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01.恋わずらい
「恋わずらいを知ってる?」
君は言う。感情の読めない平坦な声で。
気まぐれな君は、そうやって僕の心をかき乱す。
「知ってるよ」
僕は仕方なく正直に答える。
「とてもとても、苦しいものだよ。
けど、捨てることのできない、何より大切なものでもあるんだ」
この想いを消せたら、と悩んだことは一度や二度じゃない。
痛くて、苦しくて。自分の情けなさに吐き気まで覚えるほど。
それでも苦しみと同じくらい、しあわせを感じさせてくれるものだから。
結局、僕は君に恋わずらいをし続けるしかないんだ。
「難儀なものね」
君は笑った。
少し苦味を含んだような、微笑みだった。