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最後の三日  作者: カオリ
3/3

そして今日も朝が来る

――厳しい残暑から解放された、爽やかな朝。

小鳥の囀りが涼やかな空気を震わせ、からからと家々の雨戸が開く音が聞こえる。街が目を覚ましたのだ。


「こずえー。今日学校でしょ? 起きなさい」


私達の夏は終わった。本当に、これが最後だった。


あれから私はタケに手を引かれながら神社を後にし、石段をおりた所で別れを告げて家路に着いた。

私とは逆方向に歩いて行くタケの背中が朝日を浴びて、白く淡く光っていたのを覚えている。


私は家族に悟られぬように帰宅すると自分の部屋へ戻り、そのままベッドの上でぼんやりと家族が起きだす気配を感じていた。


「こずえ?」

「起きてるよ」


私は大きく息を吐くと窓を開け放った。柔らかい風が太陽の光を連れて流れ込む。いつも通りの朝。きっと、今日も暑くなるだろう。


「あら、珍しくちゃんと起きたのね。何か張り切ってるの?」


始業式が終わったら、皆の墓を訪ねようと思う。隣街の集合墓地に全員いるのだと、別れ際にタケが言っていた。

――三年も、待たせてしまった。


「別に? 何となく」


中学の夏休み最後の三日は、私達に必然の奇跡をもたらした。

私はもう二度とあの神社へは行かない。確認などする必要はないと、菩提樹は教えてくれた。

私達の永遠は本物だ。ずっと、一緒に。


食卓に目をやると、チョコレートの包みが六つ乗っている。私は頬を弛めると一つを口に放り込み、残りはポケットに入れた。

母が仕事仲間から差し入れてもらったというそのチョコレートは、ほろ苦く口のなかに広がり溶ける。私は舌先でゆっくりそれを転がしながら、鞄を肩に提げて家を出た。


「――行ってきます」


吸い込まれるような空がどこまでも広がっていた。快晴。まさにそんな天気。私はその蒼さの向こうに思いを馳せる。


これから私は年を重ねて、彼らの見ることの叶わなかった未来を生きていくことになる。

生きることは難しい。どんなに必死に生きていたとしても、終わりはあっけなくやってくる。きっと私は何度も挫けるだろう。何度も逃げるだろう。


――それでも。


躓くなら止まっても良い。転んだなら起きれば良い。痛みを知っているから立ち上がれる。


ただ前を見つめて。臆する事無く、ありのままの自分に恥じる事無く歩いて行きたい。


今此処に在る私は、皆の生きていた証だから。




――いつまでも忘れない。貴方と過ごした全ての時間を。


覚えているよ。


ずっと、ずっと。


最後まで。









『最後の三日』――終



ここまでお付き合いいただき、ありがとうございました。

この話が少しでも皆様の心に届いたなら幸せです。


大切な友人へ捧げる。  カオリ

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