21 義理の妹が曲者
ラムフォード公爵邸に来ている。晩餐に呼ばれたのだ。マグノリアは初めての訪問だ。
メインディッシュは牛肉の赤ワイン煮込み。よーく煮込まれていて、フォークを刺しただけでほろりと崩れるお肉はとてもおいしい。
野菜だってちゃんと食べるもの。付け合わせのにんじんをパクッと口に入れて、マグノリアは「どうだ」ととなりのルイスを見る。
もぐもぐもぐ。
それを見てルイスはうん、とうなずいた。
ほーらね! 野菜も食べられるようになったんだから! マグノリアのドヤ顔に、ルイスはかすかに頬を緩めた。
「夜会より先にうちに連れて来るべきだったんじゃない?」
ルイスが母である公爵夫人のロザリンドに怒られている。
「はあ、取り込んでおりましたので」
ルイスはしれっと聞き流した。
「まあ、急なお話だったから事情があるのはわかるけど」
「お察しがよくて助かります」
ルイスはにこりともしない。
ラムフォード公爵家には偽装結婚については話していないと言っていたけれど、そこはさすがの公爵夫妻、言えない事情があるのだろうと察している節がある。
ルイスは「やあね、この子ったら」なんて夫人に言われている。ルイスも実家に帰ったら「この子」って言われるんだ。マグノリアがニヤニヤしてしたら、ルイスに軽く睨まれてしまった。てへっと笑ったら、ふっと顔をそむけた。
マグノリアは最近気づいたのだが、ルイスは氷結将軍なんて二つ名があるくせに、よく笑っている。みんな、ルイスのどこを見ているんだろう。
それよりもなによりも、マグノリアはマーガレットが気になって仕方がない。なにしろ社交界という新しい扉を開くためのキーパーソンなのだ。彼女なしにはマグノリアのお茶会はありえないのだから。
わきわき。
話は通っているようで、
「皇太子妃殿下の来週お茶会があるの。わたしが仲よくしていただいているのよ。ぜひご一緒にっておっしゃっていたわ」
とマーガレットは言った。
お茶会! 皇太子妃殿下の! マチルダさまだな。 着せ替えしようときゃあきゃあ言っていた人を思い出す。
「集まるのは親しいお友だちだけだから、気負うことはないのよ」
まさかお茶会で着せ替えなんてしないだろうな、とマグノリアは思う。
「そんなのずるいわ!」
ナイフとフォークを持ったまま、どんっとテーブルをこぶしで叩いたのはルイスの妹リンダだ。
「わたしだって行きたい! 皇太子妃殿下のお茶会!」
「これリンダ。お行儀が悪いわよ」
ロザリンドに叱られてもまったく気にしない。
「ごめんなさいね、リンダ。みんな連れて行くわけにはいかないのよ」
マーガレットが申し訳なさそうに言った。
「じゃあ、どうしてその人はいいの!?」
リンダはマーガレットにも突っかかる。
「リンダ」
ルイスの氷結将軍が発動。絶対零度の風が吹く。
「口の効き方に気を付けろ。マグノリアは皇帝陛下の姪御なのだぞ」
「そ、そんなのわかってる! でもわたしだってお義姉さまの妹じゃない!」
「ごめんなさいね、リンダ。マグノリアのことはマチルダさまからも頼まれているのよ。ほら、まだ帝国に来て日が浅いでしょう? 帝国のことをいろいろ教えてあげるのよ。だから「なによ! みんなして、マグノリア、マグノリアって! ずるいわ」
マーガレットを遮って、マグノリアをぎろりと睨みつけた。マグノリアはなぜ自分が責められるのかわからない。ただなんとなく、これが「悪意」というものか、と思った。まさか身内から向けられるとは思わなかったけれど。
「たまたま遠くから来たからって、特別扱いして!」
「これリンダ! いい加減にしなさい!」
とうとうラムフォード公爵リチャードが雷を落とした。
「アーデン公が亡くなったばかりなのだぞ。誰しもがマグノリアを気にかけて当たり前だろう。そんなこともわからないか!」
リンダは食事の途中にもかかわらず、がたんと音を立てて立ちあがった。ぽろぽろと涙が流れた。
「だいたいこんな小娘、お兄さまに似合わないわよっ。お兄さまに似合うのはもっと大人の女性なのよ!」
「リンダ! いい加減にしないか! それはただの言いがかりだぞ!」
ついにはルイスが叱り飛ばした。
「なによお兄さままでっ! デレデレとっ! 鼻の下を伸ばして、だらしない、みっともない、恥ずかしいっ!」
言われたルイスは、かっと血が上った。
「わたしのどこが恥ずかしいんだっ! くだらないことを言うなっ!」
リンダは顔を真っ赤にして、流れる涙をぬぐいもせずに、どすどすと足音も高くダイニングルームを出て行った。
……どうしよう。わたしのせいかしら。わたしのなにが悪かったのだろう。マグノリアはナイフとフォークを持ったまま、あたりを見渡した。
「マグノリア、申し訳ないね。気にしないでくれ」
リチャードに言われたところで「はい、そうですか」とは言えない。
「そうだ、気にするな。リンダは最近わがままがひどいんだ。ちょっと頭を冷やせば、駄々をこねたことが恥ずかしくなるさ」
ルイスはそう言って、食事をつづけた。そう単純な話ではないと思うが。この先、拗れるんじゃないのかな。マグノリアの勘は当たってしまう。




