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初戦

 剣が、まばゆい光を放ち、その光に触れた下級悪魔はたちどころに消滅していく。

 刃で敵を斬るまでもなく、道が拓かれていく。

 

 剣だけでない。清士の翼が纏う光が、清士の全身を包み、さながら光の矢のように一直線に城へ向かって飛んで行く。

 射掛けられる矢も、そのオーラに触れればたちまち塵と化す。

 怒涛の進撃を見せるその後ろを、片付けられた比較的安全な道を、グリフィンの手綱を操りついていくサラは、時折流れてくる矢を風の魔法で吹き飛ばしながら駆ける。


 目指すは、城の立つ小山の谷底だ。

 空を埋め尽くす悪魔の群れも、地上近くはまばらだ。

 何より――

 「やっぱり……あの時のままだね」

 

 あの城に囚われ、あそこから逃げる際に清士が豪快に破壊した地下牢の壁は、ブルーシートの類さえ見当たらない。大穴が開いたまま放置されている。


 「あそこから中へ入ろう。さて、シェムハザがあの部屋に居るといいがな」

 あの部屋からあの地下牢まで、清士と潤は一度歩かされている。

 「右も左もわからない中を右往左往する暇はない。せっかくだ、案内された道を行く」


 最下層の地下から、尖塔の最上階まで、目測でも東京都庁ビルと同じくらいはありそうだ。

 ――もちろん、この魔界にエレベーターなんてものは存在しない。


 「最上階に直接乗り込んだほうが楽そうだけど」

 「それだと、シェムハザとドラク伯を同時に相手をしなければならなくなる可能性がある。できれば、それは避けたい」

 清士と正式に使い魔契約を交わしたとはいえ、潤の戦闘能力に変化があったわけではない。

 最低限の護身術は、稲穂との稽古で身につけてはいるものの、伝説級の魔物を相手にできる腕はない。けれど、無駄な魔力を清士に預けられるようになった今、もう魔力の暴走を気にせず術を使える。


 清士を前衛に、サラと合わせ後方支援を行う作戦でいくつもりが、流石にシェムハザやドラク伯レベルを同時に相手取って、どこまで壁役に徹することが出来るか、これまでと比べはるかに力が増した実感のある今でも分からない。

 だが、地下からスタートすれば、清士たちがそこに辿り着くより早く情報が最上階に伝わる。そうなれば、まずは先鋒から始まって、副将、大将まで順繰りに倒していく運びになるだろう。

 「おそらく、先鋒はあの小生意気な犬耳メイドだろうな。……我の背を穴だらけにしてくれた恨み、倍にして返してやろう」


 地面に降り立った三人は、降り注ぐ矢の雨を避けるように即座にがれきをよじ登るようにして城の内部へ駆け込んだ。

 その眼前には、頑丈そうな鉄格子が敢然と立ちはだかる。

 「二人共、少し下がっていろ」

 清士は、潤を地上に降ろして空になった左手に、もうひと振りの剣を握り締め、黒と白の片手剣を両手に構え、顔の前で交差させる。

 「――っ」

 そして、一瞬の間を起き、彼は凄まじい速度でふた振りの剣を同時に振り下ろした。

 剣の残影が、空中で十字を描き、二つの軌跡の交差から、爆発的な衝撃波が放たれる。

 キィィィィン、と空気が震える耳に痛いほどの高い音が響き渡ると同時に、格子が物凄い勢いで吹っ飛び、凄まじい轟音を響かせ、地面を揺さぶった。


 ついこの間、背後の石壁を壊した時よりはるかに威力を増した剣圧に、清士は驚きに目を見張る。

 軽く格子だけをすっぱり切断するつもりが、予想以上の力で地下牢ごと吹っ飛ばしてしまったようだ。


 かつて振り回していた神剣より、遥かに手に馴染む、しかしこれまで使っていた清士の聖剣より遥かに威力の勝る武器。

 清士は、そのひと薙ぎの威力を、目に焼き付けるように眼前の有様をじっと眺めた。

 これが、今の自分の力だ。……もう二度と同じ過ちを繰り返さないよう、自分に言い聞かせる。

 力に振り回されるのではなく、この力をきちんと自分で制御していかなくてはならないのだ。


 もうもうと舞う粉塵が少し収まるのを待って、清士は聖剣で先を指して言った。

 「さあ、上へ行く階段はあれだ。……覚悟はいいな? ――行くぞ」

 薄暗いじめっとした石段を登る。

 ぐるぐると螺旋を描く階段は、ともすると目が回りそうになる。階段の段も、凸凹した石で作られているせいで、下手に気を抜くと凹凸に足を取られそうになる難物だ。

 一周、二周、三周……途中までは律儀に数えていたが、次から次へと湧いて出てくる雑魚を切り捨てているうちに分からなくなった。


 「サラ、平気か?」

 幼い頃から社のある里山を駆け回って育った潤が、この程度で音を上げるはずがないと分かっている清士は、最後尾の魔女に時折声をかける。

 「今のところは平気よ。……それに、いざとなったらまたこの子に乗せてもらうから、余計な気遣いは無用よ」

 しかし、バッサリと冷たく切り返され、清士は苦笑を漏らした。

 「そうだな、そろそろ広い廊下に出る頃合だ。気をつけろ、ここまで暗かったからな。いきなり綺羅綺羅しい眩しさに目をやられないよう気をつけるのだぞ」

 眼前に立ちふさがった扉を、乱暴に蹴り開け、清士はまばゆい光の中へ身を踊らせた。


 扉の前で待ち構えていた番犬代わりの魔犬たちが数頭、吹き飛んだ戸板に巻き込まれ、一緒くたに壁へと叩きつけられ、ギャインと痛そうな悲鳴を上げる。

 「迷子の迷子の子猫ちゃん、発見〜♪」


 相変わらず下着が今にも見えそうな超ミニスカメイド服を着用し、犬耳犬尻尾を生やした幼い少女のなりをした人狼――この城の主たちにシルヴィと呼ばれていた娘が、ニタリと黒い笑みを浮かべ、手に持った鞭をしならせた。


 「何か一匹増えてるけど……。まぁ、いいや。せっかく戻ってきてくれたところ悪いけど、もうアンタたちは用済みなんだってさ。だから……さっさと片付いちゃってくれないかな?」

 ぴしりと鞭で床を打ち、彼女は魔犬をけしかける。

 「ふむ、その台詞、そっくりそのまま返してやろう。我らも暇ではないのでな、そなた一人にかまけている時間はないのだ。……さっさと片付けてしまわねばな」


 清士は聖剣と魔剣とを両手に構え、彼女たちの前に立ちはだかる。


 「……何、あの格好。メイドなめてるの?」

 本場英国の魔女様は、シルヴィの破廉恥極まりない格好を見て眉をひそめた。

 「うぅん、何というか……コスプレの一種なのでは……?」

 例えば秋葉原へ行けば、あれと五十歩百歩の衣装を来た娘達が接客を行う店がある日本に生まれ育った潤は、ほんの少し遠い目をしながら口の端を引きつらせた。

 彼女の気持ちもまあ、分からないではないだけに、潤は苦笑するしかない。


 メイドと並んで人気のあるコスプレジャンルに“巫女服”というのがある。

 初詣の時期等は、家の手伝いでコスプレではなく本物の巫女衣装を身にまとい、本職の巫女として振舞う潤としては、ついつい目が厳しくなってしまいがちだ。


 「小娘、先日の振る舞い、存分に後悔させてやる」

 「はっ、何ナマ言ってんの? その体、今度こそ穴だらけにしてやるから、覚悟しな!」


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