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車椅子

 一馬の足は自然とゲームセンターに向かっていた。月曜の昼下がり、人はほとんどおらず、様々なゲームの音が垂れ流しになっている。人などいない方が一馬にとっては好都合だった。
 預けておいたメダルを手に、いつも通り一番端に置かれている椅子に腰かける。目の前にはいつものメダルゲーム。人気がないため混んでいても人が来ることは少ない。一馬にとっては絶妙な位置だ。
 投入口にメダルを入れ、ゲームを開始する。一馬は慣れた手つきでレバーを動かす。メダルがぶつかる音がうるさく響く。
 一馬は表情らしい表情も浮かべず、そのまま一時間ほどゲームを続けていた。不意に耳に入ったのは、着信音。一馬は携帯電話を取り出すと、耳に当てた。
「もしもし」
 電話の相手は、美波だった。交際を始めてもう三ヶ月になる。特に喧嘩らしい喧嘩もせず、それなりに上手くやってきたつもりだった。
 他愛もない会話がしばらく続いた後、美波は唐突に切り出した。
「あのさ」
 頭の中を不穏な影がよぎる。一馬は目を細めた。
「……好きな人が、できたの」
 一馬はレバーを動かしながら、へぇ、とだけ答えた。
「その人、うちのこと好きでいてくれてるの。前から。気持ちが嬉しいの」
「……別れたい?」
 電話の向こうの声は、うん、と告げる。一馬の口から、ふぅ、と一息、溜め息が漏れた。
「……わかったよ」
 最後にありがとう、と聴こえたような気がしたが、一馬は特に気にもせず電話を切った。
 一馬は無意識の内に握りしめていた右手の携帯電話を、ポケットに突っ込んだ。
 馬鹿馬鹿しい。予感など既にしていただろう。別段不思議がることでもない、こうなるべくしてなったのだ、気にすることはない。
 一馬は自分の中で何度も復唱される言葉に、首を傾げた。
 気持ち。
 その言葉は不思議な響きをもって、一馬の中を何度も何度も、跳び跳ねては跳ね返り、一馬を揺さぶった。
 美波は気持ちが嬉しいと言った。じゃあ俺の気持ちは嬉しくなかったのか?そうじゃない、きっと、飽きたのだ。
 思えば二人で出かけるようなことも少なくなっていた。出かけたとしても、同じ場所が多かった気もする。あ、なんだ、悪いのには俺じゃないか。
 子どもが毎日同じ玩具で、飽きることなく遊び続けることができるか?無邪気さだ。彼女は子どものように無邪気なのだ。いや、彼女だけではない。人間はいくつになっても子どもらしい無邪気さをどこかに残しているのかもしれない。むしろ、飽きないことの方が驚くべきことなのだ。
 一馬の頭を一抹の虚しさがよぎる。一馬は席を立って、メダルゲームから離れた。どこへともなく、ただひたすらぶらぶらと、ゲームからゲームへなのか、はたまた空想と現実の間をか、ふらふらと彷徨した。
 ふと、足元にころころとカプセルが転がってきているのに気がついた。前方には車椅子に乗った男の子がいる。どうやら、彼のものであるらしい。
 一馬は拾ったカプセルを彼に渡すが、手の力が弱いのか、またすぐに落としてしまった。一馬はもう一度カプセルを拾うと、中身を取り出して手渡した。
 彼は何も言わずに、ただ不思議そうに一馬を見上げた。そして車椅子をゆっくりと回転させて一馬に背を向けると、そのまま去っていった。
 気持ちが嬉しい。
 それとこれとはまた別なのかもしれないが、人は気持ちを大切にするようなのである。一馬は心に空いた穴が、奇妙な満足感で満たされていくのを感じた。

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