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第11話:襲撃を越え

 天井から降り注ぐコードの束を、シュウカは半歩退く事で片脇にかわした。

 複数色の混在物が槍のように床を抉り、彼女の左隣へ突き刺さる。

 それに続き第二第三の束が降り進み、シュウカの周囲へ相次いで減り込んだ。

「なんだってんだよ、チクショウが!」

 突然の襲撃に意表を突かれながらも、シュウカは怒号と共に超硬性打撲武器を握る。

 考えたというよりも半ば反射的に、彼女は手にしたそれを横薙ぎに振るった。

 木刀型の硬性武器は、上方から伸びるコードの鎖を打ち据え、一撃の下に切断する。

 一つ束を裂いた斬撃はそれでも勢いを緩めず、近辺に刺さる束群を連続して砕いた。

「はわわわ、ウチュウカイジューの攻撃だよぉ!」

 一方では、カーナが悲鳴を上げながら床を這い進んでいく。

 天井の屍骸群を見た所為で抜けていた腰は、無機物の襲来によって芯を取り戻していた。

 けれど彼女は立ち上がる事すら忘れ、四つん這いになって危険地帯からの逃走を試みている。

 そんな少女の無防備な背中を狙い、幾本ものコード束が天方から伸び降りてきた。

 充分な速度を持ち、堅固な床材すら貫く威力の落突。

だがこれらは逃げ惑うカーナを寸でで捕え損ね、彼女が去った部分を紙一重の差で穿つに終わる。

 後方から立ち昇る衝突音を耳にして、カーナは更なる悲鳴を上げた。

「きゃわぁぁ〜〜!」

 甲高くも、恐怖のあまり音程ズレした嘆き声。

 部外者が聞くと間抜けた調子に取れるが、本人は至って真剣な悲鳴を零しつつ、カーナは振り返らないで逃げ進む。

 同じ時、艦橋上層ではキリエが大型可変式多目的兵装を展開し、天井から降り注ぐコード群を迎え撃っていた。

 トランクのようにも見える兵装の端が両側へ開き、内部から覗くのは銃撃砲塔。

 黒光りするバレル部は同型身の連繋からなる三連装体で、装備者の射撃運用によって回転起動を始める。

 三位一体型の砲身は時計回りに回転しながら、上向けられた銃口より12mmサイズの鐵鋼弾を連続発射した。

「チィッ!こりゃ穏やかじゃないねぇ!」

 キリエの激声に添えられて、強固な隔壁をも食い破るべく設計された弾丸群が、標的目掛けて絶え間なく繰り出される。

 硬体構造の鐵鋼弾は襲い来るコード群を命中と同時に打ち砕き、鮮やかだった全容を幾多の屑片に変化させた。

 エクセリオン艦長は大型兵器を両手に持ち、銃撃姿勢を維持したまま砲点の狙いを変えていく。

 両脚を擦る様に動いて続けられた斉射は、銃口から吐き出される弾丸を漏れなく天井へ送り届けた。

 猛烈な速度で舞い飛ぶ鐵鋼弾雨は、今正に突き出されようとしていた複数のコードを破り、天蓋に敷き詰められるフィルモア乗員の亡骸を撃つ。

 弾丸の着弾点が衝撃で大きく抉り取れ、死体の体に幾つもの大穴を作った。

 だが血液が溢れ出る事はなく、幾つかの肉片が小雨のように下方へと降ってくるばかり。

 乗員の遺骸は背中や首筋、後頭部からコードが体内へ潜り込み、その体を天井へ貼り付けている。

 流れていた血液は突き刺さるコードが一滴残らず吸い上げて、随分前に艦外へと散布したのだ。

「艦長、何が起こっているかは判りませんが此処は危険です。早々に退避しましょう!」

 副長専用席の端末から自身の持つ情報ツールへと、取れるだけのデータをコピーし終えたレンが提言する。

 彼は言いながらも立ち上がり、背にした大太刀を引き抜いて、周囲に突き立つコード柱を切り裂いた。

「それが良さそうだね。シュウカ、カーナ、ずらかるよ!」

 副官の意見に頷いてから、キリエは下層の部下へ大声で告げる。

 その後で自身は上方への銃撃を続けつつ、襲撃体の動きを牽制しながらスロープを下り始めた。

「判ったぜ、姐御」

 艦長命令に承諾の声を上げ、シュウカは更に木刀武器を振るう。

 己を狙い降りてくるコード郡を薙ぎ払い、カーナへ近付く為の道を拓いた。

「はわわわわ、たっけてぇ〜」

「オラ、逃げんだよ、こっち来いっての!」

 シュウカは相手との距離を素早く詰め、泣きながら四足避行している少女の襟首を掴む。

 そのままカーナを引き摺る様にして、自分達が入ってきた出入り口へと向かった。

 だが移動途中で、彼女等の前方向上の床面を突き破って、新たなコード群が姿を現す。

 色とりどりのコードが規則性なく絡まり、引き千切れた端子を頭として首を擡げ、蛇の如く全体をくねらせていた。

 それと同様の物が方々の床から出現して、シュウカとカーナを囲む。

 獲物を逃がさんとするように。

「コイツ等ぁ、オレ達を逃がさねぇつもりか」

「ひにゃぁぁ〜」

 周囲に立ち塞がるコード群を睨み見ながら、シュウカは忌々しげに呟く。

 そんな彼女に襟を掴まれたまま、カーナは身を震わせるのみ。

 数秒の後、出位置で蠢いていたコード達が一斉に二人へと襲い掛かった。

「ナメてんじゃねぇぞ、コラァァッ!」

 怒号の一喝を叫び上げ、シュウカは全力で木刀武器を振り払う。

 右腕一本で行われたそれは、正面から来た全本を真ん中から切断し、勢いに乗せて吹き飛ばした。

 続け様、カーナの襟から放した左手でも柄を握り、振り返りながら斜め方へと斬り上げる。

 これによって左側面から迫るコードを討ち破り、完全に背方を向いた所で両腕を振り下ろす。

 腕動に運ばれて木刀武器が一閃し、カーナを狙っていたコードを叩き伏せた。

 その瞬間、右方面から流れ来るコードがシュウカの頬を掠め、彼女の視界端を過ぎる。

 僅かな接触面の皮膚が裂け、其処にじんわりと血が滲んだ。

 頬へ生じた小さな灼熱感を抱き、シュウカは横目でコードを睨む。

 視野に外敵の姿が入ると同時、彼女は木刀武器を払い抜き、隣接する無機体を寸断した。

 攻撃を受けたコードは切断面から纏まりを失い、無数に崩れながら床へと落ちる。

 床にへたれるカーナは、戦意を失くした敵勢の末尾を余所にシュウカを見上げた。

「ふわわ、マシューって、つおいんだね」

 意外性と尊敬が半々の顔を向け、少女は瞳を輝かせる。

 カーナには剣術云々はサッパリ判らないが、それでもシュウカが相当な腕前である事は容易に知れた。

 彼女が喧嘩友達へ向ける目には、自分にない優れた技能保持者へ対する憧れの念が滲む。

 熱視線を注がれるシュウカだが、当人は自分の腕を誇るでなく顔を背けた。

「ケッ、この程度はなぁ、レシドア生まれじゃ出来て当然なんだよ」

 面白くなさそうに言い放ち、シュウカは木刀武器の棟で右肩を叩く。

 レシドアは、グロバリナ帝国に属する自由軌道型植民コロニーの一つ。

 帝国領に含まれる幾多のコロニー内では、最も治安の悪い低層市民の居住区だ。

 内部の80%以上がスラム街で構成され、警察機構もあってないようなもの。大小様々な犯罪が昼夜を問わず頻発し、平和や安定とは縁遠い。

 その中で生き抜く為には、降り掛かる災難から身を護るだけの腕っ節が要求される。

 レシドアで生まれ育ったシュウカは、生きて行くのに必要不可欠である故、自らを鍛えたにすぎない。更に言えば、同郷の徒は概が彼女と同程度の実力者なのだ。

 別段、褒められるような事でもない。

「オラ、つまらねぇコト言ってる間に、テメェはとっとと立ちやがれ」

 周囲への警戒を怠りなく続け、シュウカは爪先でカーナの背を小突く。

「うひゃん!?」

 やられた側は小さな悲鳴と共に、跳ねるような仕草で立ち上がった。

「こんな所に長居は無用、早ぇトコ、トンズラこくとしよぜ」

 木刀武器で出入り口を指し示し、シュウカは足早に動き出す。

「ま、待ってよぉ」

 移動を始めた年上砲撃手の背を見て、カーナは慌てて後を追った。

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