38.白い、眩しい
白い。
屋上の重い扉を開けた裕樹に、目を焼くような白が襲い掛かる。傾き始めた日の光。
ついで、むわっと肌に貼りつく生温い外気。
こんなところで本当に奈緒は待っているんだろうか。
いつも不思議に思う。校内には冷房完備の部屋もあるのに。
日陰すらないこんな場所を選ぶ理由が分からない。
それでも、やっぱり視線の先では、奈緒がフェンスにもたれかかっていて。
こちらに気づいて手を振ってくる。
なぜだろう。訳もなく腹が立つ。
裕樹は奈緒に歩み寄り、冷たい缶ジュースを放り投げた。
目標地点より缶は左下に逸れ、かがんだ奈緒の手の内に納まる。
「ノーコン!」
怒ったような声、けれど嬉しそうな笑顔。
一致しない言葉と表情は、ひねくれ者の奈緒らしい。
裕樹は野球部ではなくサッカー部所属なのだから、用法すら間違っている。
蹴ったほうがよかったか?
皮肉で返そうとして、さすがに格好悪いのでやめた。
「おごってやるんだから文句言うなよ」
それでも仏頂面はどうにもできず、恩着せがましく言ってみる。
ピンク色の缶には『いちごみるく』の表記。甘党な彼女が特に好きなジュース。
わざわざ購買で冷やされていたものを買ってきたのだから、褒めてほしいくらいだ。
もっとも、そんな素直な奈緒は想像もできなかったが。
ヒヤリ、頬に刺さるような冷気。
冷たすぎて、一瞬熱いようにも感じられた。
驚いて奈緒に顔を向けると、邪気のない子どものような笑み。
白い。
彼女の笑顔か、太陽の光か、どちらともか。
裕樹は眩しさに目を細めた。
溶けてしまいそうなほどの暑い日差しの下、奈緒は遮るもののない屋上にいる。
裕樹の部活が終わるまで待っている。
校庭から見上げれば、手を振ってくる人の影。
待つなら図書室のほうがちょうどいいだろうに。
そう思いつつも、強く注意しないのは、期待しているから。
裕樹の姿を見るためだったらいい、と。
絶対に、言えないけれど。
白い、眩しい屋上に。
今日も彼を待っている、白い少女の影を探した。