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因縁の対面

「……おい、何だ? この小娘は?」

長い――場の空気を鉛の如く重く凝り固まらせるには十分なだけの――長い沈黙ののち、地獄の鬼もかくやという低いうなり声はそう言ったのは。目の前の豪奢な椅子に優雅に腰かけた男で。

床まで垂れた、淡く、青みがかった艶やかな長い銀髪。切れ長の目に埋まっているのは――人にはありえないアメジストの瞳。

そして。ゴシック調の椅子をさらに豪奢に彩るのは――その背に生えた、漆黒の翼。

「申し訳ありません」

男の前に跪き、ころべを垂れるもう一人の男。黒い髪に、ルビーの瞳。……こちらもまた、人にあらざる瞳をしていた――が、彼の白すぎる肌も含めこういう色合いを、じゅんは珍しいとは感じなかった。

「それに」

いらいらと、指で椅子の肘かけをコツコツ叩きながら男は、潤の後方を睨みつけた。

「あれは何なんだ?」

「……むっ、この我を“あれ”だと? 失礼甚だしいぞ、この悪魔め!」

煮えたぎる油すら瞬間冷凍出来そうな視線を浴びながら、それでも怒鳴り返したのは、目の前の悪魔にも劣らない美しい長い金髪に、悪魔と対をなす純白の翼を背負った長身痩躯の男。

「こらっ、うちのご主人様に生意気な口利くんじゃないよっ!」

「ぐへっ」

その背をピンヒールで思い切り踏みつけたのは、メイド服に身を包み、猫耳ならぬ犬耳を生やし尻にふさふさの尻尾をくっつけた少女で。


 ……一体何だってこんな事になったのか。


「この娘の名は、神崎潤かんざきじゅん。あの男の血を継いだ半人半妖……。術自体は問題なく発動しましたが、某かの理由で取り違えて召喚してしまったものと思われます」

「では、こいつは?」

「それは、ご主人様のほうが良くご存じのはずで御座います。……あの堕天使の双子の弟天使ですよ」

「ほう、それは……また……随分な偶然だな。――これも因果か」

ククッ、と皮肉るような笑いをこぼして、男は自らに傅く男に顔を上げるよう仕草で示し、

「まあいい。今はとにかく時間が惜しい、すぐにもやり直せ。……半人半妖では用を為さんからな。今度こそ失敗は許さんぞ、必ず奴を召喚しろ」

「は。……しかし……こ奴らはどう致しましょう?」

赤い瞳の男が視線でこちらを指しながら主に伺いを立てる。

「二人まとめて地下牢にでも放り込んでおけ。偶然の産物とはいえ良い取引材料が手に入った。」

不機嫌ここに極まれり、といった風だった表情に初めて笑みを――それも大変満足げな笑みを浮かべ、悪魔は少女を見下ろした。

「――シルヴィ、連れて行け」

「あーい!」

可愛らしく片手を挙げて答えながら、彼女は手にしたロープを思い切り引っ張った。そのロープのもう一方の端にあるのは……

「っ、ぐえっ」

執拗なまでにぐるぐる巻きにされた白い翼の男。

 ピンヒールで背中を踏みつけられたままロープを力任せに引っ張られ、逆エビ型に身体がくの字に曲がる。

 その一方で――

「来な、手間かけさせるんじゃないよ? こういう痛い思いはしたくないだろ?」

足の間から、今にも下着が垣間見えそうなミニスカにも関わらず大胆に足を振り上げた彼女におびえた視線を向ける潤にはぐるぐる巻きのロープはおろか、手も足も縛られてはいない。

 今、不意を突いて駆け出せば――逃げようと思えば逃げられそうな状態。


 ――だが、潤にはよく分かっていた。こういった類の存在と身近に接しながら育ったのだから。


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