37・空間のドアの中
37・空間のドアの中
今朝、早朝ランニングに行こうと、冬龍君と夏虎君がドアを開けると、そこには庄左エ門君のお友達が立っていたそうです。庄左エ門君をお迎えに来たと言うお友達にも、朝食のパワーサラダを振舞いつつ、大急ぎでお出かけの準備をしました。桜雨お姉ちゃんと桃華お姉ちゃんが。私達には、「ちゃんと朝食を食べなさい」と、超高速で準備をしてくれたんです。
準備万端で玄関のドアを開けたら、大きな白い渦がありました。その渦は地面にじゃなくて、ドアの様に立っていました。庄左エ門君のお友達がスタスタとその渦の中に進んで行くので、とりあえず、私達も後ろに続きました。渦の中は色々な風景が上下左右まぜこぜに流れていて、私達はポカ〜ンとお口を開けてキョロキョロしっぱなしでした。
「横、行くはダメ。真っ直ぐ進め。迷子になる」
庄左エ門君のお友達が言ってくれたけれど、私達は手を伸ばせば触れそうなそれらの風景に、興味津々。だって…
お魚を咥えたお母さん猫の後ろを、5匹の子猫が並んで歩いていると思ったら、バサバサ! て、目の前に飛び出してきたのは、甘い香りが漂うリンゴが鈴なりになった枝。
頭の上は青い海を泳ぐイワシの大群、横には大きなシロナガスクジラ。
遠くに見えるのは、真っ赤なマグマを噴き出す活火山。その手前には、本やTVでしか観たことのないパリのエッフェル塔や、フランスのベルサイユ宮殿やニューヨークの自由の女神像…
鮮やかな青いネモフィラで埋め尽くされた大地が、ゆっくと私達の周りを回転しながら、真っ赤なコキアで埋め尽くされて行きます。
足元には真っ白な翼。ハラハラと翼の羽根が抜けると無数の星に変わって、色とりどりの宝石になりました。
そんな景色の渦の中、私の右手は夏虎君、左手は冬龍君と繋いで、お互いの好奇心が行動に移さないように牽制しあいながら歩いていました。
「もう少しだ」
庄左衛門君のお友達が、前を指さしながら教えてくれた時でした。
「待って…」
急に、右手を繋いでいた夏虎君が右側へと走り出しました。
「へっ!?」
「夏虎!」
「ちょっとちょっと!」
思わず引っ張られる私と、慌てる冬龍君。梅吉兄さんの声が追いかけて来ます。たったの3歩ぐらい右側にそれただけだったのに、私達を取り巻く景色の渦は混ざり合いながら激しく回り始めて、気がついたら、可愛い木製の電車の中でした。一両編成の電車は、コトコトゆっくり自然の中を走っていました。
「わ~、レトロで可愛い電車だね」
「渦の中、1分も居なかった」
キョロキョロ車内を見渡す私と夏虎の前で、冬龍君は腕時計で時間を確認しました。秋君は木の床の匂いを嗅いでいます。
「さて、ここから、どうするかね?」
梅吉兄さんは、ボスン! と長椅子に座りました。
「大丈夫、川、近い」
全く知らない場所に出て慌てる私達に、庄左エ門君は電車の進行方向を指さしました。
「オイラ、この電車、乗ったことある」
庄左エ門君はポフンと長椅子に座ると、両足をプラプラさせながらお歌を歌い始めました。そのお歌は、最近よくTVで流れている、トイレのCMソングでした。
そんな感じに、庄左エ門のお友達とはぐれてしまったんですけれど、獣道を通って何とか目的地に到着すると…
「これは、ナイスタイミング! ってやつかな?」
梅吉兄さんが溜息混じりに呟きました。
獣道を抜けた私達の前には、川原で対峙する2種類のカッパさん達が居ました。私達に背中を向けているカッパさん達は緑色で6人、向こう側のお顔が見えるカッパさん達は赤い色で7人です。その赤いカッパさん達の後ろには、大きな川が見えました。
「庄衛門、今帰った」
庄左エ門君が、緑色のカッパさん達の真ん中に居るカッパさんに声をかけました。
「迷子、良かった。お帰り」
カッパさん達の見分けはつきません。けれど、会話の内容から、庄左エ門君をお迎えに来てくれたカッパさんだね。庄左エ門君は、1週間一緒に居たから分かるんだけれどな。
庄左エ門君とお友達の庄衛門さんは、赤いカッパさん達と何やらお話しを始めました。内容までは聞こえてこないけれど、雰囲気的には真面目なお話しかな。空気がピリピリしています。そんな空気の中、私達はそ~っと少し離れた大きくて平らな岩に座りました。獣道から伸びた枝が、ちょうど木陰を作ってくれているので大助かり。獣道を歩いていた時は木々で気が付かなかったんですけれど、日向はメチャクチャ暑かったですから。
「これ、これから領土争いが始まる感じ?」
「たぶんね」
そんなカッパさん達を見ながら、夏虎君は川原の大きくて平らな岩に座りました。隣に座る冬龍君が、夏虎君の言葉に相打ちを打ちながら、ナップザックからお弁当と水筒を出しました。
「お昼、食べちゃう?」
私は聞きながら、水筒のお茶で水分補給です。秋君の分は、夏虎君がナップザックから出してくれました。
「お兄さんはお仕事します。ここを、動かない様に」
そう言って、梅吉兄さんは川原を歩き始めました。
「梅兄の仕事って?」
夏虎君のお弁当は、私の3倍はあります。一口もとっても大きいんです。
「川の状況確認。梅兄、何か考えがあるみたいだから、足を引っ張らない様に、ここにいよう」
冬龍君のお弁当も、私の3倍です。でも、一口は夏虎君ほど大きくはありません。その代わり、夏虎君の倍のスピードで食べます。
今日のお弁当は『お握り』です。ゆかり、鮭と胡麻、生姜の効いた肉巻き、塩もみの胡瓜とシラスと大葉、合計4種類のお握り。ブロッコリーとミニトマトと、絶対入っている甘い玉子焼き。
お姉ちゃん達の作ってくれたお握り弁当を頬張りながら、緑と赤いカッパさん達の話し合いを見守っていましたが、動きがあったのは、ちょうど半分ぐらいお弁当を食べた所でした。




