第四章:日々の裏で
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春が満ちる王都。
王宮の中庭には白い花が咲き乱れ、風はやさしく若葉を揺らしていた。
その日も、ウィリアルドとクラリスは静かに寄り添っていた。
「この先も、ずっと一緒にいよう。どんなことがあっても、僕が守るから」
ウィリアルドの手が、クラリスの手をそっと包む。
彼の瞳には真っ直ぐな想いが宿っていて、クラリスは柔らかく頷いた。
透き通る青の瞳に映るのは、未来を信じる光。
金糸のような髪が風に流れるたびに、その美しさが時を止める。
ふたりはまだ十三歳。
だが、その愛は幼さを超え、確かな誓いへと形を変えつつあった。
学園では、二人の仲の良さは皆の憧れだった。
だが、クラリスのそばにはもう一人――常に笑顔を浮かべる、リアナの姿があった。
「クラリス、今日の舞踏の稽古もご一緒に。…あら、殿下もいらしたのですね」
「リアナ、ありがとう。今日もよろしくね」
「ルーデンドルフ嬢、いつもクラリスと仲良くしてくれてありがとう」
「殿下…家名では呼びにくいでしょう…リアナで結構ですわ」
「流石に婚約者ではない令嬢を名前で呼ぶわけにはいかないよ
でも、ありがとう」
「ウィルは変なところで律儀なんだから」
3人は穏やかな微笑を返す。
その光景、友情に、皆が憧れた。
…だがその裏に、確かな壁があった。リアナとクラリスは“表面上の友情”しかない。
それを知っているのはリアナ自身だけだった。
(私は命令だから、あなたに笑ってるだけ。…私だって愛されたい)
リアナの唇の奥には、何度も飲み込んできた言葉がある。
羨望。嫉妬。憎悪。そして――計略。
***
その夜、宰相ルーデンドルフ邸。黒曜の石で築かれた奥の間。
「おまえがあの娘と“仲良くしている”という話は、王妃も耳にしているようだ。良い傾向だ」
「……私が心から笑っているとでも?」
リアナの声には棘があった。
「クラリスは本物の薔薇。私は、あなたが育てた造花に過ぎない」
「造花のほうが、思い通りに咲くものだ」
宰相は静かに言うと、机の上に置かれた巻物をリアナへ滑らせた。
「機は熟しつつある。王妃教育においてはまだ及ばぬかもしれぬが、世間の印象は簡単に操作できる。
何より――“運命”など脆いものだ。馬車が、たとえば…谷に落ちるだけで、すべては変わる」
リアナは息を呑んだ。
なぜ仲の良いふりをしろと命令させれていたのかを理解したからだ。
僅か13歳には衝撃の事実に彼女の中の少女が泣いた。だが同時に、好きな人を奪うための女が生まれた。
「……その日、私はどこにいればいいの?」
「学園の遠足の日。目印のついてある馬車にクラリスを乗せろ。
あとは、手配しておく。――おまえは、ただ“悲劇の友人”を演じればよい」
リアナは目を閉じた。
そして開いたときには、涙の代わりに光のない炎が燃えていた。
(終わらせる。私の苦しみ…
クラリスの未来も…すべて)
***
それはまだ、誰も知らない運命の序章。
愛し合うふたりが永遠を誓った日々が、すでに“最後の平穏”だったと気づくのは、まだ少し先のことだった――。