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きゅうくらりん

2年校舎に辿り着いた俺は、廊下から教室に向かっていた。

周囲には俺と同じように登校してきた奴らが歩いていて、校舎に賑わいをもたらしている。

校舎の景観は、まあ普通の学校って感じか?

西洋城の外見から想像される内装。それっぽい窓ガラスとか柱とかが等間隔に綺麗にある廊下の雰囲気だ。


「おはよう。オーディン」

「ヤベイじゃねえか!おはよう!今日も5万kmジャンプして来たか?」


「してねえよ。今日も昨日も可愛い妹の空間転移だぜ」


こいつの名前は近藤オーディン。

俺も同じクラスの男子生徒で、名前の由来は神の如き力を持った男に成長して欲しかったらしい。

坊主頭で馬鹿っぽいが、中等部からのそこそこ長い付き合いだったりする。


「アカリちゃんか!くう〜〜〜羨ましいぜ!あんな美人な妹と毎日登校できるなんてよ。なあ、1日だけ俺にアカリちゃん貸してくれねえか?俺ら友達だろ?」

「駄目だ。家の妹は絶対お前にはやらん」


女好きのオーディンをアカリと2人っきりにするなんて許されない。

空間転移の時にさりげなく胸に触ったりでもしてみろ。

俺の5万kmの脚力で地上から『玄関入り』させてやるよ。


「いいじゃねえか〜。ついでに久々にヤベイが5万km跳躍して登校するのも見れるしな!」


ヤベイってのはオーディンが呼ぶ俺のあだ名だ。

種屋ベイの屋ベイから取ったらしく、俺はそこそこ気に入っているあだ名だ。


「もうあれはやらん」


さっきから言ってる5万kmは俺が中学時代に身体強化のジャンプ力だけで『逆さ越え』をしていたエピソードから来ている。

登校するだけでクレーターが出来て周囲が大惨事になるので『逆さ越えの男』として恐れられていた。

恥ずかしい話だ。

ただ単に空間転移が苦手なだけなのに。



キーンコーンカーンコーン


始業のチャイムが鳴る。



俺とオーディンは教室で、それぞれの席に着いた。

にしても…オーディンの奴、篠崎ちゃんも狙っているらしいが流石に中等部には手を出すなよ…?


『あ、あ、あああ。ようこそ愛しい生徒たちよ。おはよう。さてお前らはゴミだ。この名門校グレンディープ校に入学し、S組と言う名誉ある地位に賜っておきながら日々を無駄に浪費し尽くす屑だ。そんな100人のゴミにこの私が教師として一日中鞭を入れてやるのだ。それでは授業(さつりく)を開始する。』


この頭がおかしい人は俺の担任だ。

ユルウェイ・シホウ。俺の担任であり、2年S組を担当する教師であり、2年S組の授業の全てを受け持っている。


見た目は金髪のロングヘアーが腰までかかるかなりの美人であり、その美貌と爆乳から『教師になって欲しくない人ランキング』に10年連続1位に輝いている。


『さて、授業を始める前に…種屋ベイ!! 死ね』


瞬間、景色が一変した。

俺は手足を蔦で拘束され、目の前では怒り狂った虎が俺を食う準備をしている。

ここはジャングルだ。

正確には、俺の頭の中に先生がジャングルを形成している。

虎が大量の涎を垂らして牙を剥く。そして────


「く、クソっ! うおおおおおおおおおおお!!!!!!」


「無事か!?ヤベイ!」

「はあっ…はあっ…」

『よく現実に戻ってこれたな。流石に素晴らしい()だ』

「…先生の巫術を。俺の巫で無理やり引き剥がしました。」


巫とは、俺たち人間にとっての魂である。

そして巫は、巫術という科学技術を使うために必要なエネルギーだ。

巫は魂であり、エネルギーであり、全人類に生まれつき備わっているものだ。


『膨大な巫を内包したお前だから為せる技だ。巫術とは、自らの巫に刻まれた高度な科学技術の型に更に自らの巫を流し込み、発動する』

『つまり全ての巫術は使用者の巫を注ぎ込まなければ発動されない。裏を返せば、敵の巫に自らの巫を侵入させ、その科学技術の型に入り込み強引に押し流してしまえば。』


「…巫術は解除できる」

『これが『流出解除』だ。よく幻覚にかかった状態で私の巫を捉える事ができたな。目に見える敵の巫を捉えるのとは訳が違うぞ』

「まあ、ゴリ押しですよ。つーか!」


「授業早々生徒に死の幻覚を押し付けてくる先生がどこにいるんだよ! 俺じゃなかったら食われて死んでるって!!!」

『気にするな。所詮幻覚だ。限りなくリアルに近い痛みと死を味わえるように設定したがな』

「クビになっちまえ!」


もう分かっただろう。この人が10年連続1位に輝いている理由が。この人は平気で生徒に体罰まがいの指導をしてくるのだ。


「はあ…はあ…所で、何で先生は口パクなんですか? 巫術で俺たちにテレパシーを送っているんだから、口を閉じたままでいいのでは?」


『何故この私がお前のために態々口パクをしないという手間を挟んでやらねばならんのだ』

「意味が分かりません」


「くぅ〜〜!ヤベイの巫が、ユルウェイ先生の巫の中に無理やり!羨ましいぜ…!」

「お前すげえな!?」


マジかよ…オーディンの奴、美人だったら誰でもいいのか?

死を押し付けられてもいいのか?

もしかしたらユルウェイ先生よりこいつの方がやばいのかもな…




─── ───


放課後の廊下は、夕日に彩られている。

俺は擬似的な太陽の前で目を瞑った。1…2……20秒。

「アリス。」


目を開ける。

これが俺と愛架(まなか)が交わした『合言葉』だ。


「………」

「どうした?」

「いえ、相変わらず凄い私服だなと思いまして」

「女装してるお前に言われたくないけどな」

「なっ…!べ、別にいいじゃないですか女装くらい!そんなに金ピカの鎧着込んでる人に言われたくないですよ!ぼくのは『ちゃんとした人間のファッション』ですからね!もうっ!」


愛架が顔を赤くして早口でまくし立てる。

何だ? 俺はちゃんとした人間じゃないって言いたいのか?


今俺がいるのは愛架の私室だ。

さっきの場所で『アリス』と唱える事で廊下からここへ空間移動できる約束となっている。

愛架アリス。

ピンク髪ツインテに、漆黒のゴスロリ服を着こなしている。

肌は白く、身体は華奢である。

顔はとてつもなく整っており、そして声も可愛らしいのだ。彼女はまさに絶世の美少女と呼ぶに相応しいだろう。


「まあ男なんだけどな」

「はい。ぼくは男ですよ。…別に、男でも可愛いからいいでしょう?」

「そうだな。可愛いよ」

「…そ、そうですか。ぼく、可愛いですか……えへへ」


俺の前で顔を赤らめてモジモジしている美少女(美少年)

ちょろいな。

こいつは俺の友達で、俺がグレンディープに入る前に()()あってから俺にかなり懐いている。

一緒に中等部に入学したけど、こいつが天才すぎて一瞬で卒業し、それ以来は大体この私室に集合する決まりとなった。


「しかし、こうして二人で会うのも久しぶりですね…ぼく感動してます。泣きそうです」


愛架がしみじみと話す。


「いや昨日も会っただろ」

「昨日も会いましたが! そういうのではなく、体感時間の話です。そのくらい待ち遠しかったんだという、友達同士の冗談ですよ」

「そうか。滑ってるな」

「え!! ベイ君、もう〜〜〜〜!!!」


愛架はこんな感じでちょっと変な所があるが、悪い奴ではないと思う。話してて楽しいしな。


「ははっ。冗談だ。友達同士のな」

「冗談なら、良いです」


愛架はベッドから立ち上がって、俺の手を握った。


「それでは、約束通り、一緒にアイスを食べに行きましょう!星間旅行です!」


握った手は小さくて暖かい。

愛架は入学して僅か1年でグレンディープで学べる全ての巫術を習得して卒業している。

当然星間飛行の巫術も使えるのだ。


ちな、完結しました。

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