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第2話 極秘機関・特災対

後になって思えば、あの時、僕はもう“試験”の中にいた。

ただの案内だと思っていた廊下も、あの視線も、

すべてが――選別だった。




内場総士(うちばそうし)は、治療を受けていた白い部屋から、外の通路へ恐る恐る足を踏み出す。


内場の前を歩くのは二人。


一人は、先ほど「特災対(とくさいたい)戦術局長」と名乗ったスーツ姿の男―― 久我宗一郎(くがそういちろう)


もう一人は、黒い戦闘服に身を包んだ男―― 荒屋(あらや)


どちらも、ここが“異常な場所”であることを疑いもしない顔をしている。


「行くよ」


久我が歩みを進める。

内場は一瞬だけ足を止め、それから二人の背を追った。




長く、まっすぐに伸びた廊下。


コンクリート調の灰色の壁。無機質な床。

装飾は一切ないが、随所に監視カメラとセンサーらしき装置が埋め込まれている。


内場は、無意識に周囲へ視線を走らせていた。

――逃げ道を探すような目だ、と自分で気づき、すぐに打ち消す。


「あの……」


前を歩く二人に向けて、内場は口を開いた。


「特災対って……どんな組織なんですか」


久我は振り返らず、淡々と答えた。


「日本が抱える、対異能者の極秘機関だよ」


一拍。


「異能者は、放っておくと“災害”になる。

 俺たちはそれを、表に出る前に処理する」


内場の喉が、かすかに鳴った。


処理する――

その言葉の温度が、やけに低く感じられた。




通路の先が開ける。


その瞬間、怒鳴り声が響いた。


「なんだよここは! 俺は誰も殺しちゃいねえ!」


声の主は、先ほど銀行で暴れていた男だった。


手錠をかけられ、目隠しをされ、

さらに頭部には、見慣れない装置が装着されている。


男の両脇には、機関銃を構えた戦闘服の隊員が数名。

一切の躊躇もなく、淡々と男を連行していく。


内場は、足を止めかけた。


――銃を、普通に携帯している。

――異能者を、独自に確保・拘束している。


どう考えても、警察でも自衛隊でもない。

ここは、普通の組織じゃない。



久我は、その様子を横目に見ながら言った。


「ここは特災対の拠点の一つ。コマンドセンターだ。

 東京都内の地下にある。」


久我は微笑む。


「都内の()()にあるのかまでは、教えられないけどね。」


徹底した機密性。

そこにいるという実感に、内場の身体は強張った。

 

「今見たフロアは、特殊監理局(とくしゅかんりきょく)の管轄」


久我は歩みを止めず、続ける。


「確保、収監、事情聴取。

 ……まあ、異能者を()()する部署だね」


内場は思わず尋ねた。


「俺が、ここで治療されてたのは……」


「君が()()()()()()()()()()()()()()()()だよ」


あっさりと告げられ、内場の背中に冷たいものが走る。




しばらく歩いたところで、内場は意を決して口を開いた。


「……あなたたちは、異能者なんですか」


久我は、わずかに振り向いた。


一瞬、きょとんとした顔をしてから――吹き出す。


「ぷっ。俺らが、異能者に見えるかい?」


半笑いで、肩をすくめる。


「ただの人間だよ。この機関で働く人間に、異能者はいない。

 異能者とは、"銃"と"戦略"で戦うんだよ」


内場は、その言葉を反芻した。


()()()()()

だが、さっき見た光景は、とてもそうは思えなかった。




廊下の分かれ道で、久我は足を止める。


「戦術局の管轄エリアは、そっち」


そう言って、荒屋を見る。


「じゃあ荒屋。後は任せたよ」


久我は軽く手を振り、左へと伸びる廊下へ歩き去っていった。


残された内場と荒屋。


荒屋は振り返り、短く言った。


「ついてこい。

 お前はうちの部隊で引き取ることになった。

 同僚に会わせる。その後、軽く訓練だ」


訓練。


その言葉に、内場の胸がざわつく。


――本当に、戻れない場所に来てしまった。


内場は荒屋の背を追いながら、そう確信していた。




◆◆




戦術局エリアの扉が開いた瞬間、

内場は、空気が変わったのをはっきりと感じた。


広い。

だが、だだっ広いわけではない。


壁面には大型モニター、銃架、装備ラック。

床には訓練用のマーキング。

ここは――"戦うための場所"だ。


「お、戻ってきた」


最初に声をかけてきたのは、

椅子に深く腰掛け、菓子袋を片手にモニターを眺めている男だった。


ふくよかな体型。

糸目で、柔らかい笑顔。

髪は短めの黒髪。


――第一印象だけなら、どう見ても戦闘員には見えない。


「新顔くん? こんにちは〜」


男は立ち上がり、軽く手を振った。

戦闘服の上からも腹部のボリュームが目立つ。


「副隊長の安藤和真(あんどうかずま)です。安藤さんって呼んでください」


……副隊長?


内場は一瞬、言葉を失った。


「えっと……内場、です」


「よろしくね〜。いやぁ、銀行の件、見てましたよ。

 一般人があれやる?普通」


軽い口調。

だが、内場は見逃さなかった。


安藤の視線が、一瞬だけ鋭くなったことを。




「チッ……また増えたのかよ」


低く、苛立った声。


部屋の隅、銃のメンテナンス台の前。

ロングコート姿の男が、スナイパーライフルを分解しながらこちらを一瞥した。


サングラス越しでも分かる。

――目が、違う。


獲物を見る目だ。


「……ドルチェだ」


ぶっきらぼうに名乗る。


「言っとくけど、歓迎はしない。

 足引っ張るなら、前に出るな」


内場の喉が鳴る。


この男、冗談で言っていない。


安藤が苦笑した。


「まぁまぁ。最初から当たり強いなぁ」


「事実だろ」


ドルチェは視線を戻し、銃の調整を続けた。


「俺の弾道に割り込むな。

 それだけ守れりゃ、後はどうでもいい」


内場は、背中に冷たい汗が滲むのを感じた。




「えっと……内場さん、ですよね?」


三人目に声をかけてきたのは、

少し遅れて部屋に入ってきた美形の女性だった。


肩まで伸ばした黒髪に、ぱっちりとした大きな瞳。

柔らかい笑顔と、凛とした眼差し。


だが、立ち姿は隙がない。


長谷川美玲(はせがわみれい)です。よろしくお願いします」


「よ、よろしく……」


内場が答えると、彼女はほっとしたように微笑んだ。


「よかった……ちゃんと話せそうな人で」


「どういう意味だよ」


ドルチェがぼそりと突っ込む。


「別に。独り言です」


長谷川はさらりと受け流した。


そのやり取りを見て、内場は少しだけ息を整えた。


――この人がいなかったら、空気がだいぶ重かった気がする。




「全員、注目」


低い声が響く。


荒屋だった。


一瞬で、空気が締まる。

安藤は菓子袋を畳み、ドルチェは手を止め、長谷川は背筋を伸ばす。


「こいつが新しく入る、内場総士だ」


荒屋は短く言った。


「自衛隊経験あり。異能者と正面からやり合って生き残った」


このフロアにいた20人ほどの視線が、内場に集まる。


評価でも好奇心でもない。

――測られている。


「長谷川、当面は面倒を見ろ」


「了解です」


即答だった。


「安藤、全体管理」


「はいはい〜」


「ドルチェ」


「……分かってる」


荒屋は最後に内場を見る。


「言っとく」


短く、しかし重い声。


「ここは、命を賭ける場所だ。

 甘えは通用しない」


内場は、思わず拳を握り締めた。


「……はい」


声は震えなかった。


荒屋は、それだけで頷いた。


「この部隊の――第3部隊の隊長、荒屋茂一(あらやしげかず)だ」


荒屋は手を差し出す。

内場は一瞬躊躇うが、その手を握る。


握手。


「よし。内場、着替えろ。10分後、訓練区画に集合だ」


そう言って背を向ける。


長谷川は、黒の戦闘服を内場に手渡す。

それから部屋の隅にあるロッカーが置かれた一画を指差した。


「これが戦術局戦闘部隊の正装だから着るようにお願いします。あそこで着替えてね」




荒屋が去った後、

安藤がぽん、と手を叩いた。


「さて。改めて」


にこっと笑う。


「ようこそ、特災対戦術局 第3部隊へ」


ドルチェは鼻で笑い、

長谷川は小さく頷いた。


内場は、その光景を見つめながら思った。


――ここは、優しい場所じゃない。

――異能者という、得体の知れない存在と戦う者達。


内場総士はようやく理解し始めていた。


自分が足を踏み入れたのが、

どれほど危険で、どれほど重い場所なのかを。




――その時だった。


ブーッ!


戦術局エリアの天井スピーカーから、短い電子音が鳴った。


『――第3部隊、新規要員選別を開始する』


荒屋の足が、わずかに止まる。


「訓練だ」


そう前置きしてから、淡々と続けた。


「――実戦形式でな」


内場の耳が、嫌な音を拾った。


金属同士が擦れる乾いた音。


振り向いた先で、ドルチェがスナイパーライフルにペイント弾のマガジンを装填していた。


その口元が、わずかに歪む。


「生き残れよ、新人」


内場総士は、その瞬間になって理解した。


ここでは、

“訓練”という名の下で、

本気で撃たれる。


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