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51.先輩専属のパイロット



 バランス感覚が壊滅的なのか、子どものころから私はよく転ける。

 一日一転びは当たり前。片手で収まらないくらい転けた日だってけっこうある。

 友だちには、心配を通り越して呆れられるくらいに、本当に転ぶ転ぶ。

 あんたは走るよりも転がったほうが速いかもね、と言われたこともあったけど、それはさすがに冗談……だよね?


 私だってね、どうにかしたいとは思っているんだ。

 すり傷切り傷打撲に捻挫。

 私の膝や肘にはいつも何かしらの傷跡がある。

 怪我をしていないときのほうがめずらしいくらいなのは、さすがによくないだろうと自覚はしているから。


 だからって、こんな解決方法は、いただけません。


「軽いね。ちゃんと食べてる?」

「食べてます。食いしん坊なほうですよ、私」

「そうなんだ。じゃあ、そういう体質なのかな」

「そうかも……じゃなくって!」


 私が声を上げると、先輩はちょっと驚いたような顔をした。

 いや、そんな顔をしないでくださいよ。

 むしろ私のほうが驚きたいくらいなんですけど!


「あ、あの。下ろしてくれませんか」


 おずおずと、でもはっきりと、私は先輩に言った。

 そうなんです。今、私は先輩に抱っこされているんです。

 片腕に座らせて持ち上げる、よく子どもにする抱き方。

 ちびの私でも今は先輩より少しだけ目線が高くなっていて、新鮮だけれど素直に楽しめるだけの心の余裕はない。


「嫌だって言ったら?」


 にこりと笑う先輩はとても綺麗なのに、言っていることは意地悪だ。

 先輩ってこんな性格だったっけ?


「困ります」


 私はぎゅっと眉をよせる。

 ここは学校の中庭で、今は昼休み。

 こうして先輩に抱っこされている私を、さっきからちらちらと見てくる視線がたくさんある。

 ある人は興味深そうに、ある人は目を丸くしていて、ある人はなんだか怖い顔。

 どうしてこんなに人のいるところで、目立たなくちゃいけないのか。

 先輩はもう少し人目というものを気にしてほしい。


「でもね、目の前で何度も転ばれるのも、困るものだよ」

「それは……すみません」


 先輩の言葉も間違ってはいないんだろう。

 先輩はお兄ちゃんの友だちで、お兄ちゃんと同じクラス。

 だから忘れ物を届けに行ったり、頼まれごとをしたりした私と顔を合わせる機会が少なくない。家に遊びに来たことも何度もあるしね。

 そのたびにころころ転ぶ私を見ているんだから、気になっちゃうのも仕方ない。

 今はもうだいぶ慣れてくれた友だちも、最初は毎回心配そうにしていたし。

 傷を量産していく私が危なっかしく見えるのは当然かもしれない。


「だから僕といるときは、僕が運んであげるよ。君は僕のパイロットだ」


 そう言った先輩の笑顔は、キラキラと輝いているように見える。

 先輩は王子さまを連想しちゃうくらい整った容姿をしている。人気があるのもわかるなぁ。

 って、だから私、そうじゃない!


「私が動かしてるわけじゃないんだから、パイロットって間違ってます!」

「つっこむところはそこなんだね」


 苦笑する先輩に、私は首をかしげた。

 あれ、違いました?


「君みたいな軽いパイロットなら、大歓迎だよ」


 そんなこと言われたら、太れないじゃないですか。

 思わずそう考えてしまうくらいには、いつのまにか運んでもらうことを受け入れてしまっているらしい。

 私を支える腕は意外としっかりしていて、怖くはない。

 高い目線は面白いし、先輩と顔が近いのはなんだかドキドキする。

 先輩と一緒にいる間だけでも、怪我が増えないのはいいことかもしれない。


「それ、丸め込まれてるから、あんた」


 後日、友だちにそう注意されることになるんだけれど。

 そのときにはもう、後の祭りなのでした。






即興小説トレーニングより

制限時間30分 お題:軽いパイロット

多少加筆修正してます。元文は↓

http://sokkyo-shosetsu.com/novel.php?id=132345

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