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未来予想図

 潤を、清士をわざわざ指名してのお役目――。しかも、依頼主はあのルシファーとミカエル。

 潤がいいと、清士がいいのだと。他の誰でもなく、潤と清士とが選ばれ、認められた―ー。

 その事実が嬉しくて、思わず潤は隣の清士の顔を見上げた。


 清士は、そんな潤を一瞬だけちらりと見ただけで、すぐに視線をある一点に――ミカエルに据えて立ち上がり、おもむろに腰を折って頭を深々と下げた。


 「そのお言葉、大変嬉しく思います。ですが、一つ、我が願いと引き換えでの契約としていただけないでしょうか?」

 

 「清士……?」

 「ほう、願い一つと引き換え、か。して、その願いとは?」

 「――彼女を」


 元は、一介の民でしかなかったリズは、文字通り雲上の存在を前に言葉もなく固まっている。

 その彼女を指し、清士は言った。

 「彼女が望んだその時、彼女を正常な輪廻に戻してやっていただきたいのです」

 「それが、お前の望みか」


 「――彼女は、己が犯した罪が怖いと、そう言っていた。死を恐れ、魔物の誘惑に堕ちてしまったのだと。しかし、その原因を作ったのは……かつて、兄を追うことしか頭になかった自分なのです」

 彼女は、シェムハザの企みに加担するドラク伯に飼われていた。――晃希への人質として。

 「彼女が背負う罪は、全て我が身が背負うべきもの。どうか、彼女に、安寧を賜りたいと願う次第にございます」


 「なるほど。ではそれが『今』ではない理由は?」

 「彼女自身の罪は、我が罪。しかし、彼女に対する我が罪を、まだ償っておらぬのです」

 その清士の答えに、みかえるがふっと嬉しそうに微笑んだ。

 「――本当に、変わった。あなたの成長ぶりをみると、やはりあの箱庭から出したのは正解だったようですね。……いいでしょう、我がミカエルの名においてあなたの条件を飲みましょう」


 「契約、成立だな」

 満足気な笑いを浮かべながら、ルシファーが席を立つ。

 それに倣うように、ミカエルも立ち上がった。


 「――では、これをあなたに」

 ミカエルが、繊細な金細工の腕輪を潤に差し出した。

 針金のような細い金の輪が六本、編まれより合わされている。

 「これは……」

 「我らと契約を交わすあなたへの、私からの祝福です」

 「そいつには力をやったからな。お前にはこれをやるよ」

 そう言いながらルシファーがパチンと指を鳴らせば、そのミカエルの金の腕輪に、細かいエメラルドの粒が点々と、等間隔に一周、七粒あしらわれた。

 「ま、一種のお守りみたいなもんさ。――ご利益のほどは、まぁ、使ってみてのお楽しみってことで」

 魔王が、ニヤリと楽しげに笑う。

 

 「――指令は、追ってまた連絡する。……俺らも色々忙しい身なんでな、そろそろ失礼するぜ」

 彼らが出したソファも、テーブルも、その上の菓子もそのままに、ふっと二人の姿が消える。


 超大物相手に知らず緊張していた空気が、その瞬間一気に弛緩した。

 晃希は疲れ果てたようにソファにだらしなく背を預け、サラは思い出したように冷めかけた紅茶を一口啜った。

 「それにしても、またとんでもない話を聞かされたな」

 「だが、他人事だと言っていられる話ではなかろう?」

 「ああ、俺らにとっても死活問題だ」


 「――清士、お前はどうするつもりだ?」

 晃希が尋ねる。

 「どう、とは?」

 「ここ、シェムハザの領地をお前に与えると、魔王が言っただろう。……ここに、留まるのか?」

 半人半魔だったが故に、ここ魔界の空気は潤にとって少なからず毒となったが、伯爵の力を手に入れた今、ここの空気が潤に負の影響を及ぼすことはもうない。

 「別に、領地を賜ったからといって無理にここに居住する必要はあるまい。ここと、社を繋ぐ門を作ればいつでも行き来できる。それで、十分だろう?」

 清士はため息をつく。

 「そもそも、だ。あれからどれだけ時が経った? 早く戻らねば恐ろしい展開が待ち受けていそうで我は今から胃が痛むぞ」

 本気でげんなりした顔で脇腹を手で押さえる。

 「ああ……、確かにそれは怖いな。女性陣が一体どんな顔で待っているかと思うと……俺も頭が痛い」

 

 「……なら……ねえあなた、私を家令に雇わない?」

 互いに難しい顔を突き合わせた狛犬二人をよそにサラが潤に声をかける。

 「――家令?」

 「そう、主人の領地や館の管理をする使用人の事。あなたたちの感覚からすると、執事、という方が分かりやすいのかしら?」

 「え、でも……」

 彼女は、悪魔が嫌いだと言っていた。そう思うのも無理はないと思える彼女の過去を聞いている潤は返事に困り言葉を詰まらせた。

 魔界に住むのは何も悪魔ばかりではないとはいえ……。

 「ちょうど、そろそろ行商をやめて、自分の店を持ちたいと思っていたところだったの。渡りに船だわ。ここで店を開くついでに、あなたたちの仕事も手伝ってあげるって言ってるのよ」

 そう言って、サラはリズに抱きつく。

 「ねえ、リズ。……色々ありすぎて、今すぐどうしたいなんて、考えられないでしょう? だから、ねえ、私と一緒にお仕事しない?」


 彼らが去ってもまだ固まったままだったリズが、ようやく顔を上げた。


 「だって、あなたの作ったぶどうで造るワイン、本当に評判が良いのよ。家事妖精とか、植物系の精霊とかいっぱい連れてきて、皆一緒に畑仕事して、一緒にワインを造って売るの。他にも、ワインに合うチーズとか、色々……。きっと、楽しいわよ」

 そして、「もちろん手伝ってくれるのよね?」と有無を言わさぬ視線を一同にぐるりと向けた。


 「……それは、酒好きの稲穂様が喜びそうな話だな」

 晃希は降参とばかりに両手を挙げた。

 「分かったよ。俺だって、そもそもはワイン用のぶどうを作って食ってた農家の息子だったんだ。一通りの知識と技術は持ってる。今なら、サハリエルの知識もある。きっと君たちの役に立てる」

 「うちはそもそも豊穣のご利益がウリの神社だもんね。久遠や稲穂の協力があれば、きっといいぶどうが育つよ」

 「はは、魔界に神の守護、か。確かにうちらしくていいな」


 「まあ、まずは彼女たちに話を通さないとな。……一度、社へ戻ろう。――リズ、一緒に来てくれるか?」

 晃希がリズに手を差し伸べる。

 「サラ、そなたも――」

 清士が声をかけた。

 「そうね、いい機会だわ。――あの約束、覚えているかしら? 温泉と和食、頼んだわよ」

 「――っ、あ、ああ……」

 清士が顔と声を引きつらせる。

 「なあ、晃希。うちから一番近い高級温泉宿はどこだ? 料金は? ……晃希、頼む、金を貸してくれ」

 「何の話だ!」


 潤は、その様子を眺めながら苦笑いを浮かべた。


 「……清士、きっと事情を話せばお給料の前借りとか、融通してもらえると思うよ。私も協力するから。……だから、今は早く戻ろう」

 「……うむ。では、道を開くぞ」


 清士が呪文を唱え、床に大きな魔法陣が展開される。陣が、青白い光を放ち――

 

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