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「まあ! では、エドさまがリビード王国に裏工作をしていたんですか?」


 ビアトリスは、驚きに目を丸くする。

 エドウィンは、いたずらがバレた子どもみたいな顔で笑った。


「裏工作と言ったって、ほんの少しだけだよ。イェルドには安心して早く自国に帰ってほしかったからね。彼を邪魔に思う勢力が力を出せないように手を回しただけさ」


 その『ほんの少し』が、リビード王国第一王子の度重なる失態に繋がり、最終的に王子の母である王妃も一緒に失脚させたのだろう。

 ビアトリスはエドウィンの手腕に舌を巻く。




 ――――ここは王城のエドウィンの私室。


 誘拐事件後、帰城し治療を受けたエドウィンは、一週間の安静を言いつけられた。

 軽傷とはいえ銃による射創は見た目以上にダメージが大きい。銃弾そのもののスピードもさることながら火薬の影響も経過観察が必要で、甘く見てはいけないのである。


 一方、誘拐されたビアトリスは丁寧なケアを受け一旦ムーアヘッド公爵家に帰された。

 しかし、その後自らエドウィンの看病に名乗りを上げ、とんぼ返りしている。


(だって、心配なんだもの)


 今日から一週間、王城に泊まりこんで看病する予定だ。


「――――自ら名乗り出たっていうけれど、結局はエドウィンが言わせたようなものだよな?」


「そうですよね。『寂しい』とか『心配でたまらない』とか『側に姿が見えないと眠れそうにない』だとか、あれだけ書き連ねた手紙が届いたら、普通自分から看病しましょうかって言っちゃいますもんね」


 ビアトリスの隣で、わざと聞こえるように内緒話をするのはイェルドとエイミーだ。

 息ピッタリの言い合いは、なんだか夫婦漫才のよう。


(ホントに、いったいいつの間にこんなに仲よくなったのかしら? これでつき合っていないとか、考えられないわよね)


 イェルドへの好意を全否定していたエイミーだが、とてもそうは見えない。


 嘘をついていたのか?

 それとも自分で自分の気持ちに気がついていないのか?


 おそらく後者だろうが、しかしどちらにしろ、彼女がイェルドから逃げられるとは思えなかった。


(なんといってもラスボス攻略対象者なんだもの。それでもエイミーにその気がまったくないのなら、なんとかなるかもしれないけれど……)


 二人並んで立つ姿は、言ってはなんだがお似合いだ。

 エイミーもとっても幸せそう。


(イェルドルートのハッピーエンドは、茨の道とセットだけど……うん。きっとエイミーなら大丈夫なんじゃないかしら)


 頑張って! と、心の中でビアトリスはエイミーに声援を送った。


(監禁ルートにだけはならないように、エドさまにも注意してもらわなきゃ。大丈夫、エドさまならきっとイェルドだって抑えられるわ)


 誘拐事件後、あらためて話し合って驚いたのだが、なんとエドウィンには生まれたときから悠人の記憶があったのだそうだ。

 それであまりにも大人びた子どもだったらしい。


 前世のハイスペック悠人と今世のエドウィンの融合体なら、ラスボスイェルドだってきっと更生させてくれるはず。

 ビアトリスはそう信じる。


(それにしても、悠兄の前世の話はショックだったわ――――私が死んだ後の悠兄が、あんなに苦しんでいたなんて思わなかった。……私、悠兄は幸せな人生を送ったはずだって思っていたのに)


 そこまで自分を愛してくれていたのかと思えば嬉しいような気もするが――――。

 いや、やっぱりダメだ!

 悠人には、自分の分まで幸せになってほしかったとビアトリスは思う。


 イェルドとエイミーがくる前に、エドウィンと二人きりになったときに、ビアトリスはそのことについて、いっぱいいっぱい彼を叱った。



「千愛は――――私は、悠兄の笑顔が大好きだったのに! いつだって悠兄には笑っていてほしかった! なのに、どうして自分を大切にできなかったの?」



 この国の王子ではなく、千愛の幼なじみの悠人に戻ったエドウィンは、苦しそうな表情で「ゴメン」と謝った。

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