第13話:逃走の道
先刻まで固く閉ざされていた扉は、中心から上下左右四方のドア枠まで吹き飛んでいた。
キリエが放ったバズーカの一撃によって。
それが生み出した爆煙を突っ切り、一同は無理矢理に開いた扉を越えていく。
艦橋より脱出し、中央通路に飛び出した四人。しかし彼女等を待っていたのは、見慣れた光景ではない。
「ゲッ!ココもかよ!?」
眼前に広がる通路の状態に、シュウカは驚愕と憤怒を顔に表す。
彼女等が躍り出た通路は、既に先までの姿を一変させていた。
天井や壁が大きく抉れ、其処彼処から束になったコードや野太いパイプが大量に現れている。
それらは通路を埋め尽くす程にあり、複雑に絡まりあって、生体の臓器が如く律動を繰り返していた。
数え切れぬ線管は一つ一つがうねり、のたうち、蠢き、犇く。
内臓を思わせる無機物の集合体、それが満たす空間は、まるで生物の体内を見ているようだ。
「キモチわるい〜〜〜」
脈動するコードとパイプの塊を前に、カーナは不快感を露にする。
レンやキリエも、この異常な光景には目を細め、顔を顰めた。
「どうなってるんだ。まさか、電子頭脳が狂ったか?それで艦が異常を?」
「考えるのは後だよ。今は、エクセリオンへ帰る事だけに集中しな」
思案を始めたレンに告げ、キリエは担いだ兵器の切り替えスイッチを押す。
内部機構の変成によってバズーカ砲門が兵装内へ戻り、三連装のバルカン銃身に入れ替わった。
「殿はあたしがやる。シュウカとレンで道塞ぐ奴を打ち破りな。カーナは二人の後ろに付いていくんだ。いいね」
攻撃モードの変換を終えた兵器を持ち直し、キリエが三者に指示する。
砲撃手、副官、艦内オペレーターはそれぞれに頷き、得物握る手に力を込めた。
「よし、行くよ!」
リーダーの号令が飛び、同時に全員が駆け出す。
四名の動きを察知して、通路中で脈打つコードたパイプの塊が急激な活動を始めた。
絡まっていたそれらが一瞬の内に解け、何十もの線管が触手めいたしなりを見せ、床を、壁を、天井を這う。
それは四人の進行方向たる前方から迫り、更に後方からも同じだけの数が襲い来た。
「どきやがれェッ!」
正面へ向かい全速力で走りつつ、シュウカが叫ぶ。
一同の進軍経路へ覆い立つコード及びパイプの群。これを瞳に映し、シュウカは手にする木刀武器を振り下ろした。
眼前まで接近してきた線管に、硬性打撲武器が叩き込まれる。
彼女の繰り出す木刀はそれらを砕き、力任せに引き千切って、床へ散らした。
「道を開けろ!」
シュウカの隣を進むレンもまた、手にした戦闘ブレードを振り払う。
真横に薙がれた一閃が跳び掛かる無機体を捉え、その場で一刀に寸断した。
切り裂かれ、動体から分離したコードやパイプは行動力を失い、床に落ちて本来の無動物に戻る。
だが残る側は尚も蠢き、部位を奪った復讐とばかりに、勢いを増して突撃を実行した。
「邪魔くせぇんだよ!」
「ハッ!」
後続と合わさって襲い掛かる機械触手を、シュウカとレンは己の剣で迎え撃つ。
速度と威力を併せ持った斬撃は、数多の群勢を次々に打ち据え、斬り捨てた。
それでも後から後から、止め処なく押し寄せる無機物の波。
二人は蠢く大群に臆さず挑み、進路を拓く為に悉く破り壊す。
「ひぃぃ〜ん」
前方面からの襲撃を屠る二人へ、カーナは半泣き状態で付いていく。
直接的に戦う能力を持たない彼女は、自分の前行く二人と距離を空けないよう追うだけで精一杯だった。
下手な事を考えると恐怖で足が止まってしまう。その為、極力何も考えないよう、頭の中を空っぽにしてシュウカ達に続いた。
しかし獰猛に荒れ狂う配線の奔流は、否が負うでも目に入る。
強烈なインパクト持つその光景に、カーナの足を度々硬直寸前へ陥った。
「カーナ、止まらず走るんだよ」
一定間隔で背後から投げられるキリエの声がなければ、彼女はとっくに走れなくなっていただろう。
一同の最後尾に付いたキリエは、後方から追い縋る線管を相手取り、走りながら攻撃を繰り返す状態にあった。
バルカン型に変更した兵器を使い、決して諦める事のない追撃隊を撃ち抜いていく。
銃身の回転によって吐き出される膨大な弾丸を広範囲へまびき、近付くモノを散らして自分達への到達を許さない。
かくして彼女等は心無い襲撃物達を叩きつつ、通路の踏破を目指し駆け進んだ。
四人が通った後には破壊された配線の残骸が散乱し、通路を雑多な物捨て場のように彩る。
かつては探査艦を構成する要素として乗組員へ尽くし、彼等の護りとなり助けとなっていた物達。
それが何思ったか正規の乗員を殺戮して、同胞たる訪ね人をも排除しようと襲い掛かっていた。
キリエ達には何が起こったのか知る術はなく、ただ逃げるに執すのみ。