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第25話:外から

 艦外活動用の作業服は、黒を基調とした全身スーツという構成である。

 旧時代のもっさりとした宇宙服とは一線を画し、ライダースーツのように極めて肌に近い位置で着込む事が出来る。

 これはスーツの持つ機密性・気圧の調整能力、酸素の供給と呼気の再利用システム、体温の調整機関等の小型軽量化が目覚しく進歩した為だ。

 また新しい与圧方が確立された事で従来の制限(宇宙空間での活動時、宇宙服内は与圧されているが周囲は真空である為、服が膨らみ活動し難い)が失われたという部分も大きい。

 基本素材には一定の衝撃に反応して炭素分子が頑丈なフラーレン球体を形成し、瞬間的に高い剛性を作り出す軽特殊合金を採用しており、宇宙を漂う小流物体から着用者を護るべく、優秀な防御性能を与えられている。

 頭部を覆うフルフェイス型のヘルメットは、フェイスガード部が航宙艦の硝子窓と同素材で造られ、ちょっとやそっとの事で破れはしない。

 この時代の宇宙服は、堅牢さと活動性の双方を追及した形を取る。

 そんな宇宙用作業服に身を包んだ一団が、エクセリオン内部の艦外出入り口前に集まっていた。

 総勢6名。彼等は機関室の作業メンバーである。尚、内訳は男5人に女性1人。艦橋メンバーとは逆に、女性数が少ない。

 一団の先頭に立つのはタカギ。彼は自らの後ろへ続く部下達に向かい、口を開いた。

「お前達、準備はいいな?これから向こうの艦に行って、リアクターを起動させるぞ」

 作業服の内部マイクを通して届けられるクリアな声質に、各員は了解の頷きを返す。

 一同の視界に入るタカギのヘルメットバイザーは、宇宙線を遮断する保護スモークにより黒色コーティングされている。

 これによって外側からは着用者の顔を見る事が出来ない。だが内側からは外の様子をちゃんと確認出来る。マジックミラーに似た性質だ。

「艦同士が近付いてるっても、それなりに距離はある。特に此処ら辺は小惑星帯だ。いらん物がゴマンと流れてやがるからな。あっちの入り口に辿り着くまで気を抜くな」

 自分を見る一同へ注意事項を述べ、タカギは出入り口側へと向き直る。

 扉横の壁面に設置された開閉用パネルへ手を添え、目的地へ赴くべく解除コードの入力を始めた。

 右手人差し指と中指がタイミング良く動き、数字の記されたテンキー型の操作パネルを押していく。

 12個の数字からなる解除コードを入力し終えると、艦内外隔絶扉が自動的にスライドを開始した。

「それじゃ行くか。野郎共、付いて来い」

 タカギは振り返らずに声を送り、開き切った扉から宇宙空間へ踏み出そうとする。

 だがその時、彼の目へバイザーを通して予期せぬ映像が届けられた。

「なに!?」

 それを見た瞬間、タカギの顔は驚愕に歪む。

 かと思えば、彼は反射的に横方へ転がるように飛び退いた。

 半瞬後、開かれた外部への入り口から近隣壁面を一挙に突き破り、巨大なアンカーが艦内へ飛び込んでくる。

 矢印状に弧を描くアンカーヘッドは、艦内壁を引っ掛けては砕き、千切り、引き裂いて、扉側より真っ直ぐ奥へと押し入った。

 タカギの後ろに居た機関室の作業員を全員巻き込んで。

「お、お前等ァァァ!」

 突然の襲撃物に飲み込まれた部下達を視界に、タカギが叫ぶ。

 5人の機関室メンバーは突っ込んできたアンカーに叩き付けられ、曲がった爪に体を減り込ませたまま、足を床面から浮かせた状態で襲来物と共に通路を滑っていった。

 アンカーは瞬く間に目前から過ぎ去る。後に残るのは、ヘッド部と繋がった超鋼鉄の鎖。

 外から入り込んでいるそれは、タカギの真横を高速で伸び行く。

 既に視界の彼方へ消えた部下達とアンカーの進行路を見詰め、期間室長は愕然とした。

 如何に堅固な宇宙服といえど、防御能力には限界がある。ある程度の大きさを持った漂流物なら防げても、今飛んできたアンカークラスが生み出す衝撃と破壊力までは耐えられない。

 ましてやアンカーは只流れてきたに非ず。明らかな指向性を持って、相当な速度で突き進んでいる。

 これではさしもの現行宇宙服とて威力を殺しきれず、着用者の生命を保護出来はしない。

 アンカーの強烈な打撃はスーツの防御力を上回り、装着者の内臓を容易く圧壊させるだろう。破裂した血管は人体内部に大量の血液を噴き、行き場のない血流は外からの衝撃に押されて出口を求め、口や鼻に始まり全身のあらゆる穴から溢れ出す。

 今頃はもう、密閉された宇宙服の中は、当人の吐き出した鮮血に染まっている筈だ。

「くそッ!どうなってやがる?」

 床に尻を落とし、傍近くの壁へ手を付いて、タカギは厳しい表情で毒づく。

 まさかこんな事になるとは、全く予想だにしていなかった。

 自分は突発的な危機感を得ると同時に、無意識で回避行動を取った為に助かっている。だが部下達はそうでない。

 フィルモアとの戦いを生き抜いた彼等だったが、こんな所で命を散らされてしまった。最早、艦内を漂う数多の骸と同じ存在。

 自分を先輩と仰ぎ、文句を言いながらも付いて来た連中。まだ出会って長い時間は経っていないが、それなりに面白おかしくやってきた面子だ。

 これが何の関係もない他人なら、彼は涼しい顔をしていられた。何思う事無く、平然と構えていられたろう。

「くそッ!」

 彼等を救えなかったという一念が、タカギの思考と胸を焼く。

 自分でも信じられぬほど煮立った頭を振って、彼は熱い吐息を漏らした。

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