最終章 決闘を終えた騎士と婚約者は愛を育む。
今回はキャルとガランスの回です。
短い内容です。
キャルとメルヴィスの決闘は、波乱含みの展開を経てこうして幕を閉じた。
決闘が終わると、イルディコー王はハーシェルを王都から禁足にした。
謀反を起こしたハーシェルはその身を拘束され、そのまま王都の外れにある貴族用の監房塔に隔離された。
今後のハーシェルには厳しい取り調べが行われるだろう。
彼の家族であるイルディコー王とメルヴィスは国内だけでなく対外的にも厳しい判断を迫られる。
しかし、キャルには彼らに何も言うことはできない。
自国は自国であり、他国のことに口を出す訳にはいかない。
今回の元凶であるセシリアは決闘の翌日にはヘラス王国から出国した。
アチソンとバティスタが騎士団として、セシリアの帰路に付き添うことになった。
二人とも無言のままで、セシリアに付き添ったのだが、その彼女の落ち込みように対してはあくまで無言を貫くのみであった。
もはや、誰もがセシリアの願いなど聞かない。
ダキア公国に戻れば、カルリートスの厳しい対応が待ち構えているのだ。
おそらくは、辺境の修道院に送られるか。
または、王城の奥に幽閉されるのかもしれない。
キャルはセシリアに同情はするが、彼女の罪を許すことはできない。
これまでのことを鑑みても、彼女は罪を償うべきだと考えている。
それも新しい王であるカルリートスの判断に委ねるしかない。
一方、疲労で倒れたガランスを介抱するため、キャルはジョナスと共にヘラス王国に残ることになった。
ガランスは旅の疲れが溜まっており、決闘が終わった翌日の夕方まで眠っていた。
その間も、キャルは彼女に付き添っていた。
背中まであった髪が肩まで短くなったガランスを見ながら、キャルは何度も彼女の髪を優しく触れていた。
・・・せっかく伸ばしていたのに、こんなことで迷惑かけてしまうとは。
キャルは眠るガランスに謝り続けた。
時折、ジョナスが食事を届けてくれた。
彼は相変わらず明るくキャルに接する。
「これ、近くのダイナーで名物料理です」
ジョナスがテーブルに持ち帰った料理を置く。
「ありがとう」
「はい。では、また」
ジョナスは二人の邪魔にならないよう、すぐに部屋を出る。
彼は二人のことを心配していない。
二人の関係を見れば、心配など必要ない。
ジョナスは、二人の時間を作るために食事以外は王都内を探索しておいしい食べ物を探すことに専念した。
その心遣いに、キャルは感謝するしかなかった。
やがて、ガランスが目を覚ますと、彼女は隣にいるキャルに声をかける。
「おはよう」
「ああ」
キャルはまたガランスの髪を撫でる。
「あなた、ずっと私の髪を触っていたでしょ?」
眠りながらも、ガランスはその感触を感じていた。
「うん」
「気をかけ過ぎ。髪を切っただけで心配するなんて」
ガランスが上半身を起こす。
「でも、結婚式のために伸ばしてたんだろう?それなのにこんなことになるなんて・・・」
「馬鹿ね。私はあなたの妻になると決めた時から覚悟はしてるのよ。あなたが気にしてどうするの?」
ガランスは逆にキャルの頭を撫でる。
「だから、結婚式の時はちゃんと私をエスコートしてね」
「ありがとう」
キャルは微笑み返した。
「キャル?」
不意にガランスがキャルの様子を見て驚き出す。
「・・・どうしたの?」
キャルが尋ねると、ガランスが彼の頬を優しく撫でる。
「涙が出てる」
「えっ?」
キャルは自分の頬を撫でる。
指先に微かに涙の欠片を知る。
「あれ、どうして泣いているんだ・・・」
キャルは戸惑いを隠せない中、ガランスが彼を胸の中に優しく包み込んだ。
「きっと今まで気を張ってたのね。でも、もう終わったから休んでいいんだよ」
その言葉を聞いたキャルは納得する。
・・・そうだ、これで悩むことはないんだ。
キャルは初めて安堵を覚えた。
すると、ガランスの醸し出す温もりが眠気を誘い出した。
「眠たいでしょう?」
「うん」
「眠っていいよ」
ガランスが枕の体勢を変えると、今度はキャルをベットに横たわらせる。
すでに、キャルは眠っていた。
その姿を見て、ガランスは彼がようやく緊張から解放されたのだと知ると静かに呟いた。
「頑張ったね、本当に」
次回も二人の話の続きです。