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傭兵と男装王女  作者: es
後日談

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3/6

そのいち。

二人のその後。婚約前のあれこれ。

 


 夜。自宅で一人晩酌していると、コンコンと扉をノックする音が聞こえた。

 ため息をついて、ロイは玄関に()()を迎えにいく。


「また来たんですか……」

「友人だから顔くらい見に来る」


 扉の向こうに平然と立っていたのは、地方都市の一般家屋に似合わない、超ド級の美女だった。


 平民の男装で身分を隠してはいるが、天上の美しさや性別は微塵も隠せていない。

 いや、霊山の時の男装が気に入ったから着てるだけで、本当は隠す気もないのだろう。

 地味な色味の男物を着ても、長い黒髪を帽子の中に押し込めても、圧倒的な美貌の前では「変装」は何の意味もなさなかった。




 ──偶然と縁が重なって、ロイは風変わりな王女の婿候補になった。ほとんど強制的に。

 とはいえ、ロイの方に、そんな気は全くない。

 たしかに父親は騎士だったが、彼自身は平民だ。とてもではないが、王族との結婚なんて考えられない。


 王女に求婚された時、彼はとっさに「友人から始めましょう」と提案した。

 そうしたのは、求婚を無下にして、彼女の怒りを買いたくなかったからで、王女と友人になろうだなんて本気で言ったわけじゃない。

 単なる時間稼ぎの口実に過ぎない。


 どうせ、王族の気まぐれだ。

 一時の気の迷いですぐ飽きるだろう……と彼は考えていたのだ。


 だが予想に反して、絶世の美女──レスティリア王女は本気も本気だったらしい。


 ロイを婿候補として父王に申告すると、難易度の高い長距離転送の魔法を速攻で修得し、三日と置かず、魔法を使ってロイに会いに来るようになった。

 本人いわく「愛の為せるわざ」。

 何なら、「それで我々はいつ友人から先に進

 むんだ?」と聞いてくる始末。


 父王は「結婚は好きな相手としていい」と約束した手前、王女の行動を咎める事も出来ず、諦めて放置しているらしい。

 だが話を聞く限り、父王も王女の奔放さに頭を抱えている様子だった。




 すでに何度目かの訪問となり、勝手知ったる友人(ロイ)の手狭な一軒家に、王女は悪びれもせず入ってくる。

 晩酌していたロイの向かいの椅子に、当然のように彼女が腰かけるのを見て、彼は頭痛を感じてこめかみを押さえた。


「殿下、護衛も連れずに無用心ですよ」

「私はこう見えて近衛隊と同じくらいには強いぞ。魔法もわりかし得意だ。子供にされてしまった時は、どちらも封じられていたがな」

「………」

「どうだ、私はあなたの嫁として役に立つ場面もあると思うが」


 胸を張る王女に、ロイは「王女様に傭兵ギルドの仕事なんてさせられませんよ……」と深々とため息をつく。


「私は別に構わないが」

「俺が構います。というか、なんで俺なんですか。貴女なら、お相手は選り取りみどりでしょうに」


 むさ苦しく武骨な自分が、これほどの美女に気に入られる理由がまったくわからない。からかわれているだけ、と言われた方がまだ納得できた。

 だが、王女は嬉々としてロイの好きなところを挙げていった。


「一目惚れに理由なんているか? だが、しいて言うなら……そうだな。全体の雰囲気とか、隙のなさとか、それでいて不器用そうな所も好きだ。オリーブ色の瞳も綺麗だと思う。顔立ちも精悍で好みだし、それから……」

「もう結構です」


 ロイは片手で顔を覆って王女を制止した。これほど面と向かって誉められた事はかつてない。まして女性には。

 彼はまったく女慣れしていなかった。



 ──客観的に見れば、彼はけして見てくれが悪いわけでも、モテないわけでもない。本人の武骨な性格が邪魔して、これまではあまり女性と縁がなかった、というだけである。

 もっと言うと、ロイのような男に思いを寄せる娘というのは、あまり積極的ではなく、遠巻きに見ているタイプが多かった。

 つまりロイにとって、ぐいぐい迫ってくる女性というのは、未知との遭遇に等しい。


「それで、我々はいつ友人から恋人になれるのかな。あなたを養子にする貴族の選定も進んでいるから、今すぐ婚約することも可能だが」

「先走りすぎです、殿下」

「あなたが奥手すぎるんだ」


 王女は攻勢の手を緩めない。ロイは防戦一方だ。名うての傭兵をここまで追い詰める彼女は、一体何者なのか。

 というか、奥手とか言われても困る。彼女は一国の王女だ。気軽に手を出していい相手ではないだろう。

 椅子に座ってこちらを見上げる男装の王女を、ロイは複雑な心境で見返した。黒曜石のような輝きを湛えた瞳に、若干途方に暮れた自分が映っている。


 正直に言えば。

 結婚するかしないかは別にして──不満そうに口を尖らせるレスティリア王女は、途轍もなく可愛い。

 これほど可愛い美女に言い寄られ、ぐらつかない男がいるとしたら、そいつは多分人間のふりをした別の何かだろう──そう思えるほどに。


 ロイは再び片手で顔を覆った。目の毒だ。いや眼福なのか。もうどっちでもいい。


 彼は深くため息をついた。

 近い将来、普通の平民よりよほどフリーダムに生きているこの破天荒な王女に、彼自身が絆される未来しか見えなかった。



レスティリア王女 = 二十歳前後。黒髪黒目。美女。

ロイ=二十代半ば。寡黙。実は押しに弱かった。

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― 新着の感想 ―
[一言] ストレートでシンプルだけど、好みです。
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