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第23話 猛獣の断末魔

いつも応援ありがとうございます。

巻き取られるワイヤー、摩擦で焦げるゴム。

限界を超えた力のぶつかり合い、決着の時です!

巨大な鉄の羽が交差する、死の領域。

そのど真ん中――強風が嘘のようにピタリと止む「台風の目」の空間に、アルバトロス号はホバリングしていた。

目の前には、巨大な羽の中心(ハブ)から、僕たちのいる正面に向かって真っ直ぐに突き出している「鉄の軸の先端」がある。大人二人がかりでようやく抱えきれるほどの極太の丸太が、目にも止まらぬ速さで暴走回転しているのだ。


「カイル! この無風空間(ポケット)はあと何秒持つ!?」

「長くても二十秒だ! 気流の乱れが内側に侵食し始めている! 急げ、レオ!」


船の甲板からは、地上四十メートル下の岩肌に打ち込んだ「特大のアンカー」に向かって、一本の長いワイヤーロープがピンと伸びている。

そのワイヤーのもう片端が結ばれた、分厚いゴムベルトと特大の摩擦ブロックで作られた『巨大な輪っか』。僕はそれを両手で高く掲げ、船の先端に仁王立ちになった。


「リゼ、輪っかが掛かったら一秒で反転して離脱しろ! 少しでも遅れたら、俺たちもワイヤーと一緒にあの軸に巻き取られて挽肉になるぞ!」

「言われなくても分かってるわよ! さっさと投げなさい!」


リゼが操縦桿を握りしめ、いつでも急旋回できるようにエンジンを吹かす。

僕は大きく息を吸い込み、狙いを定めた。

目標は、目の前で唸りを上げる軸の先端。少しでも手元が狂えば弾き飛ばされる。

親父がよく言っていた。「機械の動きには必ずリズムがある。力で逆らうな。乗せてやれ」と。

僕は暴走する軸の回転音に耳を澄ませ、そのリズムに自分の呼吸を合わせた。


「いっけええええぇぇぇっ!!」


全身のバネを使い、巨大な輪っかを真っ直ぐに放り投げる。


輪っかは空中で綺麗な円を描き――見事、突き出た軸の先端へと吸い込まれるようにスポンと収まった。


「掛かった! リゼ、離脱!!」


「捕まってッ!」

僕が叫ぶと同時、リゼが操縦桿を限界まで横に倒した。


ギュオオオオッ!


アルバトロス号が船体を真横に傾けながら急旋回し、死の領域である「台風の目」から、外側の乱気流の壁を突き破って一気に空へと飛び出す。

背後で、巨大な鉄の羽が空間を切り裂く轟音が再び世界を塗りつぶした。脱出成功だ。

だが、本当の勝負はここからだった。


バチンッ!!


軸の先端に引っかかった輪っかが猛烈な回転の摩擦に巻き込まれ、生きた大蛇のように軸に絡みついたのだ。


シュルルルルルルルッ!!!


アルバトロス号が離脱した空間を縫って、空中を漂っていた長いワイヤーロープが、恐ろしいスピードで風車の軸へと巻き取られていく。


「巻き上げが始まった! 安全圏まで船を離せ!」


カイルの叫び声。アルバトロス号は風車から十分に距離を取り、空中でその行方を見守る。

ワイヤーはあっという間に巻き取られ、ついに地面の岩肌に打ち込んだアンカーから、風車の軸までの距離がゼロになった。


ガァァァァァァンッ!!!!


崖全体を揺るがすような、凄まじい衝撃音が響き渡った。

地面のアンカーを支点にして、巻き取られたワイヤーが限界まで「ピンッ!」と張り詰めたのだ。

ワイヤーの『固定点』が決まったことで、回転の力は行き場を失い、軸に絡みついた巨大なゴムの輪っかをギュウウウウッ! と内側へ異常な力で収縮させた。

そして。

輪っかの内側に打ち込まれた四つの「牙」――特大の摩擦ブロックが、高速回転する鉄の軸に直接激突し、容赦なく食い込んだ。


ギャアアアアアァァァァァァッ!!!!!


それは、巨大な金属の怪物が断末魔の叫びを上げているような、鼓膜をぶち破る凄まじい轟音だった。

空中に突き出た軸と罠の接触面から、滝のような火花が猛烈な勢いで噴き出し、薄暗い岩肌のエリアを真昼のように照らし出す。

熱だ。

離れているアルバトロス号まで、焦げたゴムと熱せられた鉄の悪臭が届いてきた。


「摩擦ブロックの表面温度が急上昇している! 千度を超えるぞ! ゴムの耐熱限界を超えれば、輪っかが焼き切れる!」

カイルが炎に照らされながら絶叫する。


「耐えろ……耐えろよ、マリア婆さんのガラクタ!」


僕は祈るように、火花を散らす風車の中心を睨みつけた。

風車の膨大な運動エネルギー。

トラクターのブレーキパッドが生み出す強烈な摩擦力。

そして、地面に打ち込んだアンカーと岩肌の強度。

三つの力が限界を超えてぶつかり合う、命懸けの猛獣狩り。


バキバキバキッ!


地上四十メートル下で、岩盤に食い込んだアンカーの周囲から岩の欠片が弾け飛ぶ。

ピンと張り詰めたワイヤーロープの繊維が、一本、また一本と引きちぎれる嫌な音が空中に響く。

火花は激しさを増し、ブレーキパッドからモウモウと黒煙が上がり始めた。

ダメか。ゴムが焼き切れるのが先か、ワイヤーが切れるのが先か。

だが、僕たちの泥臭い罠は、ギルドのエリートたちが信奉する「机上の数字」よりも、ほんの少しだけしぶとかった。


ギギ……ギギギギギギ……ッ!!


風車の唸り音が、明らかに低く、重苦しいものに変わった。


「回転数が落ちてる! 罠が風車のエネルギーを食いつぶしてるぞ!」


カイルが歓喜の声を上げる。

自らの回ろうとする強大な力によって、ワイヤーを巻き上げ、自らの首を締め上げる巨大な罠。

四枚の羽の回転速度が目に見えて落ち始め、空気を切り裂く衝撃波が徐々に小さくなっていく。


「止まれ……!」


僕が拳を握りしめ、魂からの絶叫を上げた瞬間。


ガコンッ!!!!


最後に巨大な火花が散り……そして、すべてが止まった。

空中に突き出た極太の鉄の回転軸が、完全に動きを止めている。

それに連動して、暴れ狂っていた四枚の巨大な鉄の羽も、その重さに引っ張られるようにして回転を止め、巨大な十字架のようにピタリと静止した。

猛烈な乱気流は消え去り、荒涼とした岩柱のエリアには、本来の自然な風の音だけが戻ってきた。


「……と、止まった……?」


リゼが震える手で操縦桿を握りしめたまま、信じられないというように呟く。


「ああ」


僕は大きく息を吐き出し、へなへなと甲板に座り込んだ。

遠くに見える風車の中心では、真っ黒に焦げ、原型をとどめないほど削り取られた特大のブレーキパッドから、シューシューと白い煙が上がっている。

ゴムの輪っかは熱でドロドロに溶けかけていたが、最後まで千切れることはなかった。地面のアンカーと軸を繋ぐワイヤーは、今もピンと張ったまま、風車の巨大な質量を抑え込んでいる。


「……完全停止を確認。摩擦熱のピークも越えた。僕たちの……勝ちだ」


カイルが眼鏡を外し、目頭を押さえながら言った。

静まり返ったアイアンポートの最下層。

ギルドの正規整備班が匙を投げ、死傷者を出し続けた「鉄の断頭台」は、スラムのガラクタと、壁もないボロ船に乗った子供たちの手によって、見事に沈黙させられたのだ。


「やった……やったわ! 私たち、本当にやったのよ!」


リゼが操縦席から飛び出し、僕とカイルに抱きついてきた。シェリルも涙ぐみながら、僕の背中にしがみつく。


「痛っ、痛いってリゼ!」


僕は笑いながら、真っ黒に汚れた手で三人の背中を叩いた。

最高の気分だった。

大人たちの作った「不可能」というルールの壁を、また一つ、自分たちの力でぶち壊したのだ。


「さあ、凱旋と行こうぜ」


僕は立ち上がり、アイアンポートの上層街並みを見上げた。


「ギルドの連中から、金貨五十枚をむしり取ってやる時間だ」

お読みいただき、ありがとうございます!

見事、ギルドがお手上げだった「鉄の断頭台」を沈黙させました。

レオの泥臭い罠が、不可能を可能にした瞬間です。

次回は待ちに待った報酬の時間。そして、船の大改造が始まります!

明日もぜひ、彼らの凱旋を見届けてください。

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