27 お茶会のあと 1
さいわいお茶が少々冷めていたのと、ドレスにべっとりとくっついていたクリームやチョコレートがコーティングになって、マグノリアのやけどはそれほどひどくはならなかった。
火ぶくれになることもなく、べったりと軟膏を塗られて、湿布のようにガーゼで覆われてうつ伏せに寝ている。
この体勢はなかなかつらい、
「少しの我慢ですよ。今ちゃんと治さないと痕が残ってしまいますからね」
アンナに言われて耐える。首が痛い。
ルイスもしょっちゅう様子を見に来る。
「具合はどうだ」
「もう痛みはありません」
「そうか。傷の回復を早めるというお茶を買ってきたんだ」
なんて言いながら、アンナが用意したポットから自らカップに注いでくれる。
「さあ、お飲み。早く良くなるはずだから」
めっちゃ黒い。そして苦い。マグノリアは思わず顔をしかめた。
「我慢してくれ。痕が残ったら大変だ」
「は、はい」
「そうだ、ハチミツを入れたらどうだろう。少しは飲みやすくなるんじゃないか」
そう言ってハチミツやミルクを持ってこさせる。
過保護が過ぎませんかね。
「リンダがすまなかったね」
ルイスがそっとマグノリアの頭を撫でる。ひまさえあれば、ベッドの横に座ってマグノリアを撫でている。撫でられると気持ちがよくて、うつらうつらとしてしまう。わたし、ネコですか。そんな気持ち。
「もっと厳しくしつけをすればよかった。末っ子だからと甘やかしすぎた」
などと後悔を口にする。マグノリアとしては、兄妹で諍いなどしてほしくないのだが。
そうしておいて、痛くはないか。なにか欲しいものはないか。クッションがあった方が楽じゃないか。冷たい飲み物はどうだ? と世話を焼く。
あの氷結将軍が甲斐甲斐しい。
「だいじょうぶですよ。アンナが世話してくれていますから」
いくらマグノリアがそう言っても聞いてくれない。
メアリは擦り傷が数か所。それと足首を捻挫していたので、3日ほど休んで復帰した。歩かなくてもいい軽作業が主なので、マグノリアの介抱はアンナがしているのだ。
「リスタールに帰りたい」
部屋で1人、ぽつんとベッドに寝ていてマグノリアはつぶやいた。
帝国へ来て3か月、すでに懐かしくなってしまったあの屋敷。弱っているせいか、瞼を閉じるたびに脳裏に浮かぶ。
「おとうさま、おかあさま」
呼んでみたらじわりと涙がにじんだ。
帰りたい。ここが嫌なわけじゃない。でも父と母が眠るあの場所へ、どうしようもなく帰りたいのだ。
ばあやは元気かしら。家令はどうしているかしら。トムじいは。バラは枯れていないかしら。
お墓はちゃんときれいにしてあるかしら。
しくしくしく。涙は止まらない。
リンダのことも心配だろうに、ルイスが気遣ってくれるのも心苦しい。そもそも偽装結婚などしなければ、こんなことは起こらなかったのだ。
拒否すればよかった。
そうすれば、リンダもオリビアたちも加害者なんかにならなくて済んだ。
わたしのせいだ。それなのにルイスまでわたしの味方になっている。むしろリンダたちは被害者なんじゃないのか。
こんなことならば、いっそエロじじいのところに嫁に行った方がよかった。わたしさえ我慢すればいいのだから。
どうせわたしは、ルイスには似合わない子どもなんだし。
今からでも行こうかしら。
しくしくしく。
あの場にいたリンダたち令嬢と侍女たちは、一時身柄を拘束されたが
その日のうちに釈放された。
釈放はされたが彼女らがやったことは、あっというまに社交界に知れ渡った。
4人の令嬢とその侍女が、氷結将軍を融かした妻に暴行を働きケガをさせた。しかも現行犯逮捕。
一大スキャンダルである。しかも被害者は氷結将軍の妻で皇帝の姪。アーデン公の息女である。そして加害者の1人は、その氷結将軍の実の妹ときた。毎朝タブロイド紙が飛び交う。
これからの投稿は不定期になります。




