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54.神さまどうかお願いです



「僕は君がしあわせでいてくれれば、それでいいんだ」


 それは彼の口癖だ。

 金の星を宿した闇色の瞳を細めて、慈愛に満ちた表情で、私に語って聞かせる。

 いつもいつも、彼は私のことばかり。

 私が生まれるその瞬間に偶然立ち会った彼は、私を守るために命を削ることを心に決めてしまった。

 長い長い、気の遠くなるほど長い年月を生きてきた彼が。

 百年も生きられないか弱い一人の人間のために、その身に宿る魔力を、命の源を使い続ける。


 この国は、十年以上も前に滅び行くはずだった。

 人間には防ぎようのない天災によって。

 地殻変動で大地が沈み、海に飲み込まれる運命にあった国。

 彼は今、たった一人で、この大地を支えている。

 ここが、私の生まれ故郷だからという、ただそれだけの理由で。


 魔力を必要以上に使うことは、命を縮めること。

 それはもちろん身体にも負担をかける。

 熱が下がらない日もある。節々がギシギシと痛む日もある。急に倒れる日だってある。

 なのに彼は、なんてことないような顔をして、それを受け入れてしまう。

 そうして、満足そうに笑ってみせる。


「もう、無理をしないで」


 私は涙をこぼしながら、何十回目にもなる懇願をする。

 この国は小さな島国ながら、豊かな地。彼一人の手に、何百万人の命がかかっている。

 それでも、他にも手段はあるはずなんだ。

 国が沈むことを周知させて、国民みんなで大陸に移り住めばいい。まだ未開拓の地はあるのだから。

 もちろんそんな簡単なことではないだろうけれど、彼がすべて背負っている現状が間違っていることだけはわかる。

 彼だけが犠牲になっていいわけがない。

 そんなこと、私は許せない。


「君のしあわせを守ることができるのが、誇らしいんだ」


 彼はそう、本当にうれしそうに笑う。

 馬鹿じゃないの、と私は思う。


 どうして、自分の命を軽く扱うの?

 どうして、私なんかのためにそこまでしてしまうの?

 どうして、どうしてそんな顔で笑えるの?


 彼の笑顔を見ると、余計に涙が止まらなくなる。

 そんな私に困ったように眉を垂れさせ、彼は手を伸ばしてきた。

 あたたかな手が、そっと私の頬に触れる。

 両手で包み込んで、涙をすくって、そうしてまぶたに口づけてくれる。

 そのぬくもりは、彼が生きている証拠。

 いつか、それが失われてしまう日が来ることを、私は何よりも恐れている。


 彼は頑固で、馬鹿で、救いがたいほどに愚かだ。

 私が何を言っても自分の意志を曲げようとはしない。

 泣いても、怒鳴っても、すがりついても、ただ笑うだけ。

 本当に愚かなのは、そんな彼のことが好きでたまらない私なのかもしれない。

 好きすぎて悔しいくらいに、私は彼しか見えていない。

 好きだから、誰よりも愛しているから、ほんの少しだって傷ついてほしくないのに。

 私は私が大嫌いだ。彼の命を削る原因となっている、私のことが。


「あなたは私のしあわせを願ってばかり。少しは自分のしあわせも考えて」

「君のしあわせが僕のしあわせだよ」


 ほんわりと、この世の幸福をすべて詰め込んだような笑顔で彼は言う。

 心からそう思っていることは、その表情から見て取れる。

 ああ、本当に馬鹿な人。

 そして、愛しい人。




 神さまどうかお願いです。

 彼にこれ以上、私のために命を削らせないでください。

 いるのかもわからない神にだって、毎日のように祈っている。

 私にできることなら、なんでもするから。


 どうか、彼を助けてください。







・創作に使える短文お題ったー(http://shindanmaker.com/364611)

今日のスミレにおすすめのお題は『好きすぎて悔しい』『神様どうかお願いです』『温かい手』です。

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