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笑顔の裏のけもの

数ある作品の中から拙作を見つけてくださりありがとうございます

 夜だというのが信じられないほど、人の世の空は光り輝いていた。いつの間にか朝日が昇り、昼の盛りにさしかかっていても気が付かないほど。


「君に私の何がわかるの」


 これは忘れもしないあの日のこと。何かがあって私のことを気にかけるような言葉をかけた君に、私は言葉のナイフを投げつけた。鋭く尖った、刃こぼれだらけのナイフだ。

 世界は凍りつくようだった。氷河期もかくやというほどの冷気が教室から酸素を奪い尽くしていく。

 酸素がなくなり息苦しくなって初めて、私は自分が零した言葉を後悔した。でも時すでに遅し、君は今にも泣き出しそうになりながら悲しみで震える手を必死に抑えていた。


「そんなつもりじゃなくて······違うの」


 割れたガラスのような君の顔を直視するのが苦しかった。そしてその顔を引き出したのが私だという事実はそれよりもはるかにもっと私を突き刺す。

 喉元まで出かかったごめんの言葉は気圧に押し戻され、私は耐えられなくなって逃げ出した。

 薄氷を誰が壊すか伺いあっている教室から逃げ出すなんて造作はなかった。

 泣き出しそうな君のことが気にかかったけれど、きっとクラスのみんなが慰めてくれるに違いない。

 彼女は私なんかより人望もあって可愛くて、真面目に生きているのだから。

 クラスのみんなは「なんて酷いこと言うの」って怒りながら、私のことを悪者にして慰めてくれるだろうし、それを悪いとも思わない。


 すこしでも遠くへ、すこしでも君のいない場所へ、そう逃げつづけた。あれからどれだけの時が過ぎただろう。気がつけばいたのは焼け爛れたネオンの世界。


 私はその笑顔の最中に居た。笑い声が響く世界の中にぽつりと立ち尽くしている。


 すれ違う誰かが、私の方に触れた。思わずよろめいてしまう。よほど急いでいたのだろう。掛けられていたはずのごめんの一言は人混みに流されて消えてゆく。

 こんなとき、一瞬でもわざとぶつかられたと疑ってしまう自分の卑しさには閉口するばかりだ。

 吐き気を覚えながら錯綜する流れの中をかき分け、気がつけば裏路地にいた。

 裏路地は眩いばかり刺すような光たちとは無縁の影の世界。暗がりに根ざす人々が、暗がりでもはや隠れもせず恋を謳うどうし舞い踊る人々がそこにはいた。


「ああ、ここでは何も気にしなくてもいいのね」


 思わずそんな言葉が漏れる。

 ふと、足元が泥濘んでいるのに気がつく。私にはもう抗う気力なんて残っていなかった。なされるがまま、その沼の奥底をめがけて溺れていく。あの日見た君の傷ついた表情は特に思い出せなくなっている。


 人はそうやって都合の悪いものを目の前から消してゆく。世界の隅の暗がりにかつて仲間であったはずのけものたちを追いやり、隠してゆくのだ。

ご覧いただきありがとうございました!

未熟者ではありますがまた一からがんばっていきます

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