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第24話 凱旋と手に入れた「壁」

今日もページを開いてくださり、ありがとうございます。

無事に大金をせしめた四人。

温かいシャワーで生き返った後は、最高の「秘密基地作り」の始まりです。

アイアンポートの中層エリアにある、ギルドの立派な管理支部。

大理石の床が敷き詰められた静かで冷たいロビーに、泥と油と煤で真っ黒に汚れた僕たちの足音が、遠慮なく響き渡っていた。


僕たちは受付の奥にある査察官のデスクへと一直線に向かい、ポケットからくしゃくしゃになった張り紙を取り出して、机の上に叩きつけた。


「依頼、完了だ。暴走風車は完全に沈黙したぜ。金貨五十枚、払ってもらおうか」


僕がニヤリと笑うと、査察官は信じられないという顔で立ち上がった。


「ふざけるな! あの『鉄の断頭台』を、貴様らのような子供が止められるわけがない! たまたま風車の寿命が来て止まっただけだろ!」

「だったら見に行ってみろよ。巨大な鉄の軸に、俺たちが仕掛けた特大のゴムの輪っかと、ちぎれかけたワイヤーが巻き付いたままだ」

「そんな作り話で、正規の整備士資格を持たない浮浪者に金貨五十枚も下ろせるか! 基本報酬の銀貨五枚だけ持って失せろ!」


因縁をつけて出し渋る査察官に、僕がハンマーを握り直そうとした、その時だった。


「よせ。彼らの言うことは本当だ、査察官」

低く、よく通る声がロビーに響いた。


奥の扉から現れたのは、恰幅の良い初老の男だった。ギルドの高級なコートを羽織っているが、その下には油の染み付いた分厚い作業着を着込んでいる。


「バ、バルド技術長官……! なぜこのような窓口へ……」

査察官が慌てて頭を下げる。


バルドと呼ばれた技術長官は、鋭い鷹のような目で僕たちを見据えた。


「観測班の大型望遠鏡で確認した。見事な仕事だったぞ、坊主。強固な岩肌にアンカーを打ち込んで固定点を作り、一本のワイヤーを絡ませて、自らの回転力による摩擦で首を絞めさせたのだろう? ギルドの温室育ちの頭じゃ絶対に出てこない、イカれた発想だ」


バルドはフッと口角を上げた。


「だが、私が一番感心したのは発想じゃない。あのデタラメな乱気流の壁を抜け、『台風の目』の無風空間へ、あんな壁もないボロ船で的確に接近し、姿勢を維持しきったことだ。あの空域を飛べる船の性能と、お前たちの操縦技術……あれは数字だけで測れるもんじゃない」

「……ありがとうよ、おっさん」


僕が答えると、バルドはロビー中に響き渡るような大声で笑い出した。


「ガハハハハッ! いい面構えだ。さあ査察官、約束は約束だ。全額払ってやれ。ギルドは結果を重んじる組織だ」

「は、はいっ……!」


査察官は青ざめながら、奥の金庫から重たい革袋を持ち出してきた。

チャリン、チャリン……と、五十枚の輝く金貨が数え出される。

バルドは僕の肩をガシッと大きな手で叩いた。


「俺はバルド。このアイアンポートで困ったことがあれば、俺の工房を訪ねてこい。面白い野良犬は嫌いじゃないんでな」


ギルドのお偉いさんとは思えない豪快な笑みを残し、バルドは去っていった。

僕たちは五十枚の金貨が詰まった革袋をしっかりと抱きしめ、意気揚々とギルドの支部を後にした。


***


「はぁ〜〜〜……生き返るわぁ……」


アイアンポートの中層エリアで、少し値の張る宿屋の一室。

備え付けられた温水シャワーのブースから、リゼの天国にいるような声が響いてきた。


「リゼ、お湯の使いすぎに注意してね。私とカイルとレオも待ってるんだから」


ドアの外で、バスタオルを抱えたシェリルが苦笑いしながら声をかける。

大金を手にしたリゼの第一声は「まずは宿屋! 絶対に熱いシャワー! もう一秒もこの油と煤まみれの状態は耐えられない!」だった。

順番にシャワーを浴び、こびりついた汚れを洗い流し、清潔なタオルと乾いた服に袖を通す。冷たい風に怯えず、温かいお湯を使えることが、こんなにも幸福なことだとは知らなかった。

全員がさっぱりとした後、宿屋のふかふかのベッドが置かれた部屋で、僕たちは机の上に五十枚の金貨をぶちまけ、白熱した「改造会議」を開いていた。


「いい? 一番に必要なのは『断熱材の入った壁と屋根』よ!」


リゼがテーブルを強く叩いて主張した。


「これ以上、吹きっさらしの甲板でガタガタ震えるのはゴメンだわ! それに……絶対に『ドア付きの個室トイレ』を作ること! 空の上で、カーテン一枚のバケツにするなんて、レディとしてもう限界よ!」

「トイレは賛成だ。だが、俺は推進力も上げたい」

僕は身を乗り出した。「今の『木を削り出しただけの間に合わせのプロペラ』じゃ、効率が悪すぎる。ちゃんとした航空機用の金属ブレードに換装すれば、もっと速く飛べるし風にも強くなるはずだ」


「二人とも、一旦落ち着いて現実を見ろ」

カイルがシャワー上がりで曇った丸眼鏡を拭きながら、冷静に言った。


「居住性も速度も大事だが、高高度を飛ぶための『死活問題』を忘れていないか? 僕たちのエンジンは、空気が薄いせいで不完全燃焼を起こしている。次の目的地へ向かうなら、強制的に薄い空気を圧縮してエンジンに押し込む『過給機(スーパーチャージャー)』が必要不可欠だ」


「でも、そんな精密機械、ギルドの正規ルートじゃないと買えないでしょ?」リゼが噛み付く。


「いや、待てよ」


僕は頭の中でエンジンの構造図と、ジャンク街の光景を思い描き、指を鳴らした。


「要は、大量の空気を無理やりギュッと押し込んで、エンジンにぶち込めばいいんだろ?」

「理屈はそうだが、どうやって?」

「巨大な『送風機(ブロワー)』だ。鉱山の換気なんかに使うジャンクのルーツブロワーを買ってくる。そいつを、エンジンの回転軸から太いゴムベルトで繋いで、エンジンの動力を使って無理やりブロワーを回すんだ。そうすれば、吸気口にすさまじい勢いで空気が送り込まれ続ける!」


カイルが目を見開いた。


「……物理的なベルト駆動でブロワーを回し、強引に吸気圧を上げる……。不格好だし騒音も凄まじいが、スーパーチャージャーの原理そのものだ! それならジャンク屋で部品が揃うぞ!」

「よーし、決まりだ! 断熱壁にプロペラ、トイレ、そしてエンジンの『新しい肺』! 全部まとめてぶち込んでやる!」


僕がガッツポーズをすると、シェリルが机の上に一枚の古ぼけた航空地図を広げた。


「ねえ、船が完成したら……次はどこへ行くの?」


全員の視線が地図に集まる。アイアンポートを起点にして、いくつかの航路が描かれている。


「安全なのは東の『風凪ぎの海』だが、ギルドの監視網が厳しい」カイルが顎に手を当てる。

「ギルドの支配から抜け出すなら、北の『迷いの峡谷』しかない。磁場と気流が狂う難所だが、そこを抜ければ未知の大陸へ出られるはずだ」

「面白そうだ! そこに行こう!」


僕たちはワクワクと顔を見合わせ、夜更けまで自分たちの「秘密基地」の図面を引き続けた。


***


翌日から、マリア婆さんのジャンク屋と臨時整備区画を往復する、文字通りお祭りのような騒ぎが始まった。

軽くて丈夫な波板パネルと断熱材、分厚い防水防風キャンバス、水洗用の簡易タンクと便座。そして、航空機用の金属プロペラと、鉱山用の巨大な送風機(ブロワー)


「レオ、そっちのパネル押さえてて! リベット打ち込むわよ!」

「おう! 隙間風が入らないようにシーリングしろ! ……おいカイル、トイレの位置は本当に船の一番後ろでいいのか!?」

「当たり前だ! 操縦席の横になんか作ったら、気圧の変化で逆流した時に大惨事になるぞ! 匂いがこもらないように、外への換気扇も忘れずに付けろよ!」


ガガガガガッ!


僕たちの怒鳴り合いと笑い声に混じって、リゼがリベッター(鋲打ち機)を鳴らす。剥き出しだった鉄骨フレームの外側に、断熱材を挟んだ壁材が次々と固定されていく。シェリルが軽業師のようにフレームによじ登り、屋根となるキャンバス布をピンと張っていく。


「カイル、ベルトのテンションはこれでいいか!?」

「ああ、完璧だ! 吸気管のジョイントもしっかり固定しろ!」


僕とカイルは油まみれになりながら、エンジンの側面に不格好な「送風機」を溶接し、分厚いゴムベルトを掛けた。さらに、船尾のエンジンに直結されている木製プロペラを取り外し、輝く金属製のブレードへと換装する。

ただの『空飛ぶ足場』だったアルバトロス号に、自分たちの手で壁が立ち上がり、屋根が覆い被さっていく。冷たい風が遮断され、船の中に「内側」という空間が生まれる。

それは、世界でたった一つの、僕たちだけの秘密基地を作る、最高に楽しい時間だった。


***


数日後。アイアンポートに夕闇が迫る頃、ついにアルバトロス号の改造が完了した。


「……エンジン、始動!」


僕がスロットルを押し込むと、ドッドッドッという力強い重低音に混じって、ベルト駆動の送風機が空気を激しく圧縮する『ヒュイイイィィィン!』という甲高い過給音が響き渡った。

新しく生まれ変わった船尾の金属プロペラが、すさまじい風切り音を立てて力強く回転する。ジャンク・ハックで生み出した自作スーパーチャージャーが、エンジンに爆発的な推力を与えていた。


ギィッ、と蝶番の音を立てて手作りのドアを開けると、断熱材の入った壁と屋根に守られた船内は驚くほど静かで、エンジンの余熱でじんわりと暖かかった。床には分厚いラグが敷かれ、壁際には木箱のベッドが並んでいる。そして船尾には、念願の小さなドア付きの「トイレ空間」も鎮座していた。


「よし、それじゃあ……俺たちの新しい家と、新しい翼に乾杯だ!」


僕の合図で、四つのブリキのマグカップがカチンと鳴った。

壁と屋根、推進力、そして新しい肺を手に入れたアルバトロス号は、もはやただの足場ではない。未知の空の果てまで突き進むための、僕たちの「家」であり、最高の「船」だ。


「明日の朝イチで、この街を出るぞ」


僕は窓の外に広がる星空を見上げ、ニヤリと笑った。


「次の目的地は、未知の大陸へ続く北の空……『迷いの峡谷』だ!」

読んでいただき、感謝の気持ちでいっぱいです!

バルド技術長官という粋な大人も登場しました。

そして何より、アルバトロス号に「壁と屋根」、おまけにトイレとスーパーチャージャーが付きました!

自分たちで家(船)を作るワクワク感、伝わりましたでしょうか?

次回、生まれ変わった船で新たな空へ出発します!

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