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偽装結婚ならお断り  作者: 吉田ルネ


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39/42

39 お友だちができる



「あの、不躾なのですが」とエミリーは前置きして

「レスター子爵夫人はリスタールのご出身なのですよね」

 とたずねてきた。

「ええ、そうです」

 返事はしたものの、マグノリアの目はライラちゃんに釘付けである。ライラちゃんは今度はエミリーのドレスをぎゅっと握っていた。

 わたしのドレスを握ってくれてかまわないのに。ライラちゃんが離れてしまったのが、ちょっと寂しい。


「わたくしの母がリスタールの出身なのです。それで夏は毎年リスタールに行っていたのですわ。なんだか懐かしくって」

「まあ!」

 リスタールと聞いて、マグノリアの視線はやっとライラちゃんから外れた。

「リスタール! 懐かしいですわ」

 つい数か月前まで暮らしていたリスタール。なんなら先日まで帰りたいとも思っていた。ここ数日はすっかり忘れていたけれど。事故のせい? 事故のおかげ? どっちだろう。


「母の実家は王都のお城の東側にあるのですよ」

「じゃあ、わたしの住んでいた屋敷の近くかもしれません!」

 なんだかうれしくなってきた。

「聖堂がありますでしょう? 真っ白い。そこの3軒隣なんですわ」

「ええ、ええ。わかります。うちはあの聖堂の奥の方でした」

「まあ、じゃあほんとうに近くでしたのね」


 それからしばらく時間を忘れて懐かしい話に花が咲いた。

「まま」

 話に夢中になっている間、じっとしていたライラちゃんがとうとう飽きてしまったようだった。

「ああ、ごめんなさいね」

 エミリーはそう言ってライラちゃんを抱き上げた。

「忘れていたわけじゃないのよ。ちょっとお話に夢中になっちゃっただけなのよ」

「むちゅー」

 舌足らずでたどたどしく繰り返す様子が、とってもかわいらしい。

「あらあ」

 マグノリアもマーガレットもデレッと目じりを下げた。

「むちゅーになっちゃったのよー。ごめんなしゃいねぇ」

 こちらまで幼児言葉になる必要はないのに。


 話は尽きなくて、「また会いましょう」と約束をした。

「ぜひ、遊びに来てください。とっておきのお茶を用意しますから」

 エミリーはほんとうに、心の底からそう言っているようで、マグノリアはとてもうれしくなったのだ。

 この人は信用してもいいんじゃないかしら。

 マーガレットもそんなマグノリアを見て、うんとうなずいた。

 別れ際、ライラちゃんは「ばいばい」と手を振ってくれた。それがまたなんともかわいらしい。


「わたしもあんな女の子が欲しいわ」

 マグノリアがぽつりとつぶやいた。

 あらあら、まあまあ。

「それはルイスにお願いしてね」

 マーガレットがそう言うと

「はい」

 とマグノリアは素直に返事をした。

 あら、恥じらいとかないのかしら? もしかしてこの子、なんにも知らないのかな?

 マーガレットはそう思う。それもありうるな。なにせアーデン公が大事に大事に囲うようにして育ててきた娘だ。しかも先日成人になったばかり。閨事なんて教えていなくても不思議じゃない。

 あらまあ、ルイスはたいへんね。この妖精みたいな子に一から教えなくちゃ。


「あなたも十分かわいいわよ」

 そう言ったらマグノリアはきょとんとしたのだ。あらあら。マーガレットは、くすくすと笑った。これじゃあ、ルイスがメロメロになってもしかたがないな。そう思った。




 それからすぐに線路の仮復旧が終わり、無傷のものと軽傷者の帰還がはじまった。完全な復旧には半年かかるという。とくに一番の難関個所は件の土砂崩れの現場である。

 当面はその現場までの折り返し運転になる。道路の復旧はもう少しだけ早く終わりそうだ。

 ルイスとチャールズはもうしばらくの入院が必要との診断で、帰還はお預けだ。


「列車が通ったのなら、行ってもいいんじゃない?」

 マグノリアはあきらめていなかった。

「ダメですよ。復旧工事の作業員もたくさんいるんです。臨時雇用の荒くれ者も集まっていて、治安が維持できていません。それに工事で手一杯なのにご婦人が行ったら余計に手間がかかって迷惑ですよ。皇太子妃殿下もあきらめたそうです。奥様もあきらめてください」

 ジョーンズにばっさりと斬り捨てられた。


 そのかわり、着替えや差し入れを持って行ってくれるという。着替えはジョーンズに任せて、マグノリアはいそいそと差し入れの本を選び、日持ちのするクッキーを山ほど焼いた。


 そしてその2週間後、とうとうルイスの帰還が決まった。


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