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笠かぶる 残雪の富士 旅の連れ

 三度笠に雨合羽の旅人に、宿の客引きが尋ねた。

「旅の人、お一人かい?」

 旅人は、すっと空のかなたを指差す。

「でっけえ連れが見えねえか?」

 そこには、笠雲をかぶり白い雪合羽をまとった富士の姿があった。


 こんな粋な話も最近では無くなった。もう半世紀も前になるが、通学途中の電車から富士が見える場所があった。重い鞄を持って、古い木造の客車で倒れなれないように足を踏ん張る。電車通学のわずかな楽しみだった。


 休みになると家族旅行をせねばと脅迫観念にかられた日々も、今ではのんびりしてはどうかとコロナに諭されているようである。

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