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飲み物を奢るシーンって憧れる

 今まで色々な異能者と戦ってきた。

 水を出したり氷を出したり超音波叩き付けてきたりバリエーション豊かな異能者がいた中で、殺人鬼の能力はすさまじく地味である。


 だが、それでも異能力。

 が、だからこそ勝てないと確信出来る。

 真っ正面から向かって勝てるプランが、一つも見当たらない。


「はあ……ダメだこりゃ」

「どうした、降参か?」

「まあ、そう言うことになんのか? 少なくとも俺はおまえに勝てそうにないってことを痛感した訳ですよ」


 マキシム9をスカジャンの内側にしまって、肩をすくめてみせる。


「ほほう。つまり私に殺される準備が出来たという事か?」

「それよ、それが問題なんだ。まだ、俺は死にたくねーんだなこれが」

「死にたくない……まあ、私だって似たようなものだ。だから人を殺さなくてはならないのだ」

「そりゃどういうこった?」

「そこまで話す義理はないぞ」


 ふんと鼻を鳴らしながら殺人鬼は言う。

 なんか動作が子どもっぽいなと思ったが、口にはしないことにした。

 あの年頃は子ども扱いされるとすさまじくヘソを曲げることを進は知っている。

 しかも相手は殺人鬼。

 ビンタではなくナイフが飛んでくることは目に見えている。


「ところでよ、殺人鬼さん。勝利って何だと思う?」

「……何だ、哲学か?」

「そこまで堅苦しいもんじゃねーよ。一般論っつーか持論っつーかまあそんなとこだ」

「ふむ」


 ナイフを持つ腕を下げながら、殺人鬼はこくりと頷いた。

 一応聞いてくれるらしい。


「俺を殺すこと――つまるところおまえの勝利はそれしかない。いかにバレずに人を殺し続けるか……違うか?」

「まあ、間違いではないな」

「ところがどっこい、俺は別におまえを殺す必要はねえ」

「む? 待て待て。さっきおまえは私を殺すと言ったではないか。矛盾しているぞ」

「必要があれば殺すってだけだよ。おまえみたいに絶対条件じゃねー……この場の勝負ってのは俺とおまえじゃ勝つ条件が違う。格ゲーみたいにゲージを削りきればいいってもんじゃねえ。もっとも、おまえに限って言えば俺を殺して口を塞がねえと勝ちはありえねーけどな」

「おまえ……」


 殺人鬼は目を見開いた。


「そーゆーこと。俺は別にこの場でおまえを倒さなくっても別にいいんだ。極論、生きてこの場からトンズラできればその時点で俺の勝ち。そもそも、これは仕事だしな。金を稼ぐためにやってんのに、死んだら元も子もねーだろ?」

「言わんとしていることは分かったが、私から逃げられると思うのか?」


 すぐにとどめを刺さないのは、この空間にいる以上いつでも殺せるからだ。

 既に進は武器を失っている。

 絶対的なアドバンテージは自分にある――そう殺人鬼は、思っている。

 思い込まされている。


「それを今考え中なんだよ。あー……喉渇いた。喋りすぎたわ」


 ライトを明滅させている自販機に硬貨を投入して、コーラを二缶購入する。

 闘気を抜いているということもあってか、殺人鬼は追撃をしてくれなかった。


「賞味期限はっと……うっし、まあOKか」


 この手の古い自動販売機というのは、業者も存在を忘れているのか、中に入っている飲み物がどえらく古い代物のまま交換されずにそのまま売られている場合がある。

 以前ロクに確認せずに飲んで、どえらいめにあったことを思い出しながら、プルタブを開けて流し込む。

 こう言う血生臭い夜には、爽快な炭酸飲料に限る。


「おまえも飲めよ。ほら」

「む……う、うん」


 進のペースにのまれつつある殺人鬼は、ロクに確かめもせずにそれを受け取った。


「……ぬ?」


 手に取ってよく見ると、それは赤と白を基調としたお馴染みのデザインではない。

 側面に穴が均等に空いている、艶の無いダークグリーンの円筒――缶でもないし、なんなら飲料でもない。


 所謂、スタングレネードというヤツではないだろうか。


「おまえ、殺人鬼にしちゃ素直すぎるぜ。相手が投げてくるものはまず避けろよな」


 そう言って笑う進の手には、グレネードのピンとレバーが握られていた。

 わざわざ二缶買ってみせたのも、コーラを買って飲んでみせたのも、戦闘状態を解くため――もとい油断させるための方便だった。


「き、貴様――!」


 謀ったな――なんて少々ズレたことを言おうとした瞬間、閃光と轟音が忍の五感を塗りつぶした。


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