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 ベンジャミンの結婚相手は、以前から決まっていた婚約者の伯爵令嬢でひとつ年上。

 学園在学時に結婚するのは珍しいのだが、だからといって皆無というわけでもなく、これを聞いた普通の貴族の反応は「へぇ~、早かったね」くらいだった。


(そうなのよね。いくらゲームではモブキャラでも現実のベンさまは伯爵家の次男、しかも王子の側近候補で将来有望な若者なんだもの。婚約者がいないはずがなかったのよ!)


 キーン伯爵家長男のスペア的存在なベンジャミンは、とりあえず王都の伯爵家別邸で新婚生活を送り、長男夫婦に二人以上の男の子が生まれ後継者の心配がなくなった時点で独立。実家の伯爵家が持っている子爵位を継ぐ予定になっているという。その後は彼の働き次第もあるのだが、ゆくゆくは伯爵に昇爵するだろうというのが世間一般的な見方だった。


 勝ち組確定の貴族男子の容姿がモブであろうとなんだろうと、現実を生きる貴族令嬢の価値観に変化はない。

 ベンジャミンの婚約者は早まった結婚に大喜びで頷いたのだと思われた。


「こんなに急に結婚するだなんて! 絶対、エドウィン殿下が手を回したに決まっているわ! あなたと相思相愛になってもそれでもベンさまとあなたがくっつく可能性を潰そうとしたのよ! 狭量にもほどがあるでしょう!」


 いくらエドウィンやイェルドと両想いになったとはいえ、それとベンジャミンへの憧れは別腹だ。

 大好きな彼氏がいても、相思相愛の夫がいても、アイドルに熱狂する女性の多くと同じようにビアトリスとエイミーのベンジャミンへの想いもまたそう簡単に廃れたりはしない。


 最推しモブキャラベンジャミンが妻帯者になったことに大ショックを受けたエイミーは、プンプンと怒った。




「――――イェルドさまも積極的に後押しされていたって聞いたけど」


「うっ、でも、それは、イェルドだもの! 仕方ないわ。……ともかく私が言いたいことは、エドウィン殿下がイェルドに負けないくらい嫉妬深くって腹黒で目的のためには手段を選ばない人だってことよ!」


 声を荒げ糾弾するエイミー。

 彼女の言っていることに間違いはない。


 ビアトリスだって、今回のベンジャミンの結婚には思うところがないわけでもないので、否定するつもりは微塵もなかった。




 しかし――――。


「でも、エドさまは私を監禁しようとはしないわよ」


 そう。そこがイェルドとエドウィンの決定的に違うところなのだ。

 ビアトリスのことが好きすぎて、ベンジャミンに結婚を命じるようなエドウィンだが、彼は絶対ビアトリスの自由を奪おうとはしなかった。


(前に学園に通わせないようにしたがってはいたけれど……でも、結局は許して卒業させてくれたもの)


 ビアトリスの口元に自然と笑みが浮かぶ。


「もしも私が鳥だとしたら、エドさまは私を鳥かごに閉じこめたり羽根を切ったりするよりも、自分自身を鍛えて自由に飛ぶ私を守れるほどに強くなろうとする人だもの。だからこそ、私はエドさまの傍近くで安心して羽根を休めることができるの」


 言い切るビアトリスを、エイミーが眩しそうに見つめる。


「……信頼しているのね。羨ましいわ」


「エイミーだって、本当はイェルドを信頼しているんでしょう? だから懲りもせず逃げだすようなことを言えるんだわ」


 ビアトリスの言葉にエイミーは驚いたような顔になる。


「そんな自覚はなかったけれど……でも、そうなのかな?」


「ええ、そうよ。だから覚悟を決めて婚約発表をしてね! そして幸せなヒロインになるのよ! 私も負けずに幸せな悪役令嬢になるから!」


 ヒロインも悪役令嬢も、みんな幸せになれる乙女ゲームがあってもいいんじゃないかとビアトリスは思う。


(なければ、自分たちで作ればいいのよ。だってここは私たちの世界なんだから!)


 ビアトリスの言葉に、エイミーも破顔する。


「そうね。私たち絶対幸せになりましょうね!」


 ヒロインと悪役令嬢は、手を取り合って誓った。


次話で完結です!

本日22時に更新します。

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