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第22話 嵐の目(ポケット)を射抜け

今日も読みに来てくださり、ありがとうございます!

いよいよ「第三揚水風車」との対決です。

目にも止まらぬ速さで回転する巨大な鉄の羽。その中心「台風の目」へ、真っ向から突っ込みます。

しっかりシートベルト(ないですが)を締めてお読みください!

アイアンポートの影を抜け、都市の最下層に広がる荒涼としたエリアへと飛び出した瞬間。

僕たちは、空が「青くて美しいだけの場所」ではないことを、文字通り肌で思い知らされた。


「ひぃぃぃっ!?」


カイルが悲鳴を上げ、這いつくばるようにして床板のボルトにしがみついた。


ゴオオオォォォッ!!


切り立った無数の岩柱の間を縫って吹き荒れる凶暴な突風が、壁も屋根もないアルバトロス号を容赦なく横から殴りつける。

船体が悲鳴を上げて大きく傾く。


「キャアアッ!」

「リゼ、手すりから手を離すな!」


僕は横転しそうになる操縦桿を、全体重をかけて強引にねじ伏せた。

トラクターのエンジンが苦しげな爆音を上げ、プロペラが空気を切り裂いて姿勢を立て直す。シートベルトなんて上等なものはない。少しでも気を抜けば、そのまま空の底へと放り出されてしまう。


「レオ! 前方を見ろ! あれが目標だ!」


強風に煽られながら、カイルが真っ青な顔で前方の一点を見つめていた。

天に向かって突き出た無数の岩柱。その中でひときわ太い、地上四十メートルほどの高さがある岩柱から、空中へ向かって水平に鉄の軸が突き出している。

そしてその先端には、アルバトロス号の二倍以上の直径を持つ、巨大な四枚の鉄の羽が取り付けられていた。


『第三揚水風車』。

いや、「風車」というのどかな言葉で呼んでいい代物ではなかった。


「……冗談、でしょ?」


リゼが絶望的な声を漏らす。


ギュオオオオオオォォォォンッ!!


制御を失い、強風を百パーセントまともに受けた巨大な羽は、目にも止まらぬ恐ろしい速度で暴走回転していた。遠心力で鉄の羽が歪み、空気を切り裂くたびに鼓膜を破るような衝撃波を撒き散らしている。

まるで、巨大な円盤状の「鉄の断頭台」だ。


「設計限界を遥かに超えてる! あんなものに正面から近づけば、乱気流に巻き込まれて木っ端微塵だぞ!」

カイルが叫ぶ。


「ビビるな! まずは作戦通り、罠の『支点』を作るぞ! リゼ、一番手前にある太い岩柱の根元に船を寄せてくれ!」

「無茶言わないでよ! やってみるけど!」


リゼが操縦桿を握り、強風に煽られながらも、標的の風車から少し離れた岩柱の根元、地面のすぐ近くへと船をホバリングさせた。

僕は甲板に転がっている特大の「鉄の錨(アンカー)」を肩に担ぎ上げた。アンカーには百メートルもの重機用ワイヤーが結ばれ、そのワイヤーのもう片端は、アルバトロス号に乗せた巨大なゴムの『輪っか』へと繋がっている。


「うおおおっ!」


僕は船から岩肌へと飛び移り、岩盤に走る深い亀裂に向かって特大のアンカーを突き立てた。手持ちのハンマーで何度も力の限り打ち込み、絶対に抜けないことを確認する。


「固定完了! これで強固な岩肌が、罠を引っ張る支点になる!」

僕は命綱をたぐって再び船へと飛び乗った。


「さあ、次は本命だ!」


僕は機首に進み出て、甲板にとぐろを巻いている巨大なゴムの輪っか――内側に四つの特大ブレーキパッドが打ち込まれた『罠』を両手で持ち上げた。

見上げる先には、地上四十メートルで暴れ狂う巨大な鉄の羽。そしてその中心(ハブ)からは、僕たちが輪っかを引っ掛けるべき「軸の先端」が、真っ直ぐ正面に向かって突き出している。

あそこへ向かって、真正面から突っ込むのだ。


「シェリル、風の道は見えそうか!?」

「待って……!」


シェリルが風に向かって身を乗り出し、目を閉じる。目に見えないはずの風のうねりを、肌で感じ取ろうとしているのだ。


「巨大な羽がものすごい勢いで外側の空気を弾き飛ばしてるから……その分、一番真ん中の『軸』の真っ正面だけは、空気が吸い込まれるみたいに風圧が弱くなってる!」

「台風の目だ!」


カイルが手帳を開き、羽の直径と回転速度から空間座標を瞬時に割り出す。


「乱気流の壁を抜けて、中心の無風地帯(ポケット)に安全に進入できる『軌道』が見えた! レオ、スロットルレバーを十度の角度で固定しろ! 僕がタイミングを合わせる!」


シェリルの感覚的な風読みと、カイルの論理的な軌道計算。

この二つが合わされば、鉄の断頭台にだって風穴を開けられる。


「カイル、カウントダウンだ! ワイヤーが絡まないようにしっかり送り出してくれよ!」

「来るぞ……! 軌道に乗るまで、五!」


僕は輪っかを構え、スロットルレバーに手を掛けた。

心臓が早鐘のように鳴っているが、不思議と恐怖はなかった。この四人が揃っていれば、不可能な壁なんてない。


「四! 三!」


頭上から、鼓膜を破るような轟音と乱気流が叩きつけてくる。船がガタガタと激しく振動した。


「二! 一! 今だッ!!」

カイルの絶叫。


「うおおおおぉぉぉぉっ!!」

僕はスロットルレバーを、根元まで一気に押し込んだ。


ドバアァァァン!!

オーバーホールしたエンジンが爆発的な推進力を生み出し、アルバトロス号は矢のように斜め上空へと加速した。地面に固定されたワイヤーが、シュルルルッ!と勢いよく甲板から空へ向かって伸びていく。


次の瞬間。


僕たちは、巨大な鉄の羽が作り出す乱気流の壁へ、真正面から突っ込んでいた。


「キャアアアッ!」


猛烈な風圧で息ができない。機体がきしむ。

だが、カイルとシェリルの導き出した軌道に狂いはなかった。アルバトロス号は、外側に吹き荒れる暴風の壁をギリギリですり抜け、巨大な羽の中心部へと吸い込まれるように飛び込んだ。

フッ、と風切り音が消えた。

周囲では四枚の巨大な羽が狂ったように回って視界を覆い尽くしているが、その中心であるこの空間だけは、奇跡のように風が穏やかだった。

目の前には、羽の中心(ハブ)から正面に向かって突き出している、太い鉄の軸の先端がある。


「着いたぜ。鉄の断頭台の、ど真ん中だ」


僕は手にした巨大なゴムの『輪っか』を構え、口角を上げた。


「さあ、特大の輪投げの時間だ」


最後までお付き合いいただき、ありがとうございました!

シェリルの風読みとカイルの計算が、乱気流の壁に道を作りました。

特大の輪っかが見事に突き出た軸に収まりましたが、勝負はここからです。

次回、猛獣の断末魔が響き渡ります。

明日も夜に更新します!

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