第2章 ヘラス王国の騎士は亡き弟を思い戦う。先生は弟子を見守る。
ジョナスとセルジオの決闘の回です。
ご感想お待ちしております。
ブヤメッド家の次男であるセルジオ・ブヤメッドは弟であるアガトをとても可愛がっていた。
家族環境の影響もあり、日頃、ヘラス王国の王都勤務が多い彼はアガトの兄でありながら父親のような存在であった。
幼い頃から自分の後ろについてくるアガトは素直で優しい子供でった。
たった5つしか離れていないが、アガトはセルジオに甘えていた。
セルジオが騎士見習いになると、アガトも兄と同じように騎士を目指すことにした。
アガトはかくれんぼが好きであった。
セルジオとのかくれんぼが楽しみな少年であった。
意外なことに、アガトは身を隠すのが上手かった。
こんなことがあった。
久々にアガトと遊んでいたメランとジュリアがセルジオに話しかける。
「アガトが見つからないんだ」
二人はアガトがいなく困っていた。
「冗談だろ?」
メランたちは優秀な騎士であり、敵の気配を察しするのが得意だ。
「そう言えば・・・僕も最近はアガトを見つけるのが大変になっていたな」
一緒に遊んでいるセルジオでさえ、時間内に見つからないことがあった。
屋敷内を探し回り、やっと見つけた時にはアガトは眠っていた。
「驚いたな。俺たちが見つけられないなんて」
メランたちは驚きを隠せないでいた。
その後もアガトはブヤメッド家の中で一番かくれんぼがうまい子供になった。
そして、アガトは自分の特性が身を隠すことであると知ると、彼はある道に進むことを考え始めた。
数年後、騎士見習いになったアガトは騎士の中で、短剣を両手で操る剣術を選んだ。
彼は自分の俊敏性を理解した上で、自分が斥候が向いていると確信していた。
そのためにも、短剣使いへの道を歩むことにした。
当然、メランやジュリアは反対した。
だが、セルジオだけはアガトの意思を尊重したいと皆の前で話した。
「アガトは国のために斥候の道を選んだ。我々にその権利を止めることはできない」
セルジオはそれでも認めないと言うのなら、自分はブヤメッド家から籍を抜くと宣言した。
セルジオの覚悟にメランとジュリアは負けた。
アガトは斥候への道を進むことになった。
「セルジオ兄さん、ありがとうございます」
「ああ」
セルジオはアガトが自分から生涯の道筋を選んだことを誇らしく思った。
「あなたねぇ・・・本当にアガトには甘いわよ」
ジュリアが呆れながらも愚痴を零す。
「そうだぞ。お前はアガトを甘やかし過ぎだ。そろそろ弟離れしないと」
メランも苦笑する。
「そうですね。弟離れしないと良い騎士になれないですしね」
セルジオも自分がブラコンであると自覚していた。
ただ、幼い事のアガトが自分の後ろを子犬のように歩きながらついてくる姿が忘れられずにいる。
セルジオにとってはそれは大切な思い出であったのだ。
だが、今は違う。
アガトは亡くなった。
アガトがまさかダキア公国の騎士、キャルライン・バーニーに向かい襲い掛かるとは思わなかった。
メランの死や、決闘と言う戦いの中で興奮したのかもしれない。
しかし、最愛の弟はキャルライン・バーニーの弟子であるジョナス・アントニオーニに倒された。
あまりに呆気なく、アガトは将来の夢を絶たれたのだ。
・・・アガト。
アガトが亡くなったことは、セルジオにとってショックであった。
彼にはブヤメッド家の名誉やヘラス王国の守護などどうでも良かった。
アガトの亡骸を見ながら、セルジオは決意する。
・・・僕の騎士としての姿を見せよう。
セルジオは愛剣であるグレイブソードを見つめる。
その夜、セルジオは姉のジュリアに告げた。
「姉上、僕はジョナス・アントニオーニに挑ませて頂きます」
ジョナスはキャルの側にいる。
彼は騎士団に勤務する以外は、休憩中に近くにある市場を散策するのは日課になっていた。
そこで一人の少年と仲良くなっていた。
少年と一緒に歩きながら、王都の話や市井の話を聞くのが楽しみになっていた。
セルジオはジョナスを観察していた。
それは決闘前にジョナスがどのような人物か知りたかったからだった。
すると、市場に入ったジョナスの前に一人の少年が声をかけてきた。
二人は笑顔で仲良く話をし出す。
その姿を見て、セルジオはアガトの姿を思い出す。
・・・アガト。
ジョナスと親しくする少年の姿をアガトに重ねながら一人呟く。
ジョナスは少年にお菓子を買い与えると、そのまま市場から離れていく。
・・・裏表もないな。
そう思いながらセルジオはそのまま少年の後を追った。
「ジョナス兄ちゃん!」
翌日、ジョナスが市場に入ると、昨日の少年が声をかけてきた。
「やあ」
「これ」
少年はジョナスに封を取り出す。
「これは?」
「知らない。どこかのお兄ちゃんからジョナスのお兄ちゃんに届けて欲しいって」
「そうなんだ。ありがとう」
ジョナスは少年から封を受け取る。
「じゃあね」
少年は頭を下げると、笑顔でその場を離れた。
ジョナスは封を開ける。
それはセルジオ・ブヤメッドからの決闘の申し込みであった。
ただ、一人で来てほしいとの内容であり、ジョナスはその封を閉じると無言のまま騎士団の本部へ戻った。
「先生」
ジョナスはキャルに声をかける。
「どうした?」
「今日なんですが、知り合いと食事をしてきても良いですか?」
「いいよ」
「ありがとうございます」
キャルはジョナスを見つめている。
「どうかしましたか?」
「いや」
キャルは察していた。
その様子を見ると、ジョナスはブヤメッド家の誰かと会うのだと。
市場から戻ったジョナスの態度がおかしいのを察するのは簡単だった。
ジョナスの態度は分かりやすいものだった。
「夜遅くならないように」
「は、はい」
ジョナスは頭を下げると、部屋を出る。
「ついにきたか」
キャルはため息をつくとジョナスが出た扉を静かに見つめた。
ジョナスはセルジオの指定された場所を訪れた。
そこには一つの影が鎮座していた。
「お待ちしておりました」
影は立ち上がると、ジョナスの前に現れる。
セルジオであった。
「あなたでしたか」
「ええ。あなたを市場で見かけた時に声をかけたかったのですが、さすがに立場上、声をかけるのはやめました」
「それであの少年に手紙を渡したんですか?」
「そうするしかなかったんだ」
セルジオが一瞬、悲しい顔になる。
それに気付いたジョナスがある事に気付いて尋ねる。
「僕が斬った少年・・・」
「ああ。僕が可愛がっていた弟だ」
セルジオは無理やり笑みを浮かべる。
そう、ジョナスは感じ取る。
「申し訳ありません」
「いや、あれは仕方なかった」
セルジオも理解している。
アガトが若さに任せて決闘を終えたキャルに襲い掛かった。
それは礼儀に反していた。
しかし、アガトはキャルに襲い、ジョナスに返り討ちに合った。
その後はセルジオも自問自答した。
なぜ、アガトは動いたのか。
それがわからないまま今日を迎えていた。
「だが、気持ちが整理できない。アガトがなぜキャル殿に・・・」
その答えはジョナスと戦えば知ることができるかもしれないと。
「だから、僕は君と戦いたい」
「セルジオ殿がそう願うのなら、僕もその理由に納得します」
ジョナスはセルジオの気持ちを知ると、彼の思いを受け止めることを選ぶ。
「ありがたい」
セルジオも安心する。
「立会人はいませんが、よろしいのですか?」
「ええ。僕はあなたと二人だけで戦いたい」
セルジオが選んだ場所は人気のない広場であった。
彼が周囲に気を使ったことにジョナスは好感を抱く。
「我が名はヘラス王国騎士、セルジオ・ブヤメッド。ジョナス・アントニオーニ殿に決闘を申し込む!」
セルジオがグレイブソードを正面に力強く構える。
「ダキア公国が騎士、ジョナス・アントニオーニ。決闘をお受けする!」
ジョナスも剣を右肩に置く。
ジョナスの剣は片刃のロングソードである。
お互いに摺り足で距離を詰めながら歩んでいく。
お互いが打ち合える距離になった時、二人は同時に動いた。
二人が両足を止めると、お互いの剣が動いた。
鈍い金属音と共に刃が交わるとすぐに二人は距離をとる。
・・・さすがに強い。
ジョナスもセルジオも刃が交わった瞬間にお互いの強さを知る。
今度は、セルジオが動く、
セルジオのロングソードが突きで動く。
ジョナスはそれを剣で弾く。
続けざまに、セルジオの体が回転する。
彼の両手が背中に隠れる。
セルジオの背中からグレイブソードが飛び出す。
ジョナスにはそのように見えた。
しかし、グレイブソードは回転するかのように見えて、それが左手から飛び出した時、ジョナスがそれが再度の突き技と気付いた。
ジョナスの反応が遅れて、彼の左頬に切り傷がつく。
・・・ファントか。
ファントは体を伸ばしきって行う突きである。
セルジオはグレイブソードの特性を生かして、全身のバネを使っての攻撃、ファントを行ったのだ。
・・・今度はこちらの番。
セルジオの体が伸び切るタイミングで、今度はジョナスが反撃する。
ジョナスはロングソードをあえてグレイブソードを当てるように左右へ振り続ける。
グレイブソードを持つセルジオの両手が勢いで揺れ出す。
すると、セルジオは片刃の部分でジョナスの剣を弾く。
セルジオも感じていた。
ジョナスが柄を狙いセルジオからグレイブソードを弾き飛ばそうとしていることを。
再び、二人は距離が置く。
「やりますね」
セルジオが感嘆する。
「そちらこそ」
ジョナスも同様であった。
再び、お互いが刃を重ねる。
ジョナスが斜め下に強烈に切り下げる。
それを受け止めるセルジオ。
今度はセルジオの柄を何度もジョナスのロングソードにぶつける。
ロングソードの刃が欠け出す。
その繰り返しが何度かあった後、再度、お互いが距離を置く。
・・・このままだと剣が。
ジョナスがロングソードを見ながら危惧する。
一方で、セルジオも自分の握力がなくなっていくのを知る。
・・・これはもたないな。
セルジオの予想以上にジョナスの剣が重いのを知ると、いつ自分の剣が手から離れるかもしれないと不安に駆られる。
<・・・次で決める。>
お互いが次での攻撃で戦いを終わらせると決意する。
セルジオが一番最初の頃と同じグレイブソードを正面に力強く構える。
ジョナスも同様に剣を右肩に置く。
ジョナスが大声で叫びながらセルジオに駆け出す。
同時に、セルジオも雄叫びを挙げながらジョナスに向かう。
互いの刃が重なる。
その瞬間、ジョナスの剣が二つに割れた。
・・・勝った!
だが、ジョナスの剣は勢いが止まらない。
体を捻らせながら、前に倒れるようにグレイブソードの柄をロングソードを走らせる。
・・・先生の技!
キャルの槍を使う技をそのままジョナスは使う。
ジョナスの剣がセルジオの右腹部を斬り裂いた。
セルジオが痛みを声にすると、彼はその場に倒れた。
ジョナスがすぐに振り返り、折れた剣を構える。
・・・できた。
ジョナスはキャルの技を初めて使い成功させた。
それが嬉しいものの、すぐに意識をセルジオへ向けた。
セルジオは地面で苦痛で蹲っている。
彼の右腹部はジョナスの攻撃で出血していたものの、剣が折れていたせいで勢いが失われていたので傷は致命傷にはなっていない。
「・・・負けたよ」
セルジオがジョナスに体を向ける。
「・・・まさか折れた剣で戦ってくるとはね」
セルジオが苦痛を浮かべる。
そこにジョナスが彼の近くに寄ると傷口を持っていた布で覆う。
「治癒院へ行こう」
「・・・いいのか?」
「勝負は終わった。気にするな」
ジョナスがセルジオを介抱する。
「・・・アガトが・・・なぜあんなことをしたのか知りたかった」
セルジオが呟く。
「・・・理由が知りたくて、君に戦いを挑んだ・・・」
「そうだと思った」
「・・・察していたのか」
セルジオが苦笑する。
「答えは出たかい?」
「・・・いや、わからない」
「それなら、この後考えてもいいと思うんだが?」
「・・・そうだね」
セルジオから涙が流れ出した。
キャルは二人の決闘を見ていた。
その戦いでキャルは弟子の成長を喜んだ。
いや、騎士として初めて命をかけた決闘に挑んで生き残ったジョナスの姿に安心した。
・・・さて、次は俺か。
次の決闘者はジュリアであろう。
キャルはそう思うと王城を見る。
そこにいる人物など決闘には関係ない。
自分は騎士として戦うのみだ、
・・・どんな理由であれ、負けはしない。
セルジオがブラコン入っていますが弟思いの優しい騎士です。
次回は少し変わった回になります。




