44.もう逃げない
知らないなんて、今さら言わせない。
私はあんたのことが好きなの。
ずっと、ずっと、あんただけを見てきた。
ホントはあんただってわかってるんでしょ!?
今日という今日は絶対に、逃がさないから。
「返事は?」
二人しかいない教室、私は詰め寄る。
夕明りが差し込む室内は、異様な空気に包まれている。
それはきっと、私の気迫のせい。
絶対に逃さない。という私の思いが、教室を緊迫した雰囲気にする。
「……降参」
晃はゆっくりと両手をあげた。
しょうがないな、とその顔は言っているようにも見えた。
それでもその赤く染まった頬は、きっと夕日のせいじゃない。
「認めたくなかったけど、俺、奈津のこと好きみたいだ」
それはずっと、ずっと欲しかった言葉。
代わりの利かない大切な友だちだった。でも、友だちの枠から外れられなかった。
好きで好きで仕方がなくて、冗談交じりに何度も伝えてきていた。
鈍くはない晃は、きっと私の気持ちなんてだいぶ前からわかっていて。
それでも友だちという関係は変わらなくて。それが答えなのかもって、あきらめたほうがいいのかもって何度も思った。
これが最後だって、玉砕覚悟での告白に、返ってきた答えは。
たしかに今、彼の言葉が、彼の気持ちが、私の心に届いた。
「……遅いよ、バカ」
うれしくて、うれしすぎて、涙がこぼれた。
こんなの私らしくない。そう思いながらも涙は止まらない。
晃がおろおろとしながら、そっと私を抱きしめてくれて。
余計に涙があふれてきた。
「ごめん、奈津。ごめん。でも、本気だから。もう待たせないから」
包み込む、といった表現が正しいような抱きしめ方。
優しいぬくもりに、私は身を委ねる。
うん、わかってるよ。あんたは嘘が苦手だもんね。
あんたの気持ちは、ちゃんと伝わってきたよ。
言葉の代わりに、私はぎゅっと抱きしめ返した。