第1章 悪役令嬢の罪と罰。そして、皇女は語る。
今回はセシリアの回です。
セシリアが何を考えていたのか。
その辺りを描いています。
メイソンとローラントの凶行はキャルの決闘と共に終わりを迎えた。
その結末は三日後には王都や地方にまで聞こえるほどに伝聞された。
特にローラントがヘラス王国から暗器を密輸したことは、セシリアを暗殺しようとしたと大きく誇張されていった。
これはセシリアを守ろうとする父ティベリウス王の力が働いていた。
また、ダキア公国とヘラス王国は同盟国であり友好国である。
その関係性を壊したくないダキア公国の関係者の意図も垣間見えた。
一方でアチソンはローラントが密輸した剣銃を行方を追っていた。
メイソンやローラント、彼の家宰の三人が持っていた3丁。
それ以外の2丁は騎士団が捜索を続けているが未だ行方知れずであった。
アチソンは王都から地方へと捜索範囲を広げることにした。
しかし、剣銃は影も形も見えることはなかった。
ガランスの容態は回復途中であったが、すでに腹部は大きな傷跡は残るものの、屋敷の中庭を歩けるほどまで回復していた。
「良かった」
ガランスの見舞いに訪れたキャルは久々に彼女の前で笑顔を見せた。
「それでメイソンはどうなるの?」
「おそらく懲役刑になるだろう。どこに収容されるかはわからないが地方の女子刑務所に服役になると思う」
「そう・・・」
ガランスとしては、一度だけでも良いのでメイソンと会って話をしたかった。
彼女と会って、何故そこまでセシリアに囚われるのか知りたかった。
だが、兄のバティスタ含め彼女の家族たちが会わせるなどとんでもないと反対した。
キャルはガランスの気持ちが良いならと認めてくれたが、結局、メイソンと会うことは叶わなかった。
王都にある貴族専門の地下牢にメイソンはいた。
彼女はキャルの手で足に怪我を負っていたが、彼に復讐など考えることはできずにいた。
メイソンは初めて人が人を殺す場面を見た。
しかも、これまで見下してきたキャルが容易くローラントを殺した。
そればかりか、自分に対しても刃を向けた。
メイソンは初めて刃での痛みを覚えた。
その痛みは生まれて初めて味わうものであった。
おそらく永遠に忘れることができない。
これも人を殺したばかりのキャルの手で行われた。
そして、キャルに初めて恐怖を覚えたメイソンは眠るたびにキャルに殺される夢を繰り返し見るようになった。
そのため、倦怠感と食欲低下で下瞼が紫色に隈どられていた。
「久しぶりね、メイソン」
美しい声が牢内に優しく響く。
その声が聞き覚えのあるあの方の声だった。
「セシリア様・・・」
メイソンはベッドから起き上がると、セシリアの側に近寄ろうとする。
しかし、足の怪我でうまく動けずセシリアの前で崩れ落ちた。
「あらあら」
セシリアはメイソンを介抱する。
「申し訳ございません」
メイソンが自分の不甲斐なさに涙を浮かべる。
「いいのよ」
セシリアはメイソンを優しく抱き締める。
「あなたにとても感謝しているの」
「本当なのですか?」
「ええ」
セシリアはメイソンの上半身を起こす。
「だって、あなたのおかげでキャルの素晴らしさを皆が知ってくれたわ」
「えっ?」
メイソンは唖然とする。
「キャルの素晴らしさ・・・」
「そうよ、私しか気付かなかったキャルの素晴らしさを」
セシリアが満面の笑みで返す。
「セシリア様」
「何かしら?」
「何故・・・セシリア様はキャルライン・バーニーに拘るのですか?」
メイソンの質問にセシリアは不思議そうな顔をする。
「どうしてそんなことを聞くのかしら?」
「だって・・・だって、キャルライン・バーニーの悪評を流した上で婚約破棄したではありませんか・・・」
「それの何が悪いのかしら?」
「皆は・・・セシリア様がキャルライン・バーニーへ好意を抱いていると聞いておりました。ですが・・・私にはそう思えませんでした。だからこそ、あなた様のためにキャルライン・バーニーを傷つけておりました。では、何故キャルライン・バーニーへの冷たい態度を取り続けたのですか?もし、あなた様が私にそのような感情を見せて頂ければローラントも死なず、私もこのようなことにはならなかった・・・はずです」
他人から見れば酷い言い訳にしか聞こえないが、メイソンとしては崇拝するセシリアの考えがとても理解できなかった。
「そうですね」
「そうですねって・・・」
「だって、あなたたちはキャルを傷つけたじゃない。私が許すと思っているの?」
「・・・何を言っているのですか?」
メイソンが困惑する。
「キャルはあなたたちみたいに自分勝手に動かないわ。いつも騎士として私や国や家柄の体面を考えている。その彼をあなたたちは苦しめて楽しんでいた。そんな身勝手なことを私が許せるはずないでしょ?」
「・・・待って下さい。そのような態度をまったく見せなかったではないですか?」
「それは私が皇女であるからです」
セシリアが真顔になる。
それはセシリアがメイソンに初めて見せる姿だった。
「だからこそ、キャルをもっとも見下していたあなたやローラントを破滅させるために密かに動いていたのです」
「破滅を?」
メイソンはセシリアの視線から目を離せない。
「ローラントがどうして剣銃を手に入れることができたと思ってますか?」
「そ、それはローラントが商家だからでは?」
「それだけで我が国に武器の密輸など簡単にはできません」
メイソンが騎士団から聞いていたのは、ローラントが自分の名を使って暗器を密輸したという事実であった。
しかし、今の話ではそのローラントはセシリアの手の内にいたと言うことになる。
「私がヘラス王国の知り合いを使い、ローラントに剣銃が渡るようにしました」
「そんな・・・」
「あなたとローラントは必ず剣銃を共有すると思っていました。そして、その通りになりました」
「では、セシリア様は最初から私たちがキャルライン・バーニーやガランスを狙うようにしたのですか!?」
「ええ」
セシリアが冷たく笑う。
「キャルもあなたやローラントの策に見事に対応してくれました」
そこでメイソンは一つの事実に気付く。
「・・・つまり、私たちはキャルライン・バーニーの引き立て役だったのですね」
「さすが、メイソンね。気付いてくれましたね」
「ならば!!ならば、ローラントの死は無駄ではないですか?」
メイソンはセシリアに詰め寄る。
「私もこのような凶行に走ることはなかったです!!」
「だから言ったではありませんか。私はあなた方に罰を与えたのです」
セシリアがメイソンを突き飛ばした。
メイソンの体は抵抗することもできず、床に叩き付けられた。
「あなたには感謝しています。あなたの手でガランスを傷つけてくれたのですから」
「待って下さい!!」
メイソンがセシリアの足にしがみつく。
「今の意味はどう言うことですか?」
「ガランスはキャルの子をなさないかもしれないそうです」
「・・・そんな・・・」
そこでメイソンは同じ女性であるガランスの大切なものを奪ったことを知った。
「・・・私はなんてことを・・・私はそんなことをするつもりは・・・」
もはや後の祭りである。
「これでお別れです。しっかりとキャルに罪を償いなさい」
セシリアが外へ出ると、牢番が牢の鍵を閉める。
「セシリア様!!」
メイソンが牢の柵を掴む。
「セシリア様!!」
だが、セシリアは何も答えず地下牢から出た。
再び、沈黙が訪れた地下牢でメイソンは涙を流す。
崇拝していたセシリアに利用された上、キャルだけでなくガランスの大切なものを奪ってしまった。
もはや、セシリア様は自分を救ってくれない。
だが、メイソンは法廷でセシリアの名を出すつもりはなかった。
いや、セシリアの恐ろしさを知ったメイソンは皇女の名を出すことはできなかった。
・・・私は一体、何をしていたのか・・・。
自分が何故、キャルを迫害したのか。
自分自身でもわからなくなってしまった。
「・・・本当に私はなんてことを・・・」
メイソンはただ絶望で涙を流すしかなかった。
セシリアはヤンデレではありません。
彼女の愛情表現がひねくれています。




