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正義の味方・鷹守匠(2)

(……ああ。いつかこうなるだろうなとは思ってたけど、早すぎでしょ、こうなるの)


 僕、鷹守匠は遠のく意識の中でそう思う。もはや殴られてる感覚も無く、僕の体が刻一刻と死に近づいて行ってるのが嫌でも分かる。


 そもそも僕がここに居るのも、1つの間違いから端を発した状況だった。一日前、僕は男子トイレでいじめの現場に出くわした。


 複数人で囲って暴力を振るい続ける少年達を見て一瞬で沸点に達した僕は、習ったばかりの炎魔法を使ってつい少年達を燃やしてしまった。その結果僕は退学を言い渡され、今までやること無く学園の周りをさまよっていた。


 追放されたばかりの頃は文句と苛立ちが止まらなかったのを覚えている。でも追放されたおかげで僕はこの現場に立ち会う事ができ、野垂れ死ぬ前に正義を全うして死ねるのだ。それなら良いかと、と自分を納得させている。


 ただ未練があるとすれば、僕がいなくなる事で救われない人が出るかもしれないという事だ。でも僕が今助かる術はないし、気にしたってしょうがないことだろう。


 そう思っている内に、ふと後頭部への打撃が消えたことに気づく。代わりに、微かではあるが鈍い打撃音が周囲で幾度も鳴っているのを聞く。


 チンピラが少女に狙いを変えたのかと焦った僕は、残った力を振り絞りって何とか立ち上がる。そして振り返り、僕が見た光景は――


 さっき助けたはずの少女が、チンピラをたこ殴りにしている光景だった。


 ◇  ◇  ◇


「何だよお前……何で、そんなに強いんだよ!」


 膝を着いてそう叫ぶ男を見下ろし、私は汗ばむ額を袖の先で拭いて戦闘態勢を維持する。そう、悩んだ私がたどり着いた答えは拳だった。


 やけくそ気味に拳を振るってみたが、なぜか今上手く行ってしまっている。一度戦うと決めた私の体は男が出す攻撃を自動で受け流し、その後無意識にキツい反撃を何発も加えている。


 それに気づいた私は、水面下で私の心に溜まっていたストレスをコイツで解消することを思いつく。悪魔のような発想だが、先に手を出してきたのは向こうなのでそれを大義名分に八つ当たりしようと思う。


「ああむしゃくしゃする。今日は厄日が過ぎるだろ! もういい、お前を殴って全部すっきりさせてやる」


 男はゆっくり立ち上がり、血が混じった痰を吐き出して拳を構える。彼の標的は完全に私にシフトしてしまったらしい。


(長らく体育の授業には出てないせいだ、これ以上は体力が持たない。受け身のまま、相手を倒す方法……)


 自身が一番苦手とする雷魔法を使い、拳に電気を纏わせる。これなら、苦手かつ拳で使えば相手を感電死させることはないだろう、たぶん。


 攻撃を誘う目論見で私は一歩前に踏み出す。続けて二歩三歩踏み出すとようやくチンピラは大きく前に一歩踏み出して殴りかかってきた。


(下から突き上げるアッパー。さっきみたいに転ばされないように殴打のベクトルを変えたんだな。けど、今の私にそれをする意味は無い)


 腹部に到達仕掛けた拳を両手で握り、腕を伝ってチンピラの体に電流を流した。すると一瞬で全身に電気が走り、男はガクガクと震えた後地面に力なく倒れた。一瞬またやってしまったのかと顔面蒼白になったが、脈自体は正常だったのでホッと一息ついた。


 それから私はいつの間にか立ち上がっていた少年の傍に駆け寄り、うつ伏せで寝るよう指示をしてナイフを抜いてから魔法で止血をした。


 さらに、彼の姿勢を仰向けにした際に顔が酷くボロボロである事に気づき、顔に治癒魔法を施した。時間にして20秒ほど掛けていたが、その間に彼はこんな言葉をこぼしていた。


「悔しい……上手く行ったのは最初の一撃だけ、それ以降はやられてばっかで……挙げ句、守るべき人に助けられた。もっと、強くなりたい」


 その言葉に私は強く心を打たれた。さっきの発言もそうだが、彼はこの世に生きる人間の中では極めて珍しい、他人の命が第一優先の人間らしい。尚更彼に興味が湧いてくる。


 すっかり顔面の皮膚が元に戻り、彼が立ち上がったのをみて私は彼に話しかけた。


「ところで名前を聞いてなかったね。君、名前は?」

「鷹守匠、15歳です」

「ふむ、となると2年生か。その時期だとまだ身体強化や自己治癒魔法を習ってない頃合いだね。なのに大人の男に突っかかっていけるのはさすがだ」

「ただの蛮勇ですがね。そう言う貴女の名前は? 貴女も僕と同じ学生のようですが」


「私かい? 私は湊一代、5年生だ。名前だけでも知っていてくれたら嬉しいんだけど」


 そう自己紹介すると、彼は息を飲んで目を丸くした。


「貴女が湊一代さんですか!? お噂はかねがね聞いていました。なんでも、学園で指折りの天才魔術師という……」

「ああ、そう噂されてるらしいね。それはどうでも良いとして君さ、さっき強くなりたいって言ってたよね?」

「はい。もっと強くなって、もっと多く人を助けられるようになりたいんです。僕、誰のことも見捨てたくないので」

「なら君、私に弟子入りしないか? 君は強い魔法使いになれるし、私は君の事についてもっと深く知れる。お互いWIN-WINな提案だと思うけど、どうだい」

「い、良いんですか!? 僕、無一文ですけど……」

「お金のことなら心配要らない。私から見て君は光る才能の原石だ、それを磨くためなら多額の投資も辞さない」


 まあ私のお金では無いんだけど、そう言った方が師匠として格好付くから言ってみただけ。


「でしたら是非! 是非未熟な僕の為に力をお貸しください!」


 そう言って彼は右手を差し出した。最初彼が何を求めてるのか分からなかったが、恐らく握手を求めているのだろうと悟った私はその手を両手で握る。


「これからよろしく、鷹守君」


 この握手を持って、彼は私にとってかけがえのない存在になった。そう思える存在が増えたことが、今はとにかく嬉しかった。


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