第1章 皇女様から婚約破棄をされてしまった騎士です。(加筆修正済)
婚約破棄から始まる物語です。
その方法は騎士ならではのものです。
※文章を修正しております。
「キャルライン・バーニー、本日をもって私との婚約を解消しましょう」
その日は、ダキア公国の第二皇女であるセシリア主催の交流会であった。
定期的に開かれる華やかな交流会は、二十代の貴族階級や騎士階級の者たちが集まり、家の事情などにより十代で婚姻を逃した者たちの出会いの場でもあった。
その中で、セシリアの同伴として参加していた、キャルライン・バーニーこと、キャルは参加者の目の前で、婚約者であるセシリア皇女から突然、婚約破棄を宣言されたのだ。
・・・覚悟はしていたけど・・・何もこの場で宣言されなくても良いと思う。
負の感情を抱きながらもキャルはセシリアを静かに見つめる。
セシリアは無表情だった。
そこには感情さえ読み取れない。
それは、キャルがいつも見るセシリアの姿であった。
一方で、キャルとは別に感情を露にしている者たちがいる。
セシリアの後ろには、彼女の取り巻きたちが並んでいた。
子爵令嬢たるメイソン・レオナルディや騎士階級(経済界)の有力家であるローラント・ブストリッチたちがいる。
その一歩下がったところに、同じ騎士団の同僚で同じ侯爵家の長子であるバティスタ・ドゥラーノがセシリアの警護として控えている。
彼は、冷淡な視線を浴びせている。
「理由を教えていただけますでしょうか?」
キャルは静かに尋ねる。
「理由ですか?」
「はい」
キャルの質問に対して、メイソンが「呆れるわ」と失笑する。
「では、言いましょう」
セシリアはキャルにその理由をこう答えた。
「あなたには、私の伴侶となる価値が著しく欠けております。なぜ、私の心を奪おうとしないのです?私を妻と迎える意志さえ感じられない。私はそれが許せないのです」
・・・それはあなたが心を開いてくれないからではないか。
キャルとしては、セシリアと心を通わせるために幾度も彼女と交流しようとした。
セシリアとの婚約者に選ばれてから、彼はどんな時も彼女へ愛を語り続けた。
だが、セシリアは何も応えてくれなかった。
そればかりか、自分を拒む態度を幾度もとっていた。
それが今では、自分が至らないからと言う理由で婚約破棄を言い渡されている。
「それだけでしょうか?」
キャルが再び尋ねる。
この時には、キャルは覚悟を決めていた。
「無礼だぞ、キャルライン!!」
すかさずローラントが注意する。
その隣では、メイソンがキャルが惨めだと思っているようで、卑しい?笑みを浮かべていた。
キャルは、彼らから侮辱を受けても、それに耐えながらセシリアを見つめ続ける。
この方は何を期待しているのだろうか。
もしかすると、自分が婚約破棄をしないで欲しいと泣きついてくることを願っているのかもしれない。
そこまでして、自分を屈服させたいのか。
キャルには、もはやセシリアへの愛情は消え失せていた。
彼女は相変わらず、冷ややかな視線でキャルを見ている。
・・・もう、これまでかな。
やがて、キャルは心が折れてしまった。
・・・もうここまで我慢したんだ。両親には後で謝ろう。
キャルはその場に跪いて臣従礼の形をとる。
その姿を見た周囲の参加者がざわつき出す。
「承知致しました。キャルライン・バーニー、謹んでお受け致します」
「えっ?」
予想外の答えに驚いたのか、セシリアが席から立つ。
彼女は、キャルの態度に戸惑いを見せていた。
その様子に、取り巻きであるメイソンたちも驚く。
「本気なのですか?」
セシリアが動揺している。
キャルの前で初めて見せた反応であった。
「はい。自分の不甲斐なさで、セシリア様の期待に沿えず申し訳ございません」
キャルはこれで最後とばかりにセシリアに微笑みを送る。
「では、失礼致します」
そう言うとキャルは会場を後にした。
後ろからはメイソン達の笑い声が聞こえてくるが、キャルは何も反応することはなかった。
キャルが会場の外に出ると、一人の令嬢が彼に駆け寄る。
彼女は、周りを気にすることなくキャルに話しかける。
「待って!」
声をかけられたキャルは、足を止める。
振り返ると、そこにはガランス・ドゥラーノがいた。
ガランスはキャルの幼馴染と言える立場の令嬢であり、セシリアの後ろに控えていたバティスタの妹だった。
「ごめんなさい。兄が失礼なことをして・・・」
ガランスは不愉快そうな表情をしている。
兄であるバティスタもそうだが、セシリアの態度が許せずにいた。
「でも、ガランスは声をかけてくれた」
キャルは優しく微笑む。
「ありがとう」
ガランスも、キャルの笑顔を見て安心したのか笑顔になる。
「送るよ」
そう言うと、キャルたちはそのままバーニー家の馬車に乗る。
馬車が移動を始めると、ガランスがキャルに尋ねる。
「ねえ、今後のことだけどどうするの?」
ガランスとしては、セシリアとの婚約破棄をキャルがどう対応するのか気になっていた。
「さて、どうしようかな」
キャルはわざとらしく考え込む。
婚約破棄を受け取ったとはいえ、その後のことはまだ何も考えていない。
「いいの?また、みんなに悪い噂が流されるわよ」
ガランスとしては、今回の婚約破棄が原因で、キャルの悪い噂が流されるかもしれないと思うと心配でならなかった。
「じゃあ、ガランスは私のことを見下すかい?」
「そんなこと、すると思う?」
ガランスが首を横に振る。
「ガランスがそう思ってくれるのなら、それだけで嬉しいよ」
キャルはそう言うと、窓の外を見る。
夜に照らし出された王城が見える。
そこできっと、セシリアの取り巻きたちが自分を笑っているだろう。
その時、キャルはある事を思い出していた。
「思い出した」
「どうしたの?」
ガランスが急に呟いたキャルに尋ねる。
「いや、何でもない」
キャルはガランスに微笑み返す。
だが、心の中で騎士として、それを使おうと決意した。
それは、騎士である自分を誹謗した者たちに対する遺恨返しになると気付いた。
・・・だからこそ、彼らにも代償を払ってもらう。
強く決意したキャルは王城を睨みつける。
その様子にガランスは気付いたが、キャルにあえて何も言わなかった。
翌日、バーニー家より貴族院にセシリア皇女との婚約破棄の届けが出された。
キャルは婚約破棄を受けたその日のうちに、両親にすべてを話した上でこちらから貴族院に届けを出したのだ。
その日のうちに、キャルがセシリアとの婚約破棄を受け入れたことが王都中に広まった。
セシリアの父である、現王たるティベリウス王はキャルに翻意を求めたが、交流会でのセシリアの宣言はさすがに取り返しのつかないものであり、届け出を受け入れるしかなかった。
同時に、王都では婚約破棄の話を聞いて、キャルを馬鹿にする者たちが一気に溢れ出た。
特にキャルの家柄より身分の低い者たちが、ここぞとばかりにキャルの悪口を言いまくった。
だが、彼らはその行為がどれだけ失礼なのか理解していなかった。
理解しているとする人物がいるとすれば、セシリアの父であるティベリウス王であろう。
彼は今回の婚約破棄の話を聞くと頭を抱えた。
まさか、自分が知らないところで娘であるセシリアが勝手に婚約破棄の話をするとは。
これには王家として事情があった。
五爵の位のうち、侯爵家の長子であるキャルライン・バーニーは二年前より、ダキア公国の皇女であるセシリアと婚約した。
本来、セシリアは同盟国であるヘラス王国へと嫁いでいたのだが、そこで夫であるメルヴィルとの夫婦生活が破綻してしまい、彼女は離婚となってしまった。
結局、セシリアはダキア公国へ戻ることになったのだが、父であるティベリウス王が娘のことを考えて、公国内で彼女の婚姻を進めることにした。
だが、降嫁ということが原因となってしまい、なかなか婚約相手が見つからなかった。
つまり、疵物と扱われたのだ。
そこでティベリウスが目をつけたのが、キャルであった。
清廉潔白で有名なバーニー侯爵家の長子であるキャルは、その無類の強さから辺境の地や紛争の地で騎士として戦い続けていた。
そのため、彼は婚姻が遅れていたのだ。
当時のキャルの評判は、最強を極めた騎士の一人であり、セシリアとの降嫁があろうとも問題はなかった。
何より、セシリアとキャルは幼い頃からの知り合いである。
セシリアの覚えも良く、キャルは騎士になるまでは遊び相手や勉強相手として側にいたのも、理由の一つに挙げられる。
そればかりか、キャルの父がティベリウスの親心を知り、息子であるキャルを王都へ呼び戻して、セシリアと婚姻をするよう説得した。
キャルもセシリアの境遇を知っていたので、彼女との婚姻を受け入れたのだ。
そのような理由があるにも関わらず、セシリアは自らの意志で今回の婚約破棄を進めた。
これではバーニー家の面子、キャルの立場はどうなると思うのか。
そのような考えに至らないセシリアにティベリウスは頭を抱えているのだ。
息子であるカルリートスも父に苦言を呈する。
「これではキャルライン・バーニー殿が可哀そうです!そればかりか、我が国を守る騎士そのものが低く見られてしまいます!よって、姉上を謹慎させるべきです!」
息子の進言を受けたティベリウスは、すぐにセシリアを呼びつけると、彼女に謹慎を言い渡した。
だが、ティベリウスも親である。
謹慎は短いものであった。
娘であるセシリアをそれ以上は責めることができなかった。
やがてそれが、とんでもないことになるとは彼自身も思いもしなかったのだから。
肝心のキャルだが、やはり屋敷から外へ出てこなかった。
婚約破棄の話を聞きつけた興味本位の者や誹謗を行おうとする者たちなどが屋敷を訪れたが、さすがに主人の代わりに怒りを露にするバーニー家の私兵に阻まれて、屋敷の中に入れてもらうことはできなかった。
婚約破棄から四日後。
キャルは心許せる親友を屋敷に呼んだ。
友人のアークライト・サベーリエワである。
アークライトはダキア公国で法務官の地位に就いている。
中等時代のクラスメイトである彼は、キャルを心配していたのですぐに屋敷に駆け付けた。
キャルの部屋に通されると、彼はまったく元気であった。
「心配してたんだぞ」
アークライトはキャルの様子を見て安心したのか、一つため息をついた。
「これでも昨日まで傷ついてたんだけどね」
キャルは笑う。
「外界は相変わらずお前の悪い噂ばかりだ。正直、言ってた奴を殴ってやろうと思った」
「そいつは無視していいよ、言わせておけばいいさ」
キャルはアークライトをソファへ座るよう促す。
「それで、俺に何の用だ?」
「これを見てほしいんだ」
アークライトに尋ねられたキャルは、紙袋の中身をテーブルにぶちまける。
それは大量の封筒だった。
アークライトはその一つを手にすると、封筒の中を見た。
内容を確認したアークライトは驚きを隠せないでいた。
他の封筒を見ると、そこには見知った名前もあった。
「おい、おい、なんだよこれは」
アークライトは封筒を送った主たちに呆れてしまった。
正直、そこまでキャルを誹謗したいとは思いもしなかった。
「面白いだろ?だからさ、引き受けてやろうと思うんだ」
キャルが微笑む姿を見て、アークライトはキャルの意図をすぐに理解する。
「だから、法律の専門家に受けてもいいのか確認したい」
「なるほどね・・・」
アークライトも笑みをこぼす。
「いいね~、俺もその話に乗ってやるよ」
決闘が始まります。
<ざまぁ>の開始です。




