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第31話:それぞれ

 ルーナデルタが去った後、エクセリオン生き残り組が入れられた牢には、これといった変化は無い。

 彼女が訪れる前と同じ、投獄者の話し声が往来するだけ。

 しかもその内容は、何度も繰り返される同じ問答が大半を占めていた。

「カーナちゃん達、これからどうなるのかなぁ〜」

「さーな」

 牢内中央部で床にへたり込むカーナと、その傍近くで胡坐を掻いているシュウカ。

 所在無く床や天井を見る両者の口より、力ない言葉が流れては何処かへ消える。

 二人が行うのは、殆ど無意識に発す中身の無い会話だった。

「ちゃんとお家に帰れるかなぁ〜」

「さーな」

「イジメられないかなぁ〜」

「さーな」

「何時までも此処に居ないといけないのかなぁ〜」

「さーな」

 意味の薄い無気力な遣り取りは、それからも際限なく続けられる。

 だが時々、彼女等は思い出したように、別の言葉も口にした。

「マシューがいけないんだぞー。あの女の人を怒らせるからー」

「オレの所為じゃねぇよ。オッサンがイチャモンつけたからだろ」

 カーナが唇を尖らせると、シュウカは親指を横向けて、壁に凭れ掛かるタカギを指す。

 話題に上げられた当人は、素知らぬ風で紫煙を吐いた。

「タカぴーがいけないんだぞー」

「オッサンが悪ぃんだぜ」

 床に座したまま、実年齢に精神年齢が追いついていないだろう二人が文句を言う。

 けれども色濃い批判ではなく、相も変らぬ中身のない上辺だけの言葉だ。

「どうでもいいがな、オッサンてのは俺の事かよ」

 いい加減短くなった煙草を壁に押し付けて揉み消し、タカギは視界内の二人を睨む。

 が、それ以上何か言うでもなく、再び壁に凭れて瞼を閉じた。

 タカギが身動きを止めると、カーナ&シュウカはお決まりの会話を再開する。

「これからどうなるのかなぁ〜」

「さーな」

 無為な掛け合いを、壊れたレコードのように繰り返す二人。その声は今や牢内のBGM状態だ。

「室長、貴方なら此処のレーザー格子を無力化出来ないか?」

 通路との境目近くに立つレンが、眼鏡を押し上げながらタカギへと向き直る。

 航宙艦の内外隔絶扉を強制解除出来る男になら、逃走防止用防衛システムを破れるのではないか。そう考えた故の発言だった。

「外部からアクセスする為の作業端末があれば可能だが、それは外側だぜ。牢内こっちから解除するには、壁に穴でも開けて配線関係を直接弄る以外にはない」

 副長の要請に、機関室長は目を閉じたまま応じる。

 手の甲で二、三度後ろ壁を叩き、堅い音を響かせて。

「使えそうな道具は全て没収済みの今、我々の力だけでこの壁を破壊するのは……」

「まず無理だろうな」

 眼鏡のブリッジに指を掛け、思案顔を作るレン。彼の言葉を引き継いで、タカギは一言に否定する。

 状況の打開し難さに表情を曇らせ、年若い副長は落胆の溜息を吐いた。

「……食事は与えてくれると、言っていたから」

 脱出方を模索するレンを瞳に映し、ルーリーが呟く。

 部屋隅で両脚を抱えるようにして座る少女の言葉へ、床に寝転ぶラウルが同調の声を上げた。

「せやで。今は余計な事せんと、オマンマが運ばれてくるんを大人しく待ちまひょ。腹膨れよったら、いいアイディアも浮かぶかもしれまへんからな」

 無気力というか脱力というか、締まりのないふやけた表情でラウルは語る。

 相手任せの生産性がない意見であったが、実際にそうするしかない事は明確。

 なのでレンも反論などせず、他の者達同様に床へ腰を落とした。今は黙って、状況の推移を待つ為に。



 一方、ルーナデルタは牢区の三階層上方にある艦橋部に居た。

 キリエ達がエクセリオンから見たウィナーツ財団製の航宙艦。それが現在、彼女とエクセリオンメンバーが乗り合わせている艦だ。

 当艦の艦橋構造はエクセリオンと違い、一段のみの平面型。しかしそれを除けば、概エクセリオンと同じ様式である。

 最前方に置かれた操舵席、その後方へ位置する砲撃席、それを挟む右隣の艦内オペレーター席と、左隣の索敵席。この三席を前に見る艦長席と、そこより左斜め後ろへ下がった副長席。

 以上六席の基本配置は資源惑星開発公団の探査艦と同じ。特殊硬性ガラス張りの天窓が、大きく間を取って艦橋前面部に開けているのも同様だ。

 ちなみに艦橋窓から見えるのは、果てしない闇の空間。小惑星群からは既に抜け出ている。

 公団艦との艦橋装で目立った違いと言えば、各座席のシートが反円形であり、着席者の体をゆったりと包む設計なのと、座席それぞれに対応したコンソールが独自路線で開発された最新型というぐらいか。

 コンソールに於いては、ボタン並びが煩わしさを感じさせない機能的配置を意識しており、各基の操作性向上が成されている。表示されるホログラムモニターも解像度が引き上げられ、より詳細且つ大容量の情報展開を可能とした。

 現公団軍所属艦のそれよりも、良質で上等な仕上がりをする。けれど一般に普及しているシステムではない。艦の製造元であるウィナーツ財団オリジナルの仕様だ。

 他に類を見ない新鋭の装置に囲まれて、ルーナデルタは艦長席に座している。

 他所は全て空席。艦橋に居るのは彼女だけ。

 他席に比べ些か豪奢な造りの艦長専用座席に腰据えるルーナデルタは、真っ直ぐ正面を注視中だった。だが彼女の意識は窓外の情景を認められていない。

 吊り上った単眼が視線を注ぐのは、正面窓前に浮かぶ大画面のホログラムモニター。其処に映る初老の男の顔だった。

『やぁ、ルーナデルタ君。今日の君も実に美しい。君は会う度に美しくなるから、顔を見るのが毎回楽しみだよ』

 浮遊する立体映像出力型のモニター内で、男は穏やかに笑いかける。

 三つ揃いのスーツを見事に着こなし、落ち着いた雰囲気を持つ背の高い男。

 幾つもの皺が走る面貌は充分な年齢と共に、紳士然たる気品を見る者に感じさせた。

「挨拶は結構。お互いに無駄話をしている暇はないでしょう?」

 ルーナデルタはニコリともせず、憮然一歩手前のような愛想ない顔で返す。

 これに対す男の顔が、柔和なままに微苦笑を刻んだ。

『やれやれ、君は相変わらずだな。褒め言葉には素直に喜んだり、恥らうのが淑女としての礼儀だと思うんだがね』

「小粋な会話が楽しみたいなら、話す相手を間違えてるわよ」

 男の言葉に一切表情を変えず、ルーナデルタは素っ気無く言う。

 座席の両縁に左右の手を置き、右の人差し指で肘掛を打ちながら。

『ははは、参ったな。それでは前置きはこれぐらいにしようか』

 男は穏やかに笑い、口を僅かに緩める。

 それに合わせて両手10指を組み、眼の位置まで絡めた手を押し上げた。

『本題に入ろう。軌道衛星系植民コロニー・ベリルフォートの、グロバリナ帝国領分離独立運動に関す経過について』

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