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18・マーメイドの見ているランチタイム

18・マーメイドの見ているランチタイム


 私のお家は、ちょっと変わっています。一階でお花屋さんを営む『白川』家と、その隣で喫茶店を営む『東条』家が中ではくっついています。表札は二つで玄関は一つ。『白川』は私のお母さんの姓で、一緒に暮らしているのはお母さんのお姉さん家族。


「伯母さんじゃなくて、美和さんって呼んで欲しいな」


て、出会ってすぐにリクエストされました。『東条』はそんな美和さんの旦那さんのお兄さん家族です。こちらも


「私も、おばさんは嫌だわ。美世さんってよんでね」


て、リクエストがありました。『白川』も『東条』も、私の8歳年上のお姉さんがいるんですけれど、二人とも結婚してお家を出ています。出ていると言っても、お向かいのマンションに住んでいるので、こっちのお家のお手伝いによく来てくれます。『東条』のお兄さんも二人のお姉さんも旦那さん達も、この学校の先生なので…


「白川さん、今日、お昼一緒にいいかしら?」


「あ、私も一緒していい?」


 新学期、クラス替えがあると、暫くは初めて同じクラスになった子や、隣のクラスになった子達は、ランチを誘いに来てくれます。今年は私が新学期早々バタバタしていたし、ミエルちゃんの鍵探しでランチタイムにご飯を食べていなかったから、皆焦れていたみたい。4時間目の終了の鐘が鳴ったと思ったばかりなのに、机の周りを囲まれてしまいました。皆行動が早いです。私、まだ授業のお片付けしていません。


 1人、2人、3人… 6人もいる。いつもより、人数が多いなぁ。お顔も、まだちゃんと覚えていないから、クラスのお友達かも分からないや。


「私、白川さんとお友達になりたくて…」


 机に座ったまま、とりあえず教科書等をしまう私に、私の返事を待つ6人をかき分けて、中等部時代からのお友達の早瀬(はやせ)(かえで)ちゃんがランチバッグを片手に現れました。


和桜(なお)ちゃ~ん、今日は中庭がグチャグチャでランチには使えないみたいだから、屋上行こう~」


 楓ちゃんは、私より頭一個分大きくて、とってもスタイルが良いんです。脚も細くて長いから、「世の中にサービスよ」と言って、スカートの丈が標準よりだいぶ短いんですよね。お洒落も大好きで、背中まである焦げ茶色の髪の毛はいつでもサラサラだし、お肌も真っ白です。お顔はいつもメイクをしているので、素顔は分からないどころか、その日の気分で入れるカラーコンタクトに合わせてメイクをしてくるから、毎日お顔が微妙に変わるんです。今日はピンクのコンタクトだから、全体的にガーリーメイク。


「ほら、早く」


 今日の楓ちゃんも気合入っていて可愛いなぁ~… なんて見とれていると、楓ちゃんは私の鞄からササっとランチバッグを取り出して、私の手を引いて教室を出ました。ランチを誘いに来てくれた方たちは、置いてきぼりです。



「冗談じゃないわ、あの女共。下心丸出しなんだから」


 そう言いながら、楓ちゃんは水面がキラキラと反射するお日様の光に目を細めながら、お弁当のサンドウィッチを頬張ります。予定していた屋上は、先客が居て嫌だからとプールサイドでランチになりました。

 

「いつもの事。それに、楓が言えた義理じゃないでしょう?」


 奈緒美(なおみ)ちゃんは、鮭のお握り。


「だからよ。恋のライバルは少ない方がいいに決まっているじゃない」


 楓ちゃん、実は私が一緒に暮らしている『東条』のお兄さん、体育教師で1年生の学年主任の東条(とうじょう)(うめ)(よし)先生の片思い中なのです。梅吉お兄ちゃんはずっと高等部の先生なんですけれど、中学2年生の修学旅行の引率のお手伝いで来てくれた時に一目ぼれしたとか。それで、私が親戚で一緒に暮らしていると分かると「お友達になりましょう」と、さっきの方たちとまったく同じでした。さっきの子達の中には、冬龍君や夏虎君狙いの子もいたよね、きっと。


「浅ましいと言うか、計算高いと言うか…」


 奈緒美ちゃんは、タコさんウィンナーを食べながら、フン… と、お鼻で笑いました。


 不意に、プールの水面がユラユラと揺れました。お日様の光をキラキラ反射させながら、水の中から金色の髪の女の人が現れました。私達から一番遠いプールサイドに座ると、白い体にまとわりついた金の髪を手で()きながら、青い鱗でキラキラ光る尻尾で水面を軽~く弾いてこっちを見ています。


 昨日のマーメイドさんかな? お歌、歌いだしたりしないよね?


「『将を射んと欲すればまず馬を射よ』」


 私の隣でミニハンバーグを食べていた(とう)(りゅう)君が、マーメイドさんをチラッと見てから、ボソッと言いました。そして、スマートフォンをいじり始めました。


「良く言いすぎだと思うな。でも、まぁ、目的達成のために手段を択ばない姿勢は、ある意味称賛するわ。梅ちゃん追いかけて、剣道部に入部するんでしょう?」


 呆れながらも、奈緒美ちゃんは楓ちゃんに向かって小さく拍手をしました。


 へー、楓ちゃん、剣道部に入るんだ。梅吉お兄ちゃん、ここ何年か剣道部の顧問だもんね。


「うん。マネージャーね」


 あ、マネージャーね。納得。


「マネージャー? 剣道、しないの?」


「はぁ? 冗談でしょう?! 剣道なんかやったら汗臭いしネイル出来ないし、痣は出来ちゃうし、他の怪我だってするし、つけたくない筋肉ついちゃうし、何よりメイクが崩れてスッピンになっちゃうじゃない」


 奈緒美ちゃんに言われて、楓ちゃんはリズミカルに勢いよく言い返しました。


「そうね、楓らしいわ」


 ウンウン頷きながら、奈緒美ちゃんはブリックの牛乳を飲みます。


「白川弟は、剣道部でしょう? 春休みから熱心に練習に参加していたみたいだし。昨日だって、白川先生相手に遅くまで練習していたって。うちの部のスポーツ科の特進コースの先輩が言っていたわ。「来年は、うち(スポーツ科)の特進コースできまりね」て」


 スポーツ科の進学コースは、大学にスポーツ推薦しやすいクラスで、それよりも上なのが特進コース。大学進学が約束されている人達のクラスなんです。1年生の時は『普通科』『特進科』『スポーツ科』『商業科』と別れて、2年生になるとさらにクラスは細分化されて、進路指導が本格的になるらしいです。で、実は()()君、スポーツ科のどっちのコースでもなく、特進科の進学コースを狙っていたりします。


 夏虎君、お勉強も剣道も頑張っていて、着替える時間も勿体無いって、剣道着で授業受けている時もあるしね。


「白川兄は弓道部でしょう? 弟と一緒で、2年になったらスポーツ科?」


「和桜ちゃんが行くならね」


「弓道部のホープがそれでいいの?で、和桜ちゃんはどうするの? 随分と熱烈なラブコール受けているみたいだけれど」


 呆れた声のまま、奈緒美ちゃんは私に聞きました。


 ラブコール、片桐先輩の事かな?


「私は、冬龍君が弓道している姿、見たいなぁ~。とっても綺麗で、とってもカッコよくって、纏っている空気が清々しくって、見ているだけなのに私の気持ちも綺麗にしてもらった感じがするんだよ。でも、私自身は中学校の時みたいに、手芸部とかのゆっくりした部活がいいな」


 なんだろう? マーメイドさんから目が放せない。さっきから私の方を見て、ニコニコしながら髪を梳いているだけなんだけれど… あ、違う。私じゃなくって、冬龍君を見ているんだ。


「でも、和桜ちゃんの仮入部届は、さっき冬龍君が持って行ったんじゃないの? なんて書いて出したの?」


 あ、そうだった。私の仮入部届、もう出されていたんだった。冬龍君、何部って書いたんだろう?


「へい、お待ち!!」


 何部? て聞こうと冬龍君に聞こうとした時、元気な声と共に剣道着姿の夏虎君が来ました。冬龍君の弓を持って。


「そのうち、分かるよ。

 夏虎、ありがとう」


「牛乳、1本な~」


 冬龍君は夏虎君から弓を受け取ると、マーメイドさんの頭上空に向かって構えました。

矢はありません。弦を大きく鳴らすだけです。微かな音は空に吸い込まれて、周囲の空気が綺麗になった感じがします。それと同時に、マーメイドさんが慌ててプールの中へと戻って行きました。


 『鳴弦(めいげん)の儀』、マーメイドさんにも効果があるんだ。


「何? 何? 何か、払ったの?」


「… もしかして、朝、和桜ちゃんが言っていたカッパ?」


 周りを忙しなく見渡す楓ちゃんと奈緒美ちゃんに、冬龍君は何事も無かったかのようにいつもの調子で言いました。


「水泳部の場所を勝手に使ったからね。お礼に清めただけ。

さ、午後の授業、始まるよ」


 そう言って、冬龍君は私のお弁当箱の中から甘い玉子焼きを一切れつまんで、パクッとお口の中に入れました。


 最後に食べようと、楽しみに取って置いているの、冬龍君も知っているのに~。


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