20.君に贈る花
荒廃した大地にも、花は咲く。
乾いた土から僅かな栄養をもらって。
照りつける太陽に負けないよう伸びやかに。
「これは、『スミレ』……かな?」
可憐な花と分厚い本とを交互に見ながら僕は呟く。
そうだよ、と頷くように花が風に揺れた。
僕は《花の守人》だ。
生きるために必要な《水の守人》や、情報の伝達に役立つ《字の守人》ほど重要な役職ではない。
それでも、僕はこの仕事に誇りを持っている。
僕たちには余裕がない。
生きるのも精一杯で、食べるものに困らない日はないし、酷いときは水さえ口にできない。
そんな世界で、花を守るなんて……と言う声も少なくない。
食べられもしないものを、役に立たないものを保護するなんて馬鹿げている。許しがたい愚行だ、と。
けれど、僕はそうは思わない。
こんな世の中だからこそ、花が必要なんだと。
花を見て、綺麗だと感じる気持ち。和む心。
それは、僕たちにとって大切なものなんじゃないかと思う。
花を見れば、誰もが笑顔をこぼす。
日々を生き抜くだけでも苦しくて、音を上げたくなる中。
花は人の心を癒してくれる。
水がのどを潤すように、花は心を潤してくれる。
かつて、地上には緑が、花があふれ返っていたという。
古びた写真や、文献からしかうかがえない、けれど紛れもない事実。
今はこんなにも大地は荒れ果て、争いは絶えず、希望も見えない世だけれど。
いつか、いつか。
見てみたいと願う。
そうして、いつも花のような笑顔で僕を癒してくれる君へ、贈りたい。
大地いっぱいに咲き誇る希望を。