目覚めの兆し
鳥人帝国――雷殿城
(“サンダー・パレス”の名でも知られる城艦)
惑星間にたゆたう漆黒の巨艦。
その最深部、謁見の間には重い沈黙が満ちていた。
並び立つ六つの影は、六本の刃を思わせる緊張を放つ。
《第1翼・迅雷翼》ハクト
《第2翼・氷刃翼》フロスト
《第3翼・猛禽翼》グラド
《第4翼・彩煌翼》ルクス
《第5翼・毒翼》トキシン
《第6翼・幽闇翼》ノクス
帝国最強と謳われる“六翼”である。
やがて三人の王族が姿を現す。
静かな気高さを湛える アレクシア妃。
胸を張り堂々と歩む カイロス王子。
どこか翳のある眼差しを向ける エリシア王女。
そして、謁見の間の王座には――
老帝 ゼラフィム皇帝 が深く鎮座していた。
◆ ハクトの報告
沈黙を最初に破ったのは、六翼の筆頭・ハクトだった。
「……報告いたします。
封印王冠機が覚醒。
操縦者は地球の少女――“鷲尾ことり”。」
アレクシア妃が息を呑む。
「やはり……王冠機は地球に。封印は完全ではなかったのですね。」
カイロスが一歩前へ出る。静寂を押し返すような声で叫んだ。
「母上、案ずることはありません!
六翼が揃う今、王冠機とて恐るるに足りません!」
だがエリシアは視線を伏せ、かすかな声で呟く。
「……その少女を巻き込む必要、ありますか……?
彼女は何も知らないのに……。」
トキシンが口端を吊り上げた。
「覚醒した時点で“罪”だろう?
オルニス因子は帝国の至宝。外部の者に宿るなど、本来許されぬ。」
彩煌翼ルクスは扇のような尾羽を揺らし、楽しげに言う。
「でも、その子どもがハクトの渦雷鴉を倒したんですよね?
どんな子なのでしょう……ちょっと興味あります。」
猛禽グラドが腕を組み、低く問う。
「ハクト、渦雷鴉が破られた理由は?」
ハクトは微動だにせず答える。
「単なる力比べではありません。
“オルニス因子と少女の意志”が共鳴していた……。
戦士形態へと変化した王冠機は、渦雷鴉を一撃で粉砕した。」
氷刃フロストが静かに目を伏せる。
「……脅威に成長する前に制圧すべきだ。」
幽闇ノクスの声が、影の底から忍び寄るように響く。
「コトリ……。名は覚えた……。
その気配、いずれ辿り着ける……逃れることはできぬ……。」
アレクシア妃は眉を曇らせた。
「ノクス……少女だけは……。
あの力は、本来――」
その言葉を皇帝の重い声が遮った。
◆ ゼラフィム帝の裁断
「王冠機を恐れるな。」
そのひと言だけで、謁見の間の空気が凍りつく。
「古代オルニス文明が遺した至高の遺産……
その力は、いずれ帝国のものとなる。
どのような少女が操ろうとも、王冠機は我らの手へと帰還する運命だ。」
皇帝はゆるりと視線をハクトへ向ける。
その眼光は、老いを超えた鋼の威圧を宿していた。
「ハクトよ。
次は“制圧”せよ。
王冠機を――必ず取り戻せ。」
ハクトは膝をつき、深く頭を垂れる。
「御意。必ずや、我が翼で手中に。」
そのやり取りを見つめながら、エリシアだけが胸元をそっと握りしめる。
「……どうして……
オルニス文明が遺した“空の力”に、
皆こんなにも執着するの……?」
誰も答えられないまま、
雷殿城は静かに震え、次なる侵攻の胎動を響かせる――。
その裁断が下された瞬間、
誰も知らぬまま、ひとつの“波”が放たれていた。
雷殿城の奥で生まれた意思は、
稲妻のように星々を貫き、
やがて青い惑星――地球へと向かう。
そこにはまだ、
その選択が、どれほどの戦いを呼ぶのかも、
空を守るという言葉が、どれほど重いのかも知らぬ、
ただ一人の少女がいた。
湖畔の静寂
――少女と王冠機の会話
ヴォルテクス・レイヴンの光が空へ散ってしばらく。湖はようやく静けさを取り戻しつつあった。
夕焼けが水面に揺れ、クラウンダイバーは戦士形態のまま、ゆっくりと浅瀬へ降り立つ。
金属の脚が静かに波紋をつくり、湖畔の空気はひんやりと澄んでいく。
コックピットの中で――ことりはシートに沈みこみ、深く、深く息を吐いた。
「……はぁぁぁ……っ…… し、死ぬかと思った……ほんとに……!」
震えた声が、ようやく“生きている実感”を取り戻していく。
クラウンダイバーの声は、戦闘時よりもずっと穏やかだった。
『コトリ……よく頑張った。 お前が踏みとどまったから、私は戦えた。』
ことりは潤んだ目で外を見る。
「……あんなの……無理だよ……。 空が裂けるみたいだったし、雷も飛んでくるし…… 私、震えてた……!」
『震えていても、逃げなかった。 それが“勇気”だ。』
そう言われ、ことりは照れたように目をそらす。
「……あんまり褒められると、変な感じ……。」
『褒めているわけではない。事実を述べているだけだ。 お前の意志が、私を動かした。』
ことりは胸にそっと手を置く。
戦っている間ずっと、胸の奥の緑の光――オルニス因子が熱く脈打っていた。
(私……あのとき…… “守りたい”って……確かに思った……。)
外の巨大な影――鳥の姿から人型へ変わったばかりのクラウンダイバーを見上げる。その姿はあまりにも大きいのに、不思議ともう怖くなかった。
クラウンダイバーが静かに問いかける。
『コトリ。 私の力を“どうしたい”と思う?』
「え……?」
『私を起こしたのは、お前だ。 お前の願いに応じて私は形を変えた。 だから聞きたい。 お前は……空を守りたいか?』
ことりは口を開きかけて――けれど胸の奥で何かが引っかかり、言葉がつまる。
「……守りたい、けど…… でも私……怖いよ。 強いわけじゃないし…… さっきだって泣きそうだったし……!」
『泣きそうでも、泣いてもいい。 それでも一歩進めたなら――それで充分だ。』
クラウンダイバーの声は、まるで優しい風のようだった。
『コトリ。私はお前の弱さを否定しない。だが……その弱さの奥にある“優しさ”が、
戦いの中でも消えなかった。だから私は、いまここに立っている。』
「……優しさ……?」
『あの瞬間、お前は自分のためではなく―― “誰かを助けたい”と願った。 その心が、オルニス因子を揺らした。』
ことりは息を呑む。自分が自分に驚いていた。
(……そっか…… 私、あのとき…… 本気で誰かを助けたいって……思ったんだ……。)
『お前が望むなら、私は再び戦おう。 だが無理にとは言わない。 お前の意志が、すべての鍵だ。』
湖の風が制服を揺らす。遠くで街に煙が上がっている。
ことりはしばらく黙っていたが――やがて、小さく、小さく呟いた。
「……守りたい。 怖いけど……守りたい。 私……逃げたくない。」
クラウンダイバーの王冠センサーがやわらかく光を放った。
『……そうか。 なら、私はお前と共に空を守ろう。』
夕焼けの中、少女と王冠機の間に、“絆”が生まれた。
その絆が、
どれほど大きな意味を持つのか――
この時の少女は、まだ知らなかった。
だがオルニス因子は理解していた。
“守りたい”という意志が、
封印を越え、世界へと届いたことを。
――クラウンダイバー覚醒の余波
四騎士鳥、静かなる目覚め
クラウンダイバーが戦士形態へと変化した瞬間、
世界には波紋のような“気配”が走った。
それは風も海も大地も震わせない。
だが、確かに“心”だけがおびやかに揺れる――
オルニス因子の共鳴波。
その呼び声は、地球の奥深くへと届いた。
◆ 地球――四つの影が同時に揺らぐ
▼ 森林の中にある泉の祠の奥
青い瞳のような光が、ふっと灯る。
カワセミ型がわずかに羽を震わせた。
(……静かな光……あれは……?)
▼ 山の中腹にある古びた神社
封じられた赤い鳥型ユニットが、脈動する。
(……熱い……意思……?)
アカショウビン型が、
長い眠りの中で薄く目を開けた。
▼ 山岳遺跡
静寂の石壁の奥。
アカゲラ型の脚部が
小さく「コン」と響かせる。
(……衝撃……踏み出せ……?)
▼ 樹海の奥深くに眠る遺跡
風が跳ねる。
メジロ型が震えた。
(……走る……呼んでる……誰……?)
四機はまだ完全覚醒していない。
だが“目覚めの呼吸”を確かに始めていた。
◆ その同じ瞬間――四人の若者にも“ざわめき”が走る
▼ ある少年(情熱家)
夕日の前で、突然胸が熱くなる。
「……なんでだ。火がついたみたいだ……」
理由は分からない。ただ拳が震えた。
▼ 静かな少女(冷静で凛としたタイプ)
書類に目を落としていると、
視界の端に一瞬“青い光”が走った。
「……気のせい? なのに……心だけ揺れた……」
▼ 元気な少女(負けず嫌い)
走っていた足が、突然軽くなる。
「えっ……踏み込みの感覚が違う……!」
まるで地面が味方しているように。
▼ 小柄な少女(好奇心旺盛)
帰り道で、風が耳元をくすぐった。
(……おいで……)
「……え? いま呼ばれた……?」
誰もいないのに。
◆ 雷殿城――帝国にも届いた“微かな騒ぎ”
影翼ノクスが跪き、報告する。
「……地球より“四つの微弱反応”……
クラウンダイバーの共鳴に呼応……。」
六翼がざわつき、
彩煌ルクスが微笑を消す。
「四つ……騎士鳥……?」
フロストが短くまとめた。
「まだ覚醒には程遠いわ。しかし――放置はできない。」
アレクシア妃の表情が曇る。
「また……古代の悲劇が繰り返されるのですか……?」
一方で、
エリシアだけが胸元を押さえ、小さく祈った。
(お願い……
彼らが“戦うため”ではなく……
“守るため”に目覚めますように……)
地球の奥で、四機の鳥が揺らいだ。
クラウンダイバーの覚醒は、
彼らを導く“始まりの鼓動”。
その気配に応えるように、
四人の若者の中にも、静かに“何か”が生まれ始めていた。
2章に繋がるためのお話をUPしました。
クラウンダイバーが覚醒したことによる。
クラウンダイバーを守護する騎士の目覚めの予兆です。
皆様のご意見、真摯に受け止めて行きますので感想お待ちしております。




