グレンディープ校
俺の名前は種屋ベイ。16歳。
サージタリア星で暮らす普通の高校生だ。
今、俺の目の前は見渡す限りの外壁が広がっている。
外壁の上に目を向けると、漆黒に明かりが照らされたビルが数百と建ち並んでいる。
更に首を上げると西洋の城が空から逆さに建っている。
あのクソデカい城が俺たちのグレンディープ校舎で、ビル群がまとめて敷地内って訳だ。
後ろを振り向くと広大な草原があり、奥は山で囲まれる。
つまり、周囲を山々で囲まれた草原───────その中心部にグレンディープが位置するのだ。
「アカリ。ブラックホールの気分はどうだった?」
「うぅん。暗黒物質って感じ」
だそうだ。
俺とアカリは草原を歩いて門番に話しかけた。
「おっはよー!ケリスさん!」
「アカリさん。おはようございます。」
「おはようございますケリスさん。今日もプラスチックの光沢がイカしてるっすね」
「ホホホ。ベイさん貴方の皮膚こそ良いですよ」
グレンディープ門番のケリスさん。
彼は人型ロボットだ。体型は人型だが見た目はどう見ても機械で、全身プラスチック製の男性ロボットである。
のっぺらぼうの面の奥で光る2つの光が目の役割を果たしているそうだ。
「認証を完了しました。種屋アカリさん。種屋ベイさん。ようこそグレンディープ校へ」
「はーい!」
グレンディープに立ち入る者は、まずはケリスさんに認証を完了されなければならない。
グレンディープに入る資格があると識別されて初めて門が開くのだ。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ
門が開いた。
「あっ、そうだ。ケリスさん!今度の土曜日、俺と一騎打ちするって話忘れてませんよね?」
「一騎打ちですか。もちろん、貴方の修行を約束していますよ。楽しみに待っていますね。ホホホ」
「あざっす!」
俺とアカリは門をくぐった。
門が閉じる音は、聞こえない。
異空間に建ち並ぶ無限の高層ビル群。
これが全部グレンディープ校の敷地内ってんだから凄い話だ。
実際は異空間に存在しているから外から見ると小さく見える。
数百に見えるビル群も本当は無限に存在しているのだ。
これこそが『グレンディープの庭』である。
「兄ぃ。あんまり無茶しないでよね」
「大丈夫だよ俺が圧勝するからな」
「兄ぃ、いつもケリスさんに負けてるじゃん。さっきも修行扱いだったよ?あははっ」
「今度こそ勝つんだよ!」
俺はケリスさんに頼んでよく修行を付けてもらっている。
俺の夢は強くなる事だ。
ガキの頃から漠然と強くなりたいと考えている。
強くなって誰かに威張りたい訳じゃない。
自己満足と言われればそれまでだ。
さて。グレンディープは服装自由の学風だ。
俺はパジャマ。アカリはセーラー服を着ている。
アカリのセーラー服は親父が薦めた二千年前の学生文化だ。
たまには親父も良い事するじゃねえか。ってセーラー服で微笑むアカリを見て思ったよ。
「巫術───『ゴールドアーマー』」
俺は巫術でパジャマから金の鎧に早着替えした。
このゴールドアーマーが俺の学校用の私服って訳だ。
「兄ぃの早着替え…いつ見ても凄い!私も欲しいな〜!」
「ああ。だがこの巫術には致命的な欠点があってな…ほんの0.0001秒だけ一瞬全裸になるんだ。だから監視カメラに普通に全裸が写る。それでもいいなら教えるぞ」
「致命的な欠点だ!? やっぱり遠慮しておきます!」
俺もアカリが人に全裸を見られるのは嫌だからな。遠慮しておいた方がいいだろう。
ちなみに最初は0.001秒だったが教員に『種屋君。全裸になってますよ』と指摘されたので0.0001秒まで短縮した。
だが監視カメラには写る。
俺とアカリはビル群の上空に逆さ吊りになっている城を見上げた。
「アカリ。空間転移を使ってくれ」
「はーい」
庭から城までは高さ5万km。
5万mでも5kmでもない。5万kmだ。
遠近法がバグりまくっているが実はめちゃくちゃ遠いんだよ。昔人類の拠点だった地球の一周が約4万kmだ。地球一周してもおつりが来る。
グレンディープ生徒はこの距離を自力で登校しなければならない。
「5万km上空の校舎に『庭』から単独で登校可能な事がこのグレンディープ校への一つ目の入学条件。流石、サージタリア一の名門校なだけはあるよ」
「兄ぃが入学した時は大変だったよね……」
これの肝は登校できれば方法は何でもいい事だな。
単独で5万km上空へ行けるのなら本当に何をやってもいい。
そして、安定した登校能力があると認められたならば複数人で登校してもいい。
アカリが入学してからは空間転移で行けるから楽になったもんだ。
おかげで愛架に「ぼくには全然頼らなかったくせに…」ってジト目で見られたんだけどな。
「空間転移」
転移した先は、逆さの城グレンディープ校舎。
逆さに聳える城の屋根の上に転移すれば、必然的に俺たちも逆さまに立つ事になる。
グレンディープ校─────逆さまの学園。
俺は空を見上げた。上空には逆さまに立つ無限のビル群だ。
「空の上にビルがあるってのも面白い話だよな」
「兄ぃ。ほんとに目え良いよね。私、なんにも見えないや」
「せっかくだし、全部数えてから行くか? 1、2…」
「もうっ、遅刻しちゃうよ!」
そんなこんなで。俺たちは青い屋根を歩く。
グレンディープ校舎の玄関である、金色の大時計。
直径100m超えの重たく硬い大時計はダイヤモンドの硬質を遥かに上回っているとされ、その特大の質量を巫術で破壊し突破する事がグレンディープ校舎の玄関入りだ。
5万kmの『逆さ越え』と大時計の『玄関入り』。
二つの入学条件。どちらも難関。どちらも単独縛り。
「アカリ。離れてろ」
グァァァァァァァ
バアアアァァァァァァァァァンンン!!
俺は拳に巫術を纏わせて大時計を粉砕した。
ダイヤより遥かに硬いらしい玄関がひしゃげ、粉々になる。
今のは身体強化という最も基礎的な巫術だ。
「兄ぃ!さすが!よっ馬鹿力!」
「朝飯前よ。アカリ、今日は真面目に授業受けるんだぞ〜」
「分かってるよ!」
アカリの褒め言葉に鼻を高くしつつ、大時計(の残骸)から入ってすぐの転移紋を起動。
俺は高等部の2年校舎。アカリは中等部の3年校舎に転移された。
授業開始は8時30分からだ。
─── ───
種屋兄妹がグレンディープに入り、ベイがゴールドアーマーに着替え、『逆さ越え』『玄関入り』をする。
それら全てを見ている少年がいた。
それもそのはず、彼の仕事はグレンディープの全ての監視だからだ。
「相変わらず、ケリスさんとの一騎打ちをしているようですね」
「ですが、やはり、まだ勝てていない」
「またパジャマですか…家で着替えてから来ればいいのに」
「あっ」
「一瞬全裸になった…」
桃色の長髪を厚みのあるツインテールにして、ゴシック・アンド・ロリータを見に纏った少年。
学園内の自室のベッド。純白の天蓋の下で、少年は巫術でグレンディープを監視する。
学園に不審者を入れないために。
「ま、まあ良しとしましょう。ベイ君は不審者ではありませんからね」
少年の名は愛架アリス。
「ベイ君。放課後は、約束を守ってもらいますからね」
『桃髪のアリス』と呼ばれる、学園指折りの強者だ。




