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ビアトリスの頬はカッカッと熱く、心臓がバクバクと早鳴っている。
(いやぁぁ~! 恥ずかしい!)
慌ててエドウィンから離れようとしたのだが、エドウィンは無事な方の右手一本で彼女の動きを止めてしまった。
「慌てなくても大丈夫だよ。騎士たちのところまでは距離があるから前世とかの話は聞こえなかったはずだ。――――まあ、イェルドとスウィニー男爵令嬢には聞こえただろうけれど、彼らは知っているからね」
耳元でこっそり囁かれる。
それを心配して焦ったわけではなかったが、騎士たちに話の内容が聞こえなかったと言われて、ホッと息を吐いた。
(いろいろ言っちゃっていたから、聞こえなくてよかったわ。……あ、でもじゃあ、エイミーはともかくイェルドも私たちに前世があることを知っていたの? エドさまが話したのかしら? それとも、イェルドまで転生者だとか……ううん、そんなわけないわよね?)
プルプルとビアトリスは首を横に振る。
「ビアーテ?」
「あ、違います。……あの、私、話を聞かれたかもって心配したんじゃなくて……ただ、エドさまが死んじゃうかもとか思って抱きついたり……あ、愛しているとか、いろいろ言ったりしたことが恥ずかしくて!」
自分が恥ずかしくなった理由を思い出したビアトリスは、またまた顔を熱くする。
「…………可愛い」
ポツリと呟いたエドウィンが右手に力を入れたのがわかった。
彼は、そのままビアトリスを引き寄せようとしたようだが、ペリッとその手をイェルドに剥がされる。
「こらこら、いい加減に離れろって言っただろう? ほら、担架こっちきて!」
イェルドに手招きされて、騎士が数名担架を持って走ってきた。
そしてエドウィンは、問答無用でそこに乗せられてしまう。
まあ、大人しく担架に乗せられたところを見れば、軽傷とは言え怪我の程度は酷いのだろう。
「ビアーテ、付き添ってくれるかい」
思った通りだったようで、エドウィンは担架から傷ついていない方の手を伸ばしてきた。
もちろんビアトリスに否やはない。ササッと近づいて彼の手を握る。
「うわっ! 素直に担架に乗ったと思ったらこれか。……ちょっとの間も離したくないとか、執着心が強すぎるんじゃないかい?」
イェルドが呆れたように肩を竦めた。
エドウィンは、ムッとする。
「うるさい! だったらお前も自分の最愛を誘拐されてみろ! 取り戻した最愛を、お前は離してやれるのか?」
「あ、それは無理だね」
イェルドは、あっさりと即答した。
「僕ならその場で監禁。一生解放してやれないかもしれないな」
――――さすがイェルド。ブレないヤンデレ監禁キャラである。
イェルドは意味深な視線をエイミーに向けた。
エイミーは、ブルッと震える。
「いやぁぁ~! 怖い~」
「大丈夫。誘拐されなきゃいいんだよ。僕から離れないでね、エイミー」
そう言って、イェルドはエイミーの腰を引き寄せた。
――――どうやら、エイミーのイェルド攻略は順調のようである。
(でも、怖い怖いと言いながら、結局エイミーもイェルドを突き放さないし、満更でもないのかな?)
エドウィンと相思相愛になったビアトリスには、もはやエイミーにエドウィンを攻略してもらう必要はない。
だから、エイミーにはこのままイェルドとハッピーエンドになってもらっても、まったくかまわないのだが、エイミー自身の気持ちはどうなのだろう?
(エイミーがベンさまにこだわる理由が私と同じなのだとしたら、彼女も本当の意味でベンさまを愛しているとは思えないのよね)
もっともそれはビアトリスの考えだ。
エイミーのことはエイミーが決めるはず。
そこにビアトリスが口を挟むことはできない。
そう思って、エイミーとイェルドを見ていれば、エドウィンと繋いでいた方の手をぐいっと引かれた。
「エドさま?」
「少し気分が弱っているみたいだ。もっと強く握ってくれるかな」
もちろん!
担架に寄り添ったビアトリスは、エドウィンの手を胸に抱えこむように握った。
ジッと顔を見つめれば、エドウィンは嬉しそうに笑う。
「うわぁ~。あんなちょっとの間でも、自分以外に注意を向けてほしくないなんて」
「…………狭量すぎですね」
イェルドとエイミーの会話も、ビアトリスの耳には入らない。
ようやく想いを通わせた恋人たちは、ずっと見つめ合っていた。
なんとか山場を越えました。
このお話も、あとは丸く収めるだけです。
ツィッターへの呟きにも追いついてしまいましたので、今後の更新速度は遅くなります。
今月半ばくらいまでには完結できる予定でいますので、最後までお付き合いいただけましたら幸いです!
<(_ _)>




