの人間には戻れないとーーー



★ ★ ★



国王ハロルド三世により王室間に呼び出された帝国騎士団の面々ーー


騎士団長トーマス・ガルフォード、三聖士と呼ばれている聖騎士の三人の内の二人が出席した。ダニエル・カーターとロッシ・ロレッサである。


今まさに国王の前に横一列に並び紅い絨毯の上に片膝を立てて顔を伏せている。


「世界で一番と名高い帝国騎士団が今では全く恐れをなしていない。これはどう言うことだ? ガルウォード」


「はっ。 私の指導不足であります。しかし、確実に若い世代は育っております。時期に成果を発揮してくれると思います」


「時期に?だと、今すぐにでもバンディッツとやらを黙らせろ! 帝国を我が国を馬鹿にしておる!貴様ら帝国騎士団が舐められてるから彼奴らは図におるのじゃ」


「おっしゃる通りでございます。近いうちに必ずバンディッツを叩きます」


「・・・期待はしておらん! 結果で示せ」


「はっ!」



「ーー何なんスか? あの言い方」

「隊長も言い返したら良いんですよ」


ロッシとダニエルは、不貞腐れている。


「実際、結果を出していないからな。言い訳にしかならない」


トーマスは表情を一切変えず正面を向いている。


「ーーヴィルの奴また欠席っスか。もう少しあいつに注意して下さいよ。単独行動ばかりじゃないっスか」


「・・・・・・」


「団長?」


「あっ、ああ、注意しておくよ」


愛想笑いを浮かべるトーマスに首を傾げるロッシ。


トーマスは、気付いていたヴィルの中にある野心に。しかし、それはトーマスの思い過ぎしでそれを注意した事により彼の騎士としての才能を潰してしまうと恐れたこともあった。


若手の成長と世界最強騎士団の再建これが何より最重要だったからだ。その中でも断トツの才能・天才ヴィル・クランチェ。

彼の中にある黒い部分。危険と隣り合わせで確実に正義を貫く帝国騎士団とは真逆に逸れかねない事をしているのをトーマスは何度も目撃していた。


しかし、トーマスは見て見ぬふりをした。


ーーー数ヶ月前


「団長、分かってますよね? 今僕を規則違反や騎士除名にしたら国民はどう思うか?国王に団長自身何と言われるか?そして僕無しでこの先帝国騎士団は機能するのか?」


「ヴィル・クランチェ貴様!!私を脅す気か?!」


「脅す? やだなあ。勘違いしないで下さいよ」


トーマスの耳元でこう囁いたーー


「今後、僕のやる事に対して見て見ぬふりをして下さればいいですよ。ただそれだけです」


それ以降、ヴィルの単独行動は目立った。

それに比例して功績は誰よりも多く上げていた。


「ガルフォード、ヴィルを見習え!部下より功績を残しておらんではないか」


「・・・申し訳ございません」


「国王、騎士団長の指示のもと私は動いたまでです。ある意味、団長の功績でもあるのですよ」


「うぬぬ、なら仕方あるまい。この場はヴィルの言葉を信じよう。下がってよろしい」


「「はっ!」」



「どう言う風の吹き回しだ?今度は何が目的だ?」


「嫌だあ、日頃のお礼ですよ。いつも見て見ぬふりをして下さってるからね」


「ーーーーっ」


トーマスに近づき耳元で囁く。

「これからもお願いします。団長」


肩にポンと手を置きヴィルは去って行った。


トーマスは、身震いしたこれは騎士としての直感だった。明らかにヴィルの中の黒い部分が表に出始めた。


そして、それは危険なところまで来てしまっている事にーー


トーマスは、初めて後悔した。


騎士団長として一人の人生の先輩として彼の行動を止められなかった事に。

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