5・『アッチ』に誘う声
新しく出来たお友達は、小さな妖精さんでした。名前は『ミエル・マヌカ』ちゃん。
ミエルちゃんから『お願い』されて、落としちゃった5つの鍵を探すお手伝いを始めました。そして、キラキラ輝くルビーの鍵を発見! すると、ミエルちゃんはお礼にと、蜂蜜をくれました。
その日の夜、貰った蜂蜜を紅茶に入れて楽しもうと思っていました。けれど、見つけられた鍵は1つ。『まだ4つ残っているから、全部見つけたら楽しもうかな』。と、楽しみに取っておくことにしました。
さぁ、頑張って探すぞ!
5・『アッチ』に誘う声
「和桜ちゃん、お弁当は?」
ランチタイムです。
「ちょっと用があるから、先に食べちゃった。お昼が終わる頃には戻るね」
4時間目が終わって、いつもの様にお弁当の袋を下げて私の席に来たのは、中等部からのお友達の塚原奈緒美ちゃんです。真っすぐな眉に切れ長の黒い瞳と、サラサラの黒いショートカット。形のいいお鼻はツン! と上を向いています。私より15センチも高くて、体のメリハリもあって、バスケ部の期待の新人なんです。
私は奈緒美ちゃんに軽く手を振って、賑やかなランチタイムに突入した教室から小走りに中庭に向かいました。小さなタッパーと大きな虫メガネを持って。
ミエルちゃんの落とし物を探す気満々で、今日のお弁当はお握りにしてもったんです。空き時間に、片手でパクパク食べることが出来るから。まぁ、『早弁』なんだけれど。もちろん、ミエルちゃん用の『出汁巻き玉子』はちゃんと持って来ました。小さなタッパーに、私用の『甘い玉子焼き』とミエルちゃん用の『出汁巻き玉子』を入れてきたので、一緒に食べる気満々です。
「ミエルちゃん、まだ出てこないかな?」
昨日と同じく、中庭で落とし物の残りを探そうと思います。けれど、昨日より中庭の横の渡り廊下を行き交う生徒達の数が多いいようだし賑やかだから、ミエルちゃんはしばらく現れないかも。けれど、時間は限られているから、手に持っていたタッパーを桜の樹の下に置いて、捜索開始です!
まずは、芝桜の周辺から。昨日は、この中から鍵が1つ見つかりました。ミエルちゃんがどんなふうに鍵の束を落としたのか聞いていないのだけれど、まぁ、1つでも見つかったのだから、その近くにあればラッキーかな。なんて、淡い期待でした。
「そこは、探したわ」
芝桜の周りの草や土を、虫メガネを覗き込みながら探していると、後ろからミエルちゃんの可愛い声が聞こえました。
「あ、ミエルちゃん。昨日は、帰りが遅くなっちゃってごめんね。怖い思いしちゃったよね。やっぱり、爺やさんに怒られちゃった?」
パッと振り返っても、ミエルちゃんの姿は見えません。いつもの中庭の風景が、虫メガネで拡大されているだけです。まぁ、私の手のひらに乗るサイズだから、すぐには見つけられないよね。でも、渡り廊下を生徒がバタバタ行き交っているから、近くじゃないと声は聞こえないから・・・ ん? どこにいるんだろう? 昨日みたいに、私の頭の上かな?
「そこら辺は探したわ。もっとアッチを探しましょう」
声は聞こえるんだけれど、姿が見えないからアッチって言われても、方向がわからないなぁ。それに、ランチタイムも長くはないし。
「放課後の方が時間取れるから、アッチはその時に探すね。今はここら辺をくまなく…」
ミエルちゃんが探したって言うから、私はミエルちゃんが探しづらい高さを探す事に。昨日は地面にお顔をつけていたんだけれど、今日は座り込んで探します。
枝とか葉っぱとか、茎のトゲトゲに引っかかってないかな~?
「そこら辺は探したわ。もっとアッチを探しましょう」
草叢をそぉ〜っとかき分けて、葉の裏や茎を虫メガネを使って凝視している私に、ミエルちゃんは言いました。
凄い、ミエルちゃん! 自分の倍もある高さのところも調べたんだ! 大変だったろうな。
「ミエルちゃん、探し疲れちゃったでしょう? 桜の木の下あるタッパーに、昨日話した『出汁巻き玉子』が入って入るの。私も自分の分に『甘い玉子焼き』入れてきたから、一緒に食べようよ」
頑張ったら、お腹が空いちゃうもんね。一緒に玉子焼き食べよう。私も、目が疲れてきちゃった。
探しながらミエルちゃんを誘っても…
「アッチを探して」
「ミエルちゃん、玉子焼き食べない?」
相変わらず、『アッチを探して』と言うだけ。
昨日、あんなに美味しいって言ってくれて、今日の出汁巻き玉子も楽しみにしてくれていると思っていたんだけどなぁ?
「アッチを探して」
まただ。
「もしかして爺やさん、ものすっごく怒っていたの?」
女の子だもの、帰りが遅くなったら、しんぱいしちゃうものね。それとも、鍵が見つかるまで我慢しているのかな? 私がミエルちゃんから貰った蜂蜜を、ぐっと我慢しているみたいに。
もう一度、中庭をキョロキョロ見渡してみます。声はよく聞こえているから、すぐ近くに居るはずなんだけれど、頭や肩に居る気配はないし、ローファーにも乗っていないし…
「アッチを探して」
姿は見えないけれど、声だけはしっかり聞こえます。
んー、そんなにアッチがきになるのかぁ〜。アッチをちょっとだけ探してみようかな。
「じゃあ、少しだけね。で、アッチってどっち?」
クルッと辺りを見渡したら、渡り廊下からこっちに向かってくる冬龍君を発見しました。
「タイムオーバ。予鈴がなるよ」
「すぐ戻るから。アッチ、チラッと見てくるね」
アッチが分からないんだけれど、とりあえず渡り廊下の方、冬龍君が来た方を指差して歩き出そうとしました。
「次は、笠原先生の授業…」
冬龍君の前をススーと通り抜けようとしたんだけれど、確り捕まっちゃいました。左手首を確り握られて、笠原先生の名前が冬龍君のお口から出た時、私も何かが変だな。と気がついて、辺りを見渡しました。
「和桜ちゃん、放れないでね。お守り、持っているよね?」
周りの湿度が急に上がったと感じたら、直ぐに霧が出てきました。しかも、瞬く間に視界が利かなくほどの霧。
「冬龍君、放さないでね。お守り… あるよ!」
怖くなって、私は冬龍君の腕に左腕でしっかり抱きついて、右手はスカートの上からポケットに入っているお守りを握りしめました。




