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空はまだ設計途中だった ―浮遊石と未完成の飛行船―  作者: 空木 零
第1部 錆びついた翼と滑走路
7/8

第7話 鉄の墓場(スクラップ・ヤード)の秘宝

今日もページを開いてくださり、ありがとうございます!

巨大な戦車の残骸、朽ちた戦闘機。

男の子のロマンが詰まった場所での探索回です。ワクワクしながら読んでいただければ幸いです。

街の北側、居住区の境界線を超えた先には、広大な「鉄の荒野」が広がっている。


廃棄区画(スクラップ・ヤード)

都市から排出されたすべての「不要なもの」が運び込まれ、山のように積み上げられた最終処分場だ。


「……うへぇ、相変わらず酷い匂いだ」


錆びついたフェンスの隙間を抜け、僕は鼻を覆った。

腐ったオイル、酸化した鉄、そして焼けたゴムの臭い。

見渡す限り、赤茶けた鉄屑の山脈が続いている。真夏の太陽が容赦なく鉄を焼き、陽炎(かげろう)がゆらゆらと視界を歪ませていた。

生命感はない。あるのは、風に揺れるトタンの音と、乾いた砂埃だけ。


「さてと……お宝探しといくか」


僕は工具袋を背負い直し、鉄屑の迷路へと足を踏み入れた。

ここに来るのは子供の頃以来だ。

あの頃は、ただの「宝探しごっこ」だった。壊れた時計やラジオの部品を拾っては、親父の工房で修理の真似事をしていた。

でも今は違う。

遊びじゃない。僕たちの翼を救うための、命懸けのサルベージだ。


目指すは「第4区画」。


噂では、そこには過去の大戦で使われた「大型兵器」が廃棄されているという。

一般家庭の冷蔵庫程度じゃ、あのエンジンの熱は冷やせない。

軍事用の、もっと無骨で強力な冷却機構が必要だ。

瓦礫の山を越え、オイルの水たまりを避けて進む。

奥へ行くにつれて、ゴミの質が変わってきた。

生活用品が減り、分厚い装甲板や、ひしゃげた砲身が目立ち始める。


「……すげえ」


陽炎の向こう、僕は思わず足を止めた。

目の前に、巨大な鉄の怪物が横たわっていたからだ。

全長十メートルはあるだろうか。

キャタピラの片方を失い、地面にめり込んだ「蒸気戦車」の残骸だ。

苔と錆に覆われているが、その威容は衰えていない。分厚いリベット打ちの装甲。象の鼻のように突き出した主砲。

かつて大陸を震え上がらせた陸の王者が、今は静かに朽ち果てている。


「かっこいいな……」


不謹慎かもしれないが、胸がときめいてしまう。

この装甲の曲線、排気ダクトの取り回し。機能美というやつだ。

僕は戦車の装甲をコンコンと叩いてみた。

硬い。そして重厚だ。

この時代の職人たちは、どんな思いでこの鉄を打ち、組み上げたんだろう。


「……おっと、見とれてる場合じゃない」


僕は戦車のエンジンルームに潜り込んだ。

中は暗く、オイルの匂いが充満している。

懐中電灯を頼りに、冷却に使えそうな部品を探す。

だが、ラジエーターは弾丸で穴だらけ、パイプ類は腐食してボロボロだった。


「ダメか……」


戦車を諦め、さらに奥へ進む。

今度は、翼の折れた戦闘機があった。

プロペラが曲がり、コクピットの風防は割れている。でも、その流線型のフォルムは、地上の兵器にはない優雅さを持っていた。

空を飛んでいた機械。僕たちの先輩だ。


「アンタも、最後はここに行き着いたのか」


僕は翼を撫でた。

空を飛ぶものは、いつか必ず落ちる。それが重力の掟だ。

でも、こいつは飛んだんだ。空気を切り裂いて、雲の上を駆け抜けたんだ。


「……何か残ってないか?」


期待を込めて機体を調べるが、めぼしい部品はハイエナのような廃品回収業者に持ち去られた後だった。

残っているのは、再利用不可能なフレームだけ。


歩き回ること数時間。


僕の工具袋はまだ空っぽだった。

壊れたポンプ、錆びたファン、穴の空いたタンク。

どれも帯に短し(たすき)に長し。あのエンジンの熱暴走を止めるには力不足だ。


「……はぁ」


疲労と渇きが押し寄せる。

鉄からの照り返しが体力を奪っていく。汗が目に入って痛い。


やっぱり、無駄足だったのか?

カイルの言う通り、都合よく解決策なんて落ちていないのか?

僕は手近なパイプの山に腰を下ろし、水筒のぬるい水を煽った。


静かだ。

時折、風が鉄板を叩く音が響くだけ。

ここは機械たちの墓場。役目を終えたモノたちが、土に還るのを待つ場所。

僕のエンジンも、失敗すればここに来ることになるんだろうか。


「……嫌だね」


僕は立ち上がった。

諦めない。何かあるはずだ。

理屈(セオリー)が通じないなら、理屈の外にあるものを探せ。

親父ならそう言うはずだ。

汗を拭い、再び歩き出そうとした、その時だった。


「……ん?」


ふと、違和感を覚えた。

頬に、ひやりとしたものが触れた気がしたのだ。


風?


いや、今は(なぎ)だ。それに、ここにあるのは熱風だけのはずだ。

なのに、今の「風」は冷たかった。

まるで冬の木枯らしのような、鋭く乾いた冷気。


「……どっちだ?」


僕は神経を研ぎ澄ませた。

肌で感じる温度差を頼りに、熱気の中に混じる「異物」を探す。


あっちか。


パイプやバルブが複雑に絡み合い、巨大なジャングルのようになっている一角。

僕は瓦礫を乗り越え、その奥へと進んだ。

近づくにつれて、空気が変わっていくのが分かる。

汗が引いていく。

蒸し暑さが消え、ひんやりとした空気が足元を流れている。


そして。


積み上げられた鉄屑の迷宮を抜けた先で、僕は信じられない光景を目にした。


「……なんだ、これ」


そこだけ、世界が狂っていた。

真夏の午後、灼熱の墓場。

その中心に、一本の太い真鍮(しんちゅう)のパイプが突き出ている。

そして、そのパイプの表面には――びっしりと「白い霜」が張り付いていたのだ。


シューッ……。


耳を澄ますと、針で突いたような鋭い音が聞こえる。

ガス漏れだ。

パイプに微かな亀裂が入り、中に残っていた高圧ガスが猛烈な勢いで噴き出している。

僕は吸い寄せられるように近づいた。

手をかざす。

指先が痺れるほどの冷気が、その亀裂から吐き出されていた。


「……見つけた」


心臓が早鐘を打つ。

これだ。この現象だ。

理屈は分からない。でも、ここにある「事実」が答えを叫んでいる。

熱を冷やすための氷は、魔法じゃなくても作れるんだ。

僕は震える手で、その凍りついたパイプを握りしめた。


冷たい。痛いほどに冷たい。


それは、僕たちの翼を蘇らせる、希望の温度だった。

読んでいただき、感謝します!

ガラクタの山に見えても、レオにとっては宝の山。

次回、その山の中で「冷たい奇跡」と出会います。

明日も夜にお待ちしています!

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