63・借り物? 競争
63・借り物? 競争
冬龍君に抱っこされてクラスのテントに戻ると、待ち構えていたクラスメイト達が私達の周りに集まってきました。そして次々に声をかけてくれたんですけれど、水分補給に忙しくて、ちゃんとお返事が出来ないうちに、次に参加する競技の準備に呼ばれちゃいました。
午前の最終競技は1年生の『借り物競争』です。各クラス、男女3人ずつ出ます。
「全学年混合クラス対抗リレーは、白川一族が総なめにしたから、次の競技は私が貰うわ!」
前の競技の退場を入場門手前で待ちながら、一緒に並んでいた楓ちゃんがやる気満々に言いました。がっちりメイクにサングラス、つばの広い帽子にUVカット効果抜群のパーカーを羽織った楓ちゃんは、まるで女優さんです。
「白川一族って… 冬龍君と夏虎君と私しか走っていなかったよ?」
「三人でも存在感は十分よ。それに、教員チームに水島先生と梅ちゃん入っていたわよ。あの二人も、周りからキャーキャー言われていたじゃない」
奈緒美ちゃんは私の後ろです。気合が入っている楓ちゃんとは逆に、ちょっと冷静です。前の競技が退場を始めたので、私達が入場門をくぐってトラックへと移動を始めました。
「実は私の周り、大きい人ばかりで、走者が見えなかったの。代走だったから緊張しちゃってたし、いつの間にか走る順番も変わっていたし… お兄ちゃん達、カッコよかったのか~。見たかったなぁ」
保護者応援席の一番前に、修二伯父さん達の姿が見えたけれど、ビデオ撮っているかな? 撮っていたら、後で見せてもらおう~。
「今度は、私を見てもらうわ、梅ちゃんに!!」
気合十分の楓ちゃんは、第一走者です。マイクで名前を呼ばれると、颯爽とサングラスと帽子とパーカーを取り去って、巻いたツインテールを揺らしてクラウチングスタートの構えです。もちろん、楓ちゃんが取り去った装備は私が受け取って、アナウンステントの机に置かせてもらいました。
今日の楓ちゃんは、明るい茶色のコンタクトに『童顔メイク』です。
パン!!
スタートのピストルが鳴ると、第一走者の8人がグラウンドの真ん中に椅子の上にポツンと置かれているボックス目指して、一斉に走り出しました。皆、走り出しは順調だったんですけれど、ボックスに手を突っ込んで、中から紙を取り出して… 動きが止りました。
『選手の皆さん、声に出していいのは『借りる物』の名前だけです! さぁ、どんどん借りて、どんどんゴールを目指してください!』
動きが止った選手を、可愛らしい声の実況アナウンスが煽ります。
『制限時間は5分です。5分以内にゴール出来ない場合、失格でマイナス2点となります。また、借り物が紙に書かれていた物と合致しなかった場合、これも失格となり、マイナス1点になりますので、気を付けてください! なお、『答え合わせ』は全選手がゴールの後にします』
そのアナウンスを聞いて、止っていた選手がワタワタと動き出しました。借りたい物の名前を高々に読み上げたり、広げた紙を見つめたままウロウロしたり… そんな中、楓ちゃんは真っすぐに梅吉兄さんに向かってダッシュ! そして、二人で一緒にゴールのテープを切ったんですけれど… 何て書いてあったんだろう?
そんな事を思っていたら、すぐに私の番が来ました。けれど、まだ2人程紙を見つめてブツブツブツブツ…
何だろう? そんなに難しい借り物なのかな?
と思っていたら、パン! とスタートのピストルが鳴って、慌てて走り出しました。
「え~っと…」
ボックスに手を入れたのは、3番目でした。紙を一枚掴んで引き抜いて、広げてみると…
『imaginary creature』
あー… こうきたか~。うん、落ち着こう。英語だけれど、落ち着けば分かるはず…
「イマジナリ… は『空想』とか『想像上』だったよね? で、クリーチャ… クリーチャってなんだっけ? いっぱい訳し方があった気がするぅぅぅ」
焦っちゃダメ! って思うと、余計に焦っちゃう。5分でゴールするのって、難しいかも。
「確か… 支配されるもの? 生物? 動物? 待って待って… 上が『空想・想像』なんだから…」
「皆、苦戦しているわね。そんなに難しいの?」
思考のピースをブツブツと声に出しながら、なんとかはめ込んで形にしようとしている私の目の前に、ミエルちゃんがポン! と現れて、紙を覗き込みました。
「あ! 『空想の生き物』!」
ミエルちゃんのお顔を見て、私の頭の中で一気にピースが組み上がりました。
「わっ! ビックリした」
私の声に驚いたミエルちゃんをゴールに連れて行こうとして、ハッとしました。
「ミエルちゃん、皆には見えないんだよね?」
見えないんだよね~。
「トウリュウやカコには見えるけれどね」
「それ! ありがとう、ミエルちゃん!!」
またまたミエルちゃんがヒントをくれました。ミエルちゃんにお礼を言って、クラステントの一番前に座っていた冬龍君の目の前に走りました。
「冬龍君、一緒に来て!!」
紙を見せてお願いすると、冬龍君はニコッと微笑んでから私の手を取って、一緒にゴールまで走ってくれました。
8人中、3番目にゴール! です。
「和桜ちゃん、お疲れ~。私と同じだね」
ゴールした冬龍君と私の前に、恋人のように腕を組んだ梅吉兄さんと楓ちゃんが来ました。恋人のようにというか、楓ちゃんが梅吉兄さんを逃がさないように… って感じかな。
「楓ちゃんは何だったの?」
「こ・れ・よ」
私が自分の引いた紙をぴらっと楓ちゃんに向けると、楓ちゃんも同じように紙を見せてくれながら、満足げにウインクをくれました。
『what flower do you think is the most beautiful? ~あなたが一番美しいと思う花は何ですか?~』




