49.桃の花咲く庭にて
休日の昼前。メールの受信音に三度寝の邪魔をされた晃は、面倒に思いながらも起き上がり、それから五分で家を出た。
向かうは勝手知ったる他人の家。
といっても、限りなく家族に近い、幼なじみの家。
門をくぐると、瑞花が縁側に座って、のほほんと庭を眺めていた。
『今すぐ来て』とメールをよこした本人とは思えない。
予想はしていたけれど、急用があるわけではないようだ。
彼女の気まぐれはいつものこと。
今さら怒る気にもなれず、晃は瑞花の隣に腰を下ろした。
瑞花の母親が手入れしている庭は綺麗で、加えて春の日差しはやわらかく心地良い。
日向ぼっこをしたくなる気持ちは、わからなくもない。
「何ぼーっとしてんの?」
黙っているのも変に思えて、声をかけてみる。
瑞花の視線の先には、桃の花。
「ん? 別にー」
能天気な声。特に元気がないというふうでもない。
別に、ですませるなら、どうして呼んだのか。
言う気はないんだろうと、長い付き合いの晃にはわかる。
仕方がなく、晃も庭の桃に目をやった。
桃の木。可愛らしいピンク色の花は、もう見頃は過ぎて散りかけている。
子どものころ、どうして実が食べられないのかと二人で大騒ぎして、瑞花の親を困らせたことがあった。
幼かった自分たちには、品種の違いなんて、説明されたってわかるはずもなかった。
今はちゃんと知っている。この木は花を咲かせるのが役目だ。
可憐な花を咲かせて、目を楽しませてくれる。
ふとひらめき、瑞花に視線を戻す。
小柄な彼女を包む服装は、春らしい桃色のワンピース。
晃はため息をつく。
新しい服の感想を聞きたかったなら、そう言えばいいのに。
まあ、似合っていないわけでもないし。
もう一度軽く息をついて、瑞花が喜びそうな褒め言葉を考え始めた。