鏡の中なんて
続きです。楽しい
暑い。
さっきから空間の気温がやけに高い。
ブランはというと、久しぶりの身体だわ!と言ってあの暗いおんぼろ屋敷を走り回っている様だ。
流石に意識が朦朧としてきたので ブランにそのことを伝えると、ごめんなさい!と咄嗟に走るのをやめてくれた。
そしてこの空間は、相手の心によって気温が変わることを教えてくれた。
『…本当に、何も覚えてないのね。』
暫くするとブランは悲しそうに言った
「うん。だけど別に悲しむことじゃないし、心配しなくて大丈夫。」
ブランはそれもそうねと笑ってみせたが、それも何処か悲しそうな笑みだった。
『それじゃあ、行きましょうか。』
「行くって、何処に?」
『探し物のある場所よ。』
「でも外は真っ暗だし、そもそもここは山奥じゃないか。」
そう言うと、ブランはきょとんとした。
『何を言っているの?確かにここは木や雑草は多いけれど、山奥じゃないわ。』
「そんなはずないよ、おじいちゃんの車に乗って険しい山道を来たはず…」
ブランが屋敷の裏側へと向かい、ほら。と見せてくれた景色には、大きな坂道の下に住宅街が星のように広がっている。
「嘘…でしょ…」
信じられない光景に、混乱して頭が痛くなってきた。
『誰だか知らないけれど、あなたはそのオジイチャン…?とやらに騙されたのよ、きっと。』
「つまり、見捨てられたって事?」
『さあ。あなたを護るためにした事かもしれないし、そうじゃないかもしれない。』
嫌われる様な事は何もしていないはずだった。けど護られるような事をした覚えもない。くよくよと悩んでいたら、ブランが言った。
『もう過ぎたことを悩んだって仕方ないわ、先を急ぎましょう。』
「急ぐことないんじゃない?もう夜の8時なんだし、睡眠をとって明日に備えた方が…」
『朝になるとあなたと入れ替わるの。つまり私がこの身体を使って活動できるのは夕方から夜の間だけ。』
「朝から昼の間は、どうすれば?」
『私がその空間から指示を出すから、従ってくれれば問題ないわ。』
「なるほど。なら急がなくちゃね。」
そう言うとブランは歩き初めた。
道中暇だったので、ブランのいた鏡の中について聞いてみた。
「鏡の中って、どんな感じ?やっぱり寒かったりするの?」
『どうしてそんなこと聞くの?』
「暇だもん。」
『そうね…寒くはないわ。むしろ気温とか無くて快適よ。でも…』
「…寂しい?」
『ええ…誰もいないの。寂しいに決まってるわ…独りぼっちだもの、鏡の中って。』
またブランを悲しませてしまったかもしれない。けれど彼女のことをひとつ知ることができたからか、安心感の方が強くあった。
そうこう話していると、他と比べて少し大きな家の前についた。
「ブラン、ここはきみの家かい?」
『違うわ、けれどここに用事があるの。』
そう言うと、ブランはインターホンを強めに押した。
少し、気温が下がったような気がした。
また暇な時に書きます