第二章:はじめての場所
王都エルヴェリアの学び舎、王立グランアカデミア。
王族や貴族の子弟が通うこの学園で、ウィリアルドとクラリスはまばゆい光を放っていた。
学問でも武芸でも優秀な王太子ウィリアルド。
そして、品位と知性を兼ね備えた美しき公爵令嬢クラリス。
彼らの姿は、まるで絵画の中の理想のようだった。
けれど――
「また隠れてるの?クラリス」
「えっ!?なんでわかるの、今度こそ完璧に隠れたと思ったのに…!」
図書館の裏手。古いアーチの陰に潜んでいたクラリスの腕を、ウィリアルドがすっと引いた。
その瞳は笑っていた。いつだって、彼女を見つけることができる――それが、彼の自慢だった。
「君がどこにいても、僕は必ず見つける。…だって、クラリスは僕の“光”だから」
「うぅ…またそうやって、恥ずかしいこと言うんだから」
クラリスは頬を赤く染めてうつむき、金糸のような長い髪で顔を隠す。
風が、二人の間をやわらかくすり抜けた。
クラリスの隠れていた顔が露わになり、二人の目が合う、、、
ウィリアルドは彼女の手をそっと取り、その手を胸に当てる。
「いつか僕たちは…」
「ウィリアルド…」
言葉の先を言いかけたそのとき――
クラリスの唇に、ウィリアルドの唇が重なる。
それは、春の花びらがそっと触れるような、淡くて、けれど確かな“初めて”だった。
だが――その光景を、ひとりの少女が遠くから見つめていた。
宰相の娘リアナ。クラリスと同じく公爵家の血を引き、優雅で控えめな立ち居振る舞いが評判の少女。
…だが、その瞳の奥に宿るのは、冷たい影。
(クラリス…ウィリアルド様は、あなたなんかにふさわしくない)
唇を噛みしめるリアナの胸に、黒い感情が渦を巻く。
(私なら、もっとふさわしいはず…あの優しさも、その手も、その口づけも――)
リアナの心の奥に、小さくとも鋭い棘が突き刺さった瞬間だった。
誰にも見せぬ仮面の裏で、少女は静かに、憎悪に身を焦がし始めていた。
そして、それは彼女の人生を、そしてクラリスの運命を大きく狂わせていく第一歩となる――。