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30.苦いはちみつ
「たっくんはね、すんごくすんごく優しいんだよ」
美幸はほんわかと語る。
はちみつみたいに甘ったるい声音で。
「幸のこと一番に考えてくれてるんだって」
頬が赤く染まってるのは、照れているからなのか、単に寒さでなのか。
……鈍い美幸のことだから、きっと後者。
そうでも思ってないと、無表情を維持できない。
「よかったな」
無難な返事をするのに、どれだけの理性と気力が必要なのか。
俺の言葉に笑顔でうなずく美幸は気づいてはくれない。
もちろん、自分から何も行動してない俺に文句を言う資格がないのは、わかってるんだけど。
宣戦布告する勇気もない俺は、ため息を飲み込んだ。